第六部:魔女が仲間になりました(テッテレー)

50 スクワットをするクラシキ


 魔女討伐の旅から二日が経った。


 帰ってすぐにみんなで爆睡をした。レイは王国に報告しにいくということで昨日出発していた。

 もとより、魔女を倒すために鍛えてほしいってことだったからな。

 レイが住んでた部屋を双子が使うことになったんだが、次の問題は魔女はどこで寝るかだった。

 

 部屋は満室。そのため、誰かが相部屋になる必要があると。


 最初はオレと魔女で相部屋をしようと思ってたら、なんか反対勢力がいた。

 カシと一緒に寝る! とか、仕方がないわね、一緒に寝てあげるわ、とか。

 なんやかんや言われたが、結局はオレとルポムが相部屋になった。


 部屋が汚かったからな。さすが元傭兵といった散らかり具合。

 床でオレが寝ることにして解決。反体勢力は不満そうだったが、知らん。


 そんなこんなで今、何をしてるのかと言うと、もちろん筋トレだ。 


「ギヌゥゥゥゥッッッ……!!! ひぃっ、もう、ゆるち、うっ」


「暴れるな!! 今、どこの筋肉を動かしてるかだけを考えろ!!」


「あしっ、またっ!? 足!! 足ぃっ!! もう、ムリィィ〜ッ!!」


「クラシキ!! それだけでへこたれるな!! あと二回はできる!」


「無理無理無理、出る出る出るっ! なんか出るうっ!!」


「出ない!!!!!!!」


「ああああああああああああ、ううううううううううううううううううっ」


 ガシャンッ!! スミスのバーをラックにかけると、へなへなとその場にへたり込むクラシキ。

 その隣で大きく頷くのはオレじゃなく、ルポムだ。


「ナイスファイトだ!!!!!!!」


「ううぅぅぅぅっ、はああああああっ……外の世界は残酷……っ」


「うん。いい補助の仕方だった」


「本当か!」


 スミスのスクワットの補助の仕方は割と色々ある。今回はバーを持って力を加えるってやり方だ。

 

「これが、軌道が決まってないヤツ(パワーラック)だった場合の補助の仕方は……ルポム、ちょっと来てみ」


 スミスマシンのところにルポムを連れてきて、その後ろに立った。


「そこでスクワットしてみて」


「わかった」


 後ろのオレもルポムと一緒にスクワットをして、一番下に着いた時に脇の下に手を入れた。


「ここで、上がる時に少し力を加えてあげるのがいい。でも、この時に後ろに引っ張ったり、前に押したらバランスを崩して転けるかもしれんから気をつけるように。もう一回してみよう」


「う、わかった」


 今度は脇の下に手を入れたまま、腹部の前で腕を組んだ。

 で、グイと引き上げた。


「これは比較的強めな補助だな。いろいろなやり方がある。後ろに立って、持ち上げれたらいいからな」


 まあ、ジムの常連客のマッチョの受け売りだがな。

 

「でも、女性の補助をするときはそうにはいかん。胸に手があたったら正直にいうと気まずいからな」


「じゃあ、えーと、補助をしない……?」


「してやってくれ。女性への補助の仕方は2パターンかな。オレはこれをしてる」


 ルポムがスクワットをしたのと一緒にスクワットをするのは変わらず。

 ただ、脇の下から手を差し込んで前の肩辺りに手をのばす。オレのポーズとしては手術のお医者さんだ。まぁ、メスだしな。おっと、炎上するか。

 

「これなら胸に当たらないだろ?」


「おお……」


「次行くぞ」


 毎度同じくスクワットをして脇の下に手を通す。今度は肩ではなく、担いでいるバーを握る。

 

「これなら皮膚に触れることもない。が、人の手幅によっちゃしにくい時がある」


「ふむ。なるほど……補助にも色々あるんだな。よし、じゃあクラシキ、やるぞ」


「ふえええ……」


 ベンチ台でもたれかかって溶けていたクラシキを強引に立たせようとするルポムをストップ。


「疲れた状態でもう一セットするのは、結局回数ができずに筋肉に刺激が入らない」


「そ、そうか……たしかにいつも休憩を挟んでるもんな」


 他のパーソナルジムだとインターバルは30秒とかだもんな。オレが働いてたトコロも短かった。

 成長ホルモンがでるから痩せられる〜とかなんとかって話だ。

 でもなぁ、その短いインターバルの優位性は数カ月後には薄れるらしい。論文が言ってた。

 

 正直、パーソナルジムのインターバルが短いのは……おっと、誰か来たようだ。


「あ、双子の〜……なー……うぃ」


「ん〜後一文字!」


「す! ナーウィス!」


「そ。正解。やっと覚えてくれたな」


 横文字は悪いな。ごちゃごちゃになってんだ。


「それで、どうしたんだ?」


「そのっ……水を飲みたくなって」


「? 勝手に飲んでくれていいぞ?」


「ダメだ! あんな、キレイで、美味しい水……高いんだろ……?」


「えっ」あ、そうか。キレイな水とか珍しいのか「気にしなくても良い」


「じ、じゃあ……飲んでもいいんだな……?」


「いいよ。たんとお飲み」


「!! 分かった! 勝手に飲む!」


 うんうん。顔色も良くなった。

 ナーウィスは兄貴肌の方だな。

 まだトレーニングを初めてないから、トレーニングノートにも名前が書いてないんだよな。


 あぁ、そうだ。パーソナルジムのインターバルが短い理由は……と?


「あ、あのぅ……」


「お、今度は弟の……ふぇい……」


「ラーです。覚えにくいですよね」

 

「いいやそんなことはないぞ。フェイラー。うん、今覚えた」


 フェイラーって聞いたことがあるんだよな。織物とか売ってるとこの名前じゃなかったか?

 どっかで聞いたことがあるんだよな。岡山にあったっけ。


「それで?」


「あ、あの。えっと、森人エルフのかたと、獣人アンスロのかたが……看病しにこいって」


「病人が元気だな……分かった分かった。あー、鳥人ハーピーのかたは何も言ってなかったか?」


鳥人ハーピーのかたは食卓の方でごはんをたべてました」


「すっかり回復してるな。よかったよかった」


 エルの羽の問題が解決したから、一先ず安心だ。でも、飛び方とかには慣れないとな。

 

「ナーウィスとフェイラーの二人も固形物が食えるようになったら、いっぱい食えよ。いまは流動食ばっかだし」


「だんだんと食べれるようにはなりました」


「うんうん。回復はしてきてるのは顔色を見たら分かる」


 知り合いに医療従事者がいるんだが、高齢の方で固形物を食わなくなったら一気に老けるっていうのを聞いたことがある。

 それで、いつまで経っても元気なおばあちゃんやおじいちゃんは肉とかラーメンとか食いたいものを食ってんだって。

 この手の話の信憑性はなんともいえんが「年老いたから固形物がきつくなる」のか「固形物を食べなく鳴るからふけるのか」というどっちが後か先かって話がある。

 

 オレは割とこういう話は好きだからな。

 プロテインもいってしまえば流動食だ。栄養素はたんぱく質。でも、やっぱり固形物を食ってもらいたいってのがある。

 もう固形物がしんどいんですって人は仕方ないけどな。


「じゃあ、あと一セットだけ見てから看病しに行くって伝えといてくれ」


「わかりました!」


 タタタッと駆けていった音を聞いて、トレーニングを再開。


「さ、やるぞ」


「無理ぃ〜……」


「やるぞクラシキ!!」


「びえええぇぇぇぇぇ……」


 その後は教えた通りの補助を実践して、胸に手があたって気まずい雰囲気になってた。

 ルポムもさすが男の子。その点、クラシキは自分の体に頓着してないからな。


 この調子なら、ルポムにトレーナーの仕事を教えていくのもありかもしれない。

 

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