54 双子との初セッション
魔女との買い物が終わって帰ると、マレウス邸がちょっとざわついていた。
オレがいないというところから始まり、今朝知らない女性と一緒に街に行ってた、となり、連れ去られたんじゃないかとかなんとか。
おれって、そんな風に思われてるの?
その誤解を晴らすのに時間がかかった。魔女と買い物しに行ってたっていうと、またぎゃあぎゃあ言われたが。
結構、危ないことをしたんだぞ……! だってさ。
そんなに魔女って皆から嫌われてんの? 当の本人、そんな様子がなく、めちゃめちゃ楽しんでたけど。
とりあえず反省をしておきました。すみません。
朝早かったこともあって、人通りも少なかったからな。なんか「コイツは魔女……!?」って分かる人には分かるみたい。
魔女探知機でもあんのか? 金属で体ができてる訳でもあるまいし。
「二人はまずは柔軟から始めようか」
反省はしたが、別に悪いことをしたわけじゃあない。楽しかったからな。なので、さっそくナーウィスとフェイラーとのトレーニングをしよう。
「トレーニングじゃなく、じゅうなんですか?」
「おいおい、柔軟も立派なトレーニングだぞ?」
二人はそもそもまだトレーニングをするような状態ではない。
ので、その期間をつかって肩甲骨回りのトレーニングをしておこうと思いました。
「でも、柔軟っているのか? なぁ」
「うん……」
二人はしたくなさそう。
ルポムとのトレーニングを見たからか知らんが、二人はそれができると思っていたみたいだ。
説明不足すみません。反省してます。捨てられた子犬みたいな顔で謝ります。
えっ、このハンバーガーが食べられるの!? って思って注文すると、重力にまけたのか神様のいたずらかぺっちゃんこなハンバーガーが出てきた時と同じくらいしょぼくれてる。
柔軟はぶっちゃけ地味だからな。めんどくさいし。でも、筋トレをする上では柔軟は大事なのですよ。それを教えてやろう。
「じゃあ、まず柔軟性がある人とない人の違いを感じることにするか」
冷えた胸肉と解凍された胸肉を用意。うぇ、つめてっ。
「えっとだな。これがなにか分かるか? 鳥の胸肉って言うんだが」
「それくらい分かるぞ」
「なら良し。じゃあ、この二つの状態の違いは?」
「凍ってるか、そうじゃないか……?」
「そのとおり。凍ってるっていっても、かちこちじゃなく半解凍みたいなもんだ。フェイラーも話についてきてるか?」
「はい」
「よし。で、何も考えずに見ていてほしいんだが……よいしょっ」
半解凍の胸肉を引っ張って、ぐにぐにと形を変えようとする。
「あまり動かないよな。で、無理すると、ちぎれる」
次は解凍済みの胸肉で同じ動作をしてみる。
「こいつは中々ちぎれんだろ? さっきやろうとしてた動きもできるし、ある程度ならいけるわけだ。固まりかけてるのが柔軟性がなくて、普通の状態だと柔軟性があったよな。これ、二人の筋肉と一緒だ」
「……いや、たとえの話だろ」
「そうとも言い切れんのよ。今回はたとえが極端過ぎたからあれだが、柔軟性がない筋肉と、温まっていない筋肉ってのは怪我をしやすい」
さっきの胸肉が、実際に自分たちの胸筋だったとしよう。
体が温まっていない状態でダンベルとかバーベルを持って、無理な姿勢になった瞬間『バチンッ』といく訳だ。
それにコレは筋肉だけじゃなく、関節の話もそうだ。関節を怪我したら最悪手術だ。筋トレをする人は関節を大体やってる節がある。
『オレは大丈夫だよ』
とかいうそこのキミ。いいからウォーミングアップだけはしてくれ。
怪我をして筋トレが嫌になったっていう人、知り合いに何人かいるからな。頼むぞまじで。ちなみに、オレも何回辞めたくなったことがあるくらいだ。
「で!! 今の二人の筋肉は、冷えた胸肉だし、そもそもの柔軟性がない。怪我する。オーケー?」
「……分かったよ」
「といっても、じゃあ柔軟性だのなんだのっていうのは筋トレをしていく内についてくるもんだ」
ぽかんとした顔をしたな。さっきまでの話なんだったんだって顔してる。
「でも、これだけは意識的にやっておいた方がいいストレッチを教えます」
「……?」
「肩甲骨まわりのストレッチと筋肉ほぐしだ。はい、みんな大好きストレッチポール」
準備しておいたイボイボのストレッチポールをじゃじゃーんと出す。無反応。そりゃあそうだ。
「武器……?」
「いや、たぶん、地雷とかだよ」
「違うっての。試しにやってみるか」
さぁ、二人はどんな反応をしてくれるか楽しみだ。
◯ストレッチポールの使い方。
ストレッチポールの上に寝転がって、固まっている筋肉を解す。脚とか腕とか。
以上。終わり。それだけ、わかりやすいだろ?
が、これ初めてのときはきっついんだよ。
「いっっっっっ〜!!!!!?」
ナーウィスは体がかたい。背中とか脚とかが特にしんどそうだな。
「ひぃぅっ……っっぅうううううっ〜!!」
フェイラーも同じところが硬かった。涙がでるくらい痛かったか。
その後、肩甲骨のトレーニングもしてもらって二人の最初のトレーニングは幕を閉じた。
あ、カウンセリングしてない。
……マシンを使い始めてからでいっか。まだ体も万全じゃないし。
「その二つのポールは貸し出すから、暇があったらゴロゴロするんだな。あと肩甲骨のやつも!」
「ふぁい……」「はいっ……」
ストレッチポールを小脇に抱えて、二人は納屋を後にした。
ありゃあルポムに愚痴りそうだな。でも、柔軟性とかは後々重要になってくるから早いうちに取り組んでおいた方が良い。
「じゃあ、オレの方もやりますか……」
MPストアを開いた。
今日はオールインワンラックを購入してから丁度一ヶ月後。
そう、初月の支払いの日なのだ。
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