57 はじめましてが二回目だな
「はじめまして……ですか」
とりあえず手を握っておく。
そして顔を見る。コイツ、もしかして……本当に覚えていないのか?
嘘を着いているような顔ではない。それに、あの時のような覇気が感じられない。
「はじめまして……ではなかったでしょうか。申し訳ない。となると、あっちの私ですかね」
「……????? えぇっと……ええ?」
あっちの私? どっちの私だよ。こっちか、そっち。一体どうなってるんダヴィンチ。
「カシ。これが陛下なんだ」
「おぉ! イリア! 久しぶりだね。元気にしていたかい?」
「え、えぇ」
「……もしかして、人格が二つ?」
……解離性同一性症。皆がしってる二重人格ってやつだ。
国王様はにこと寂しそうに笑った。
「すまないね。私は、その……二人いるみたいなんだ。そちらの方が攻撃的でね。でも、まぁ、悪ガキみたいな感じかな」
うわぁ、オレを殺そうとしてきたやつがニコニコ笑ってんの怖ぇ……。
手を握ったぶんぶん振ってきた。ルポムもレイもそのまま硬直してる。
「基本ベースは私なんだが、時折あっちになるみたいでね。その時にたまたま会ったのかもしれないね……ジュリアス、ぼくは彼らと面識が?」
「はい、陛下」
「……なにかしてしまったかい?」
「おっさんは、このカシを殺そうとしたんだよ」
ルポムが髪の毛をくしゃくしゃと掻きながらそういった。
「本当ならぶん殴ってやろうかと思ってたのに、なんか腰が折れた気分だよ」
「その話は本当なのかい」
「……はい」
「申し訳ない、カシくん。私の無礼を許してほしい」
「え、あ、えーっと……まぁ、そのあなたがした訳ではないですし……」
「それで顔が強張っていたのか……すまないね。ささ、とりあえず座っておくれ」
あなたがしたんですが、あなたはしていない。日本語って難しいな。
ふかふかなソファに座った。体が吸い込まれていった。
「本題に移る前に謝罪を。申し訳ない。制御できたらいいのだが、それもできないのでね……どうしたものかと頭を悩ませているよ」
机に座って腕を組む。一々ポーズがかわいいな。
外面は怖いのに、中身が優しい男になってるのはなんとも。
「でも、そんな状態だと仕事に支障が出るんじゃないか?」
「出まくりさ。正直に言って、困ってる。ジュリアスを中心に、騎士団……といっても分かってもらえるかな。王室に仕えている団員には伝えているんだ。……で、あっち側が出た時は諸々と仕事は任せてるのさ」
大変だな。いや、ほんとそんな感想しか出てこないけどさ。
記憶が引き継がれないみたいだし。それが辛いな。
「ぼくの話はいいのさ。今日は魔女を倒してくれた君たち……特にカシくんに話があるんだ」
「オレ?」
「うん。直接見せた方が早いかな」
見せる……?
ごそごそと机の引き出しに手をのばす。なんだ、エロ本でも出てくんのか。
「コレを見てくれないかな」
出した紙切れをジュリアスが受け取って、こっち側に持ってきた。
そこに書かれていたのは……若干既視感があるものだった。
「それは、
「あるかな……とはなんですか、ルポム」
「えっ、オレかよ。真剣に聞いてたのに。そんで知らねぇし」
「
「お、ジュリアスさん。解説ありがとうございます。引き続き、お願いします」
「分かった。……脚が早い。力が強い。頭が良い。僕たちには色々と能力があるんだけど、それは僕たちには見えないものだ。本来見えるものではないし、見えてしまうと色々と不味い」
「不味い……?」
「嘘が付けなくなる」
「なんだそりゃ。つけるんじゃないのか?」
「付ける嘘もある。でも、隠しておいた方がいいものや、ついたほうがいい嘘というものもある」
なんだなんだ。哲学か? わかんないことばっかり言い出したぞ。
嘘とはなんぞや。人はどうして生まれたか。なんで歩行者優先を守れないのか。
「つける嘘だと……例えば、付き合いが面倒だから『明日は予定があるんだ』とか、仕事をしてきていない口実に『昨日は予定が入って』とか。まぁ、許さないんだけどね」
「で、つけない嘘は?」
「身分や能力はもちろんのこと、名前、年齢、性別、種族、信仰対象、好きな人、嫌いな人、家族構成……そして極めつけは経験人数と回数とかね。一人で慰めた数は見えないから安心して」
「…………えげつないな」
個人情報丸出しじゃん。
そんなの見えたら、えっ、なに。
少女漫画とかで「好きです付き合ってください!」っていうヤツにそれをしてさ、実は好きじゃなかったとか。
兄妹で恋愛をするやつで実は血のつながってない兄妹ってことが二話くらいで分かって、幸せだったとか。
オレが大嫌いな『NTR』で、ある日、旦那か奥さんの好きな人が変わってたりさ。経験人数とか回数が分かってさ。
うわっ、つら。えっ、脳みそ焼ききれるが??? 脳みそフライパンで焼くつもりかよ。魚とか家畜の脳みそでもしねぇのに。
あとは……あとは、なんだ?
シンプルに上司のことが嫌いとか、やたらやばいヤツがトップの組織だったら「貴様、オレのことが嫌いなんだな!」とかなってバッサリ行くじゃん。
うわっ。すご。なにそれ。
「で? それでそれで?」
オレ、興味津々である。
「それを見てほしいんだ。そこには勇者様の
「!!!!!!!!!! レイの経験人数が分かるってことか!!!!!!!!!???????????????」
バッとレイを確認。顔を真赤にしてもじもじしてる。
ルポムとかもその手の話が好きなのか、ソファから若干腰が浮いてる。
「いや、そこらへんのことはかいていない。書き写しだからね」
「「なぁんだ」」
「カシ先生……そんなに気になりますか?」
「いや、いい。ちょっとおもしろそうだから気になっただけ」
恥ずかしそう。大丈夫だよ。ごめんね。男だから気持ちは分かるよ。
「それで……何が書かれてるってんだ?」
「あ、ちょっと興味なくなったかな」
「こんな初な勇者くんの経験人数とかちょっと見てみたいだろ、ふざけんなよ」
「たしかにそうだね。村娘とか、村の大人に襲われてそうな見た目だ」
「な〜。田舎ってことはすることないんだろうし、勇者ってなった瞬間、そういうの無かったのか?」
「………………ない、ですよぉ」
あ、これあるヤツだ。
ショタめ。頭から湯気が出てるぞ。
「話をしていいかい?」
国王様がにこにこと参戦。悪い悪い。
こういう話は普段しないから、たまにすると楽しいんだ。
「すまんすまん。で、この紙切れでいいたいことっていうのは?」
「見てもらった方が早いよ」
「レイの個人情報だろう……まぁ見るか」
そこに書かれていたのを左から右に目を流してみてみる。
ふむ。レイのことが書かれているな。
【 名 前 】レイ
【 職 業 】勇者
【 力 】50+40(
【 耐久力 】30+50(
【 素早さ 】90+10(
【 賢 さ 】50
「ん。この+ってのは」
「その横にある文字を見てほしいんだ」
「横にある文字……あ──」
【 力 】80+40(筋トレ)
「筋トレ……?」
「そう、その筋トレっていうのに見覚えはないかな?」
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