第6話 魔王討伐しました
俺達はそれぞれ顔を見合わせる。
ごくりと息を飲み、俺は魔王城の扉に手をかける。
「じゃあ、行くぞ」
ギギギ……。
重い音が鳴り、大きな扉が開いた。
中を見て、俺達は愕然とすることになる。
魔王城の中には、魔物が大勢おり、皆がこちらを見ていた。
完全に目線が合ってしまったため、逃げることは敵わない。
街を襲っていた魔物とはまた違う魔物もおり、魔物が全員集合しているのか?
それにしても数が多すぎる!!
「俺は一人で魔王を倒しに行くから、メランとカルディアにこの場を任せてもいいか?」
俺は二人に言う。
こんなところで時間を使っていたら、いつまで経っても魔王に近付けない。
多少強引かもしれないが、こうするしか方法がない。
「任せてくれッ! ドラゴン族最強の我にかかれば、こんな魔物の群れ、どうってことないわ!」
メランは自身の胸を叩いて言う。
さすがはドラゴン族最強の黒龍。
頼もしい限りだ。
「わ、私にこんな大勢の魔物を相手できるでしょうか?」
カルディアはぶるぶる震えながら心配そうに言った。
そんなことを言うのも無理はない。
俺と初めて出会ったとき、魔物相手に何も出来なかった事があり、それで怖いんだ。
自分が死んだらどうしよう。
大ケガをして治らなかったらどうしよう。
そんな思いがカルディアの頭の中をグルグルしているのかもしれない。
俺は未だ震えているカルディアの頭に、ポンと手を置く。
「そんなに構えることはない。 カルディアにだってできるさ。 なんて言ったって、俺にでも出来たんだから」
カルディアにそう言いながら、続けてメランに小声で言う。
「メラン。 カルディアを守ってやってくれよ」
「任せてくれ!」
メランはエッヘンとばかりに言った。
まあ、ドラゴン族最強のメランに任せておけば大丈夫だろう。
「では、道を開けるぞッ!」
メランが大きく息を吸い始める。
俺に使ったあのブレスを、この魔物の群れに使うようだ。
「ごあぁぁぁあああ!」
俺達に襲い掛かろうと近付いていた魔物たちが、メランのブレスによって跡形もなく消えていく。
これがあの時のブレスかと思うと、あの時防いでくれたカルディアには感謝しないといけない。
メランのブレスによって開けた道を俺は走る。
「ユウ様! 御武運を!」
「け、ケガだけしないでくださいねえーー!!」
二人の言葉を背に、俺は急いで魔王の元へ向かう。
どうやら魔物はあそこに集めていたようで、魔王の元に行くまで一体の魔物に出会うことは無かった。
階段を駆け上がり、俺は魔王の元にたどり着いた。
バカでかく、豪華な装飾がされた扉があり、ここが魔王の間なのだと一発で分かる。
俺は勢いに任せて、その扉を思い切り開く。
しかし、中には誰もおらず、シンとしていた。
もしかして、もうどこかに行った後なのだろうか。
微かに邪悪な気配を感じる。
姿こそ見えないが、魔王がこの場所にいることは確かなようだ。
俺はどこから攻撃がきてもいいように、勇者の剣を構える。
しばらく、沈黙がその場を支配した。
俺は目を閉じ、全神経を研ぎ澄ませる。
その瞬間、俺の真後ろから気配を感じた。
キィーン!
まさかの真後ろから不意打ちを受けたが、女神の恩恵なるものによって防がれた。
なるほど。 女神の恩恵はこういったものなのか。
「儂の不意打ちが失敗しただと!?」
そう言った魔王は、大きなマントをはおり、今まさにこの俺を切り裂こうとしていた。
頭には大きな角が二本生えており、鋭く尖っている。
顔には仮面をつけていて、素性が分からなかった。
「魔王でもあるお前が、そんな手を使うものだとは思わなかった」
「黙れッ! 封印されていた時間があまりにも長すぎたから、色々と作戦を練っておいたのだ!」
声から察するに男のようだが、何せ顔が隠されているため判別ができない。
「こうなってしまっては仕方ない。 正々堂々と戦うとするか!」
魔王は手に持つ剣を俺に向ける。
その剣は俺の持つ勇者の剣と酷似しているが、まとっているオーラが異様なものになっていた。
その姿を見て、俺も魔王に向けて剣を構える。
数秒後、俺と魔王はお互いの剣を交わしていた。
ほぼ互角だが、魔王の方が少し力が強く、押されている。
「どうした勇者よ。 ずいぶん衰えたものだな。 あの時の戦いは誠に愉快だったぞ?」
魔王の言うあの時とは、伝説の勇者と戦った時の話だろう。
だが、今ここで魔王と戦っているのはそんな伝説の勇者とはほど遠いただの高校生。
力の差など見なくとも分かる。
「あの勇者じゃなくて悪かったな! 俺はホシミヤユウ! 今はこの世界を救うたった一人の勇者だッ!!」
俺はさらに力を込め、魔王を押し返す。
あの時の勇者ではないことに気づいた魔王は、大きく笑い出す。
「はっはっは!! あの勇者は息絶えたか! 全く、つくづくこの世界は儂の思い通りに事が進む! この戦いもそうだろ?」
魔王は俺から距離を取り、両手に魔力を込め始めた。
「あの勇者が死んだ今、儂を止めるものはこの世に存在しない! この世界では、儂が最強なのだ!!」
そう言いながら、魔王は俺に向けて炎弾を放ってきた。
魔王が放つ炎弾は、壁に当たり小さな爆発を起こす。
上手く避けることが出来たが、もし当たっていたかと思うとゾッとする。
「ふははは!! お前には魔法が使えないだろう? 残念だが、儂の完全勝利だな! これで――終いだ!」
魔王は自らの炎弾を剣にぶつける。
魔王の剣が炎を纏いはじめた。
俺と魔王には距離があるが、それでも感じる。
あれはヤバイ、と。
そのまま炎を纏った剣を持ち、俺の方へじりじりと近付いてくる。
何か、何かこの状況を打破できるものはないのか!?
俺はとっさに自分に何ができるか考える。
しかし、焦っているためか、頭がうまく働かない。
「くそっ……」
どうすればいいんだ。
魔王がこちらに向かって歩いてきている。
どうする。
どうしたらいい。
考えろ、考えるんだ。
このままでは殺されてしまう。
まだ死にたくない!
メランとカルディアも必死になって戦っているんだ!
それなのに俺はこんなところで終わろうとしているのか!?
「万策尽きた、か。 つまらんな、今回の勇者は。 全く手ごたえが無かった。 ならば、せめて苦しまぬよう一撃で殺してやろう」
魔王が剣を振り上げる。
ここで俺の異世界生活は終わってしまうのか!?
俺は何も出来ず、ただ目を閉じることしか出来なかった。
魔王が剣を振り下ろす。
俺の体は真っ二つに――ならなかった。
俺の持つ勇者の剣が光を放っており、俺を魔王の攻撃から守ってくれたのだ。
「ちぃッ! そういえば勇者の剣にはそんな能力もあったな。 持ち主が危機感を察した時、一度だけその相手の攻撃を防ぐことができる。 長らく封印されていたせいで忘れていた」
俺は勇者の剣に感謝しつつ、再び剣を構えた。
「だが、それが今さら何だというのだ。 この状況を覆すのは無理だ。 諦めて儂に殺されろ」
「残念だが、そういうわけにも行かないんだ。 俺の帰りを戦いながら待ってくれている奴らがいるんだ。 そいつらとの約束を破る訳にはいかない!」
剣を構えたまま、魔王に突撃する。
案の定、魔王に剣で防がれた。
「ほう、お前には仲間がいるのか。 では、その仲間の思いともども踏みにじってやろうッ!!」
魔王の剣がどす黒いオーラを放ちだす。
そのオーラに触れているだけで、吐きそうになる。
「このオーラこそが我々魔族が持つ邪の心、通称邪心。 人間の負の感情を源とし大きく増幅していく。 その邪心を込めた剣こそが、儂の持つ魔剣なのだ」
魔王がそう言ったとき、俺の持つ勇者の剣も光を放ちだす。
「では、俺はその邪心を払い、世界に希望を見出す光となろう! この世界に邪心なるものは必要ないッ!!」
勇者の剣が放つ光がドンドン強くなる。
持っている俺ですら、もう剣が見えない。
「なぜそれほどまでの力を!? あの時のその剣にそこまでの力はなかったはず……!!」
魔王が勇者の剣を見て、恐怖を感じている。
今がチャンスだ!
「俺は魔王を倒し、この世界にもう一度平和を取り戻すんだああああああ!!」
そう叫び、俺は勇者の剣で魔王を真正面から斬った。
「ぐおおおお!! 勇者よ、これで終わりだと思うなよ! 儂は必ず蘇りお主の首を今度こそ斬ってやるからな! 首を洗って待っていろ!」
そう言い残し、魔王は散った。
俺はとうとう魔王討伐を成し遂げたのだ。
魔王が散ったその場には、もう何もオーラも感じない魔王の魔剣が落ちていた。
ひとまずこれはギルドに持ち帰り、厳重に保管してもらった方がいいだろう。
俺は魔剣を拾い、メランとカルディアの元に向かうことにする。
その時だった。
「きゃあああああああ!」
下の階から、耳をつんざくような叫び声が聞こえた。
その叫び声を聞き、急いで二人の元へ向かう。
下の階には魔物の死体がそこら中に散らばっていた。
本当にやってくれたんだな。
心の中で感謝しつつも、さっきの叫び声の事をメランに聞く。
「メラン! さっきの叫び声は何だ!?」
「ユウ様! ご無事でしたか! いえ、先ほど最後の魔物を倒し終え、一息つこうとしたところカルディアが急に叫び出し、そのまま気を失ったんだ」
メランの言う通り、カルディアは地面にぐったりしている。
胸が上下していることを確認できたので、俺はホッとする。
「それで、聞いてくれ! カルディアに角が生えてるんだ!」
カルディアに角?
そんなことある訳ないじゃないか。
カルディアは人間だぞ?
人間に角が生えることがある訳ない。
と、思いつつも、俺はカルディアの前髪をあげて確認する
「何もないじゃないか」
そこには綺麗な白いおでこがあるだけだった。
戦い疲れて、メランは幻覚でも見たんだろう。
そりゃあ、これだけの魔物を倒したんだ。
幻覚の一つや二つくらい見てもおかしくない。
気を失っているカルディアを背負いながら、魔王城を後にする。
もちろん、腰に魔剣と勇者の剣の二つをぶら下げながら。
その間もメランはカルディアに角が生えていたことをブツブツ言っている。
メランがブツブツ言いながら、ドラゴンの姿になった。
別に責めているわけじゃないんだから、そこまで重く受け止めなくてもいいのに……
それからメランに乗り、一度ギルドへ向かうことにした。
魔王討伐なんて絶対にできないと思っていたが、出来てしまったことを信じれていない自分がいる。
やってもいないことをできないと決めつけるのは良くない。
俺は異世界で改めてそのことを学んだ。
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