56 王城に招待されたみたいだ



 王城に招待されたときは正直困惑したが、魔女の討伐の功労者を労うためなら悪い気はしない。

 その魔女さんは筋肉痛で枕を濡らしてるけどな。

 

 で、肝心のパーティー会場ってのがここか。

 屋外なんだな。広場みたいなところで簡易的なテーブルとか椅子を用意してる。大家族のバーベキューみたいなもんか。海外スタイル。


「訓練場とはまた違うところなんだな。にしても広いな。それに、みんないい体をしてる」


「国に仕える兵ばかりだな」


「イリア教官は兵隊さんだったのですか?」


「だな。騎士団というところに所属をしていた」


「騎士団だ、兵隊だの違いが分からん。ってか、これってもう食べていいのか? 俺ら抜きで始まってるみたいだけど」


「いいんじゃね? あー、でも……」


 PFCバランスをチラ見。揚げ物とか、簡易的に食べることのできる料理ばかりだな。

 炭水化物ばかりの料理。脂質ばかりの料理。肝心のたんぱく質をないがしろにしてる。

 外食って大体こんな感じになるよなぁ……分かるよぉ、分かる。

 国にいる料理する人も大変だろうからな、油で揚げるだけだと何でも美味くなるし、調理工程も簡単だしな。

 

「こういう料理ばかり食べてたのか?」


「私が居たときか? いいや。料理をつくるおばちゃんに料理を作ってもらっていた。美味しかったぞ」


「専属料理人みたいなもんか。いいな、それ」


 所謂、このパーティー会場に並んでる料理っていうのは『クリーンな食事』ではない。

 もちろん、美味しいものではあるが、脂質が多く、炭水化物も摂りすぎになりがちだ。運動量が多い軍隊ってところでは、ある程度のジャンクフードを食べても良さそうではあるがな。

 

「なっ、なにを食べてたんですか!?」


 レイくん興味津々だ。散々「食事で体を作る」って言い続けてたからな。気になるんだろう。


「肉と白米だ。昔に外国に遠征に行った時に出会った米がうますぎて、そこからわざわざ取り寄せてもらってるのだ。それと肉を食べるのが好きでな」


「肉は牛の肉か?」


「気分によって変えてはいたが、牛とか鳥とか、たまに豚も。が、牛が美味い。私だけ特別に手の混んだ料理を作ってもらうのもアレだったからな。シンプルにしてもらってたんだ」


 イリアがデカイ理由が分かった気がした。


「──あれが魔女を倒したっていう奴らか?」


 ん? 声が聞こえてきた。こそこそ話してるみたいだ。


「隣にいるのは……騎士団のイリア様じゃないか」


「その他は? 知らんな。あの金髪は勇者だろ?」


「どうせ、イリア様が倒されたのだろう。あの角折れパンジー異邦人フォーリナーは付き人か」


 わざと聞こえる声で言ってるのはアレか? そういうアレか?

 腹から声を出しすぎて声量が抑えられないのか?


「黙らせようか」


「なんでだよ。元職場だろ。やめろやめろ」


角折れパンジーって言われたの久しぶりだな。やっぱり王国。元気がいいな。モグモグ」


「ふふふ。大丈夫ですよみなさん。そのうち、お二人の強さに気づくときが来ます」


 ドヤ顔してるの面白かわいいな。


「レイはちょっと逞しくなったな。で、ルポムはつまみ食いしすぎだ」


「お呼ばれしたんだから食うだろ。ほら、カシも」


「まぁー、そうだな。今日くらいは食べよう。お呼ばれされたのに食わんのは失礼か」


 その前に頭を撫でておく。ふたりとも丁度いい身長だから良いんだよな。イリアは撫でんぞ。オレよりデカイしな。頭を下げてきても撫でないって。


 もぐもぐぱくぱく。うん、ビュッフェ形式だから美味いものを好きなだけ食える。

 ルポムは食事は美味いものを食う派だったらしいから、こういう場は我慢がならんのだろう。

 

「ぼくも好きなだけ、食べて、いいですか!」


「あぁ、食え。食ってでかくなれ」


 周りの目が気になる中、料理を食べに行ったレイとルポム。

 屈強な者たちの間に割り込んで飯を取って食べてる子どもたち。微笑ましいな。


 今日はお呼ばれされたから、金とか払わなくてもいいよな?

 さすがに大丈夫か。食べただけ払えとかないか。

 

「あ、美味い。揚げ物って美味いよな」


「カシも食べるんだな。嫌いかと思ってた」


「揚げ物嫌いなヤツいるか?」


「あっ、お二人さんっ……! 来られてたんですね」


「「ん」」


 兵士たちをかき分けてやってきたのは、いつぞやのイリアの同僚。

 金髪、イケメン、むきむき。

 えーと、名前は……あー、悪い覚えてないかもしれん。


「ジュリアス」


「ジュリアス!」


 そうだ。そうだ。ジュリアス。うん。

 失礼、名前を忘れてしまった。すまない。 

 頭を下げると「?」と小首をかしげられた。


「魔女を倒してくれたらしいね。助かったよ」


「そんなやばいやつなんだな、魔女って」


「そりゃあね。カシさん……だっけ。カシさんは魔女のことをあまり知らないのかい?」


「知らん。が、たしかに危なっかしかった。な、イリア」


「ああ。魔法をあそこまで高度に使うものは見たことがない」


 一瞬ゲームの世界に迷い込んだのかと思ったくらいだ。

 異世界であって、ゲームの中ではないからな。いや、同じようなもんか……? っと、ジュリアスがこっちに話に来たことで警戒してた人らの視線が優しくなったな。 


「ほお。イリアがそこまで評価を」


「ジュリアスでも倒せたかも知らんがな」


「倒す自信はあるよ。でも、勇者の腕試しで依頼されたんだ。まさか、君たちが噛んでくるとは思ってもみなかったんだけど」


 肩を竦めて周りを睥睨すると、オレとイリアに耳打ちをしてきた。


「ここじゃあちょっとアレだ。場所を移そうか。お連れの勇者様も含めて、ね」


 ウィンクをするイケメンは反則でしょう。

 スマイルくださいって言ってももらえないレベルのいい表情だ。

 お持ち帰りはしないがな。


 美味しそうにご飯を食べていた二人を連れて、ジュリアスに着いていった。

 王城の廊下を抜けていく。その脇に立っている兵士に会釈。無反応。置物だった。泣きわめくぞ。くそが、恥ずかしい。


「ンだよ〜、まだ飯食ってんだろ〜?」


「ははは。悪いね。でも、連れてこいって言われたからさ」

 

「連れてこいって……誰にだよ」


「ここは陛下の部屋に続く道だな」


「さすがイリア。よく分かってる」


 ルポムとオレが嫌そうな顔を浮かべる。まぁ、オレを殺そうとしてきたやつだしな。

 何食わぬ顔してるが、内心ビビり散らかしてます。

 

「ここだ。じゃあ、入ろうか。中でお待ちだから」


 デッカイ木製の扉に金色の装飾。両脇には……羽の生えたなんかごつい動物の銅像が台の上に乗っかってる。

 なんだあれ。異世界には分からんことが多い。元の世界でも分からん動物が多かったのに。


 ジュリアスがノック。あ、二回だ。あ、もう二回した。四回?


「入れ」


「失礼します。陛下、お連れいたしました」


 ガチャッと扉を開けて中に入ると、そこは少し金臭い社長室みたいな場所だった。

 当然、奥の机に座ってるのは国王陛下。今日は眉間にシワが寄ってないんだな。


「おぉ、来てくれたか」


「!??」


 えっ、笑った? うそ、え、笑った??

 笑顔で机を立って、こっちに歩いてきてるんだけど。

 そして、ズイと手を出してきた。


「はじめまして、この度は魔女討伐に力を貸していただいて誠に感謝しているよ」


「…………?」


 はじめまして、だって?

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