53 男の子は理由もなく武器が好き


 街に着いて魔女をおろそうとしたが、ほとんど気絶してる状態だったからそのまま買い物を続行。買うものは決まってるが、人数が増えたから多めに買っておかないとな。


「おぅ、今日は兄ちゃんか。安く仕入れといたぜ」


「お、マジ? ありがたい」


「いいってことよ。小さな店くらい買っていくもんだからよぉ、こっちとしても願ったり叶ったりさ」


 アッパコムが値下げ交渉をしておいたって言ってたな。確かに鶏肉はかなりの頻度で買うしな。あと牛肉だ。ブルの肉は高いんだよ。

 

「で、その上のお嬢ちゃんは……」


「寝てるみたいだから心配せんでいいぞ」


「いや、兄ちゃんの髪に大量のヨダレが……」


「きにせんでいい」


 いつもどおりの商品を買っていき、マレウスの便利な袋に入れていく。

 ここまではただの買い物だが……もう少し羽を伸ばしてみるとするか。

 

 オレの行動範囲はマレウスのお家からこの商店街と一回行ったきり王様が住んでるお城と飲み屋街だけ。あと冒険者組合か。

 なので、行ってみましょう未開の地へ。


「うあ!! ここは、どこですか!」


「そういえば、クラシキの言ってた猫ってのはどこにいるんだ?」


「えっ……ねこ……あぇ……じゅるっ、うぇ。何の話?」


 袖で頭の上のヨダレを拭くな。勘弁してくれ。


「おはよ」


「…………〜……ぬぃ、あっ、走ったでしょ」


「走ったな」


「死ぬかと思ったわ」


「死んでも死なんヤツがなに言ってんだ」


 上にいるやつをぶん回して、到着したのは古民家みたいな場所。

 店の前に樽の中に入った武器とかが見える。


「ここは武器屋か?」


「じゃない? あまり繁盛はしてないみたいだけど」


「男の子ってのは武器とかワクワクするからな。中に入ってみるぞ」


「はいはい。お小遣いの中でとどめっ──ぐぅ〜……壁っ……!!」


 上でドゴッと重々しい音が聞こえたが、大丈夫だろう。

 

「お〜い。勝手に見させてもらうぞ〜」


 おぉ、武器屋さん。こんな感じか。

 買うつもりがないから冷やかしにはなるが、こういうのを見るのは好きだ。

 ナイフを意味なく構えてみたりな。なんなんだろうな、アレも中二病っていうのか?


「鎧もあるのか……曲がった剣となんか名前が分からんやつと名前が分からん細いやつ……と、なんだこれ。ぎざぎざ。包丁のデカイの」


「ククリナイフとクレイモアとレイピアと、それを壊すためのソードブレイカーとマチェーテね」

 

「おっ、魔女は博識なんだな」


「こら。外で呼ぶな。呼ぶ時は名前でね?」


「はいはい倉敷倉敷」


「よくできました」


 くそが。結局呼ぶことになったし。いや、まて。オレは倉敷ナンバーの車が怖いだけで、倉敷自体は嫌いじゃない。呼ぶこと自体はいいのでは。


「……やっぱり長く生きてりゃ武器の名前とか覚えるもんか」


「あなたが知らなすぎるのよ」


「そりゃあ、オレは岡山出身だからな」


「おかやま……」


「あ、オイ! 勝手に入ってこられると困るよ!!」


 奥からドタドタと出てきた人物に押されて店の外にまで追い出されてしまった。

 そしてピシャンッと閉まる扉。今度はうまい具合に屈んでぶつけなかったみたいだ


「残念だったわね。まだ開店準備とかしてる途中だったんじゃない?」


「…………」


「どうしたの?」


 押された背中を擦る。力強かった。

 それに声的に女性のようだったし……まぁ、いいか。


「いいや、なんでもない。次の場所に行ってみようぜ」


「おっ、じゃあ次は……そうね、美味しいごはんが食べたいわ。甘いの」


「だからそんな体になるんだぞ」


「いいじゃない! 美味しいものを食べてふかふかの布団で寝る! 人生一回きりでしょ?」


「ほぅ。クラシキはそっち派か。オレは人生が一回きりだからこそ鍛えてる。体を動かすのは健康になるしな。長生きしたいんだよ」


 特に、デスクワーク中心で食生活が乱れてた場合、30歳あたりになって基礎代謝が下がった瞬間、一気に太る。

 ヤセ体質で太らないんだ〜っていうヤツは、30になるとあり得ないくらい太る。食ったカロリーは異空間に飛んでいく訳じゃない。形が0だからって0カロリーな訳もないからな。

 

「ふぅん。ま、お邪魔させてもらっている以上はわがままは言わないわ」


「そういう素直なところはクラシキの魅力だと思うぞ」


「そうかしら」


 昨日今日で戦って、こんなにあっけらかんとしてるのは才能だな。

 長い年月生きてきて慣れたっていうのもあるんだろうが。


「そういえば、あそこに住んでもらう以上、働いてもらうことになるぞ」


「え”っ」


「なんだよ、タダ飯を食えるとでも思ったのか?」


「いやっ、だって、あんな辛いトレーニング? もしてるじゃない」


「あれはオレの趣味に付き合ってもらってるだけだ。そもそも、あそこに住んでる奴らは全員が暇そうだったから、オレの夢に付き合ってもらってる感じだ。みんな訳ありなんだよ」


「そのゆめ……っていうのは?」


「デカイ体とか、いい体のやつを集めて大会を開くんだ。んで、そこに出て、優勝する」


「へんな夢ね」


「だろう。自分でも分かってる」


 だからそんな夢に付き合ってくれるみんなには感謝をしないといけない。普通、こんなヤツの言うことなんか聞いてくれないからな。


「まぁ、でも、あなたらしいんじゃない? まだちょっとしかしらないけど、みんなが慕う理由も分かるわ」


「な〜にが、まだ1日2日そこらが知ったような口を。おら、行くぞ。特別に甘いお菓子を買ってやる」


「えっ! いいの!? やったー!」


「おいっ、暴れるな!!」


 魔女に甘いお菓子(しっかりとPFCを確認したもの)を購入し餌付けしておいた。

 これで今後もきついトレーニングをしても許してくれるだろう。多分。

 オレも一緒に食べておいた。美味い。みんなにもお土産で買って帰ろう。たまにはいいだろ。


 食ったからには今日も1日頑張らないとな。

 今日は双子のトレーニングがあるし、あと……もう一個重要なのがあるしな。

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