第7話 王都での出来事
一度、ギルドで魔剣を預かってもらうことにした。
この魔剣は邪心を養分としているらしく、人間が使えばまたあのオーラを放ちだすだろう。
そうならないよう、長老に魔剣を厳重に保管してもらうことにした。
「さすがは勇者様です! あの魔剣はギルドの方で誰の手にも触れない場所へ厳重に保管しておきますのでご安心を。 魔王討伐の後でお疲れなのは承知の上ですが、今一度王都へ御同行していただきます」
そうか、王様に魔王を討伐したことを伝えないといけない。
俺は長老の言うことに従い、王都へ再び行くことにした。
まあ、どこへ行っても報連相は大事だからな。
それも、王様のような偉い人ならなおさらの話だ。
さすがに気を失っているカルディアを一緒に連れて行くわけにはいかず、メランに見守ってもらうことにした。
そのメランは、カルディアに角が生えていたことを、まだ引きずっているようだったが、あえて何も言わなかった。
長老の馬車で王都に向かい、王兵に連れられ、俺は再び玉座の間にいた。
だが、少し違うのが王様の隣に俺と同じくらいな女の子がいたのだ。
「紹介が遅れてすまない。 我が愛娘のパシリスだ」
王様は女の子に手を向けて言った。
パシリスと紹介された女の子は礼儀をしつけられているのか、ドレスの裾を両手で軽く持ち上げた。
これは聞いたことがある。
両親曰く、西洋の方で広まっている女性の礼儀作法のようなものだったはず。
王様の愛娘と言うことは王女様か。
真珠のような白いキラキラした目をしているが、その表情はどこか悲しそうでもあった。
「コホン。 まずは此度の魔王討伐、誠に見事であった。 やはりユウの力は一級品であったな」
王女様の話はそれっきり何も話さず、王様は俺の魔王討伐の話に入った。
もう少し王女様の事について聞きたかったが、ここはぐっと我慢する。
「ついては、魔王討伐の報酬として100万Gを贈呈する」
この世界の通貨は俺が暮らしていた日本と少し違っており、上からG(ゴル)、S(シラ)、B(ブロ)の三つに分かれている。
1Gが10S、1Sが10Bとなっている。
つまりは、上から1000円、100円、10円と同じような感覚で大丈夫だと思う。
ってことは100万Gは日本円に換算すると10億円!?
そんな大金もらっていいのか!?
「無論、この報酬は国を救ってくれた礼としてはあまりにも少ないのだが、どうか受け取ってほしい」
王様はそう言うが、俺はここに来る前は高校生でしたよ?
10億円とかいう大金、もらったことも見たこともない。
王様からしてみれば、国を脅かす魔王を討伐したのだからこれくらい出して当然と思っているのだろうか。
やっぱり、俺のような凡人とはお金の価値観も違うんですね。
「その代わりとしては何だが、ユウに地位を授けようかと思っておる。 何か欲しい地位はあるか?」
ち、地位!?
それって貴族とかがつける爵位みたいなものか。
でも、それをつけられると何かとめんどくさいことに巻き込まれそうで嫌だな。
ここはやんわり断るか。
「いえ、地位の方は遠慮しておきます」
「そうか……」
王様は残念そうな顔をしている。
そんな顔をしないでくれ。
俺が悪いことをした気分になる。
「ならば、冒険者カードに勇者と記入しておこう。 ユウ、冒険者カードを出してくれ」
俺は王様に冒険者カードを差し出す。
ある意味、位がつけられたみたいだが、このくらいは問題ないだろう。
王様が俺の冒険者カードに手をかざす。
俺の冒険者カードがピカッと光った。
「これで、ユウはこの儂が認めたこの国の勇者じゃ!」
王様は冒険者カードを俺に返して言う。
王様の言う通り、俺の冒険者カードに職業欄が記入されており、そこに勇者と書かれていた。
今さらなんだけど、勇者って職業なのか?
「ではユウ、改めて魔王討伐、ご苦労だった。 それで、ユウはこれからどうするつもりだ?」
「そうですね。 この国も平和になったことですし、どこか他の所を見てまわろうと思ってます」
「そうか。 出来ればこれから魔王討伐の記念パーティーを開こうかと思っていたのだが、ユウがそう言うなら止めは――」
「いや、それにはぜひ参加させてもらいたいです」
俺は王様の提案に乗っかった。
魔王討伐の記念パーティーなのに主役がいないと盛り上がらないだろ?
それに俺は目立つのは好きではないが、こうやって祝われること自体は好きだ。
両親がいなくなってからの誕生日はいつも一人で寂しくしてたからな。
「そうか! ユウがそう言ってくれて良かった。 ではこれからパーティーの準備を始めるよう伝えよう。 おーい!」
王様は、入り口に控えていた王兵二人を呼ぶ。
王様から話を聞いた王兵たちは、即座に作業に取り掛かった。
「始まるまで時間がかかる。 準備ができ次第、メイドに伝えに行かせるとしよう。 それまでゆっくりしていてくれ。 そうだ、服の方はこちらで準備しておくから心配せずともよい」
王様にそう言われ、俺は王都を離れた。
玉座の間から出るとき、王女様が俺の方を見ていたような気がしたが、気のせいだろうか。
王都から戻った俺は、王様からもらった報酬を持ち、カルディアを寝かせているギルドの休憩室へ向かった。
「お待たせ。 今戻ったよ」
「ユウ様! 戻られましたか!」
「ユウさーん!!」
ベッドに座っていたカルディアが、俺の胸に飛び込んできた。
体の方は大丈夫なのか?
「私、いつの間にか気を失ってて、あまり覚えていないんですが、メランから聞くとユウさんは無事魔王を倒されたとか!」
カルディアは笑顔で俺に言った。
俺はカルディアの頭を撫でながら答える。
「まあな。 でも、この勝利は俺だけの物じゃない。 俺と一緒に戦ってくれたカルディアとメランがいたから、俺は安心して魔王を倒すことが出来た。 実質、俺たちの勝利だ! カルディアも頑張ってくれたんだろ?」
「はい! 私はユウさんのお役に立てたでしょうか?」
「もちろんだ。 ありがとう、カルディア」
「えへへ……」
カルディアは照れくさそうに笑った。
その表情は可愛らしく、愛おしく思えた。
それから俺は、カルディアとメランに魔王を討伐した記念パーティーを開かれることを告げる。
すると二人は目を輝かせて喜んだ。
「パーティーですか! 私、楽しみです!」
「我も人間とパーティーをするのは初めてだ。 どんなものになるのかわくわくするな」
そんな二人を見ながら、俺もパーティーを心待ちにしている。
この世界に来て初めてのパーティーだ。
楽しまない手はない。
パーティーが始まるまで、俺達は先に王都へ向かい観光することにした。
俺はここ数日で何回か王都に来たことはあるが、カルディアとメランはおそらく初めてだろう。
ならば、少しくらい観光してもいいのではないかと思ったわけだ。
実際二人とも王都に来たのは初めてらしく、俺が初めて王都に来た時と同じような反応をしていた。
「やっぱり王都って大きいんですね」
「そうだな。 俺達がいる街より何もかもが大きい。 初めて来たときはあまりの大きさに俺も驚いたさ」
俺達は人通りの多い道を歩く。
人の波に飲まれないよう、俺が真ん中で両端にカルディアとメランがいる。
まさに両手に花状態だ。
「これ、可愛いー!」
カルディアが興味を持ったのは、星がついた髪留め。
値段もそこまで高くないし、気に入ったのなら買ってあげることにした。
「これが欲しいのか?」
「買ってくれるんですか?」
「ああ、王都に来た証として持っておくといい。 おっちゃん、これ一つ」
俺はカルディアに星がついた髪留めを買ってやった。
早速留めてと言うので、俺はつけてあげる。
「どう? どう? 似合います?」
「ああ、似合うぞ」
「うん。 カルディアがまた一段可愛くなったな」
俺とメランはそれぞれ褒める。
「そうだ。 メランも何か気になるものがあれば、買ってやるぞ」
「わ、我は黒龍なのだから、そ、そんなものに興味はない!」
と、言いつつも目線は真っ赤なリボンを見ていた。
黒龍と言ってもメランは女の子なんだ、と再認識する。
俺はメランに真っ赤なリボンを買ってやり、伸びかけている左の角に結んであげた。
「ど、どうだ?」
メランは、リボンと同じくらい顔を真っ赤にして言った。
「うん、可愛いよ」
「メラン、そのリボン似合ってるー!」
俺とカルディアに褒められ、メランがその場にうずくまってしまった。
「もぅ…… 我はドラゴン族最強の黒龍なんだからな……」
メランが小さな声でそう呟いた。
しばらく、王都を観光していると一人の女性に呼び止められた。
服装からして、王様の言っていたメイドのようだ。
「王様からの命令でお呼びさせていただきました。 パーティーの準備が整ったとのことです」
もうそんなに時間が経ったのか。
ふと空を見ると、日は沈んでおり、もうすぐ夜になろうかとしていた。
王都は楽しい事ばかりだ。
また機会があれば寄ってみたい。
パーティー会場へ行く前に、俺達は着替えることになった。
王様が言っていた通り、服は用意されており、どれもがサイズピッタリ。
黒スーツに着替え、髪もしっかりセットされた俺は着替え終わった二人を見て驚愕した。
カルディアは、白を基調としたドレスに身を包み、俺が買ってあげた星の髪留めをつけている。
ドレスのおかげか、いつもより少し大人な印象を受けた。
一方、メランは黒龍としてのプライドがあるのか真っ黒なドレスを身に着けていた。
背中側がⅤの字にカットされており、いつもは感じない艶めかしさを感じる。
「二人とも、ずいぶん綺麗じゃないか」
「ユウ様こそ、そのスーツというもの、とてもお似合いだぞ」
「ユウさん、かっこいい!」
俺達はそれぞれ感想を言い合う。
そんな俺達にメイドが声をかけてきた。
「そろそろ始まりますので、ご案内してもよろしいでしょうか?」
すみません。 どうぞお願いします。
案内されたパーティー会場を見て、俺達は驚愕した。
さすがお城というべきか、これまで見たことのないきらびやかな装飾品で飾り付けられていた。
王都に来てから、驚いてばかりだ。
「皆様の席はあちらにご用意させてもらっています」
メイドに案内されたのは、いわゆる主役の席。
王様から近いその場所に座らされ、他の招待客と対面するような形になる。
俺達がこんな上座に座ってもいいのだろうか?
「大変長らくお待たせいたしました。 主役もそろったことです。 最後に王様方のご入場です!」
司会を務めているであろう男がそう言った。
俺たちの準備を待ってくれていたのか。
それはみんなに申し訳ないことをした。
盛大な音楽が流れ、後ろの扉が開かれる。
その場にいた者はみんな王様と王女様の姿に見とれていた。
さすが、この国で一番偉い人達だ。
その存在感は圧倒的だった。
王族らしくビシッと決めた王様に、俺と年齢が近いとは到底思えないほどの美貌を持つ王女様。
誰もがその美しさにうっとりしている。
ゆっくりと壇上に上がる二人。
そして会場にいる全員に向かってこう宣言する。
「皆のもの! 今日はよくぞ集まってくれた!! 今宵は無礼講じゃ!!!」
そう言ってグラスを掲げる王様。
それに合わせて歓声が沸き起こる。
それぞれの机の上に料理が並べられる。
どれもこれも見たことがない料理でどう食べればいいのか分からない。
「これって、どうやって食べるの?」
「おそらく、このナイフとフォークを使って食べるのだろう」
カルディアとメランは緊張こそしていないが、次々に運ばれてくる料理に興味津々だ。
そんな様子を見ていた俺に、王様が話しかけてくれた。
「ユウ、わざわざ来ていただいて感謝する。 今宵はユウが主役だ。 存分に楽しんでいってくれ」
王様と俺は軽い握手を交わした。
こんなパーティーはほとんど経験したことが無いが、案外楽しいものだと知った。
人に自分たちの功績が認められるって、こんなにも嬉しい事なんだ。
そう思うと、胸がジンと熱くなった。
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