49 筋トレはいつから初めてもいいんだよ



「ん、んっ……」


「目が覚めたか。元気か?」


 ゆさゆさと背中にいる人物を揺らしてみせる。

 今は森の中を歩いて帰っているところだ。エルも地面をてこてこと歩いてる。くらくらするって言ってた女性陣も元気に歩いて帰ってる。双子も元気だな。


「んっ……あえ……レッ!? なっ、なに、なんでっ、あれっ!?」


「お、げんきげんき。とりあえず落ち着けって」


 魔女はなにかとデカイからな。暴れると敵わんのだ。特に背中に当たっとる二つのデカイやつな。


「あ、遺跡、崩れた?」


「そ。あれから大変だったんだからな」


「そうなのだ。わたしが助けたんだからね〜?」


「あり、がと……」


 ひょこと顔を覗かせるエルに、ぺこりと会釈をしていた。

 へっへーんと胸を張るとその鳩胸があらわに。魔女の胸もデカイと思ってたが……。


「エルの方がデカイな」


「あなた、失礼なのね」


「エルのは筋肉だからな」


「きんにく……」


 筋肉があって支えられている胸と脂肪だけでしたから支えられている胸じゃ訳が違う。

 

「目が覚めた訳だが、どうしたい? 遠くに行くって言ってたけど」


「あ、そうね……そうか……。そうだったわね……」


 言葉尻が下がっていく魔女に、オレは提案を一つ。


「なぁ、もしよかったら一緒に来ないか?」


「!?」


 まぁそんな反応になるよなあ。


「私は魔女よ!? それに、私といたら……なにをされるか……それに」


「他の皆には了承を得てる。あとはあんた次第だ」


「オレの方を見ても既に話したろ。気にしてないって」


「私もだ。カシを飛ばした時には殺してやろうかと思ったがな」


「右に同じよ」


「拙僧も同じく」


「ワシは魔女の魔法のことで色々と話してみたかったってのがある」


「わたしはわかんないからいいよ〜って」


「オレたちは否定する理由もないしな」


「うん……ぼくたちは落とし穴だし、あれは遺跡の罠だし」


「ぼくはお土産をもらったので、あとは大丈夫です!」


 皆からの言葉を受けて、魔女は震えていた。

 

「寒いか? 胸元が空いてる服を来てるからだぞ」


「…………そうね。ちょっと寒かったも知れないわ……でも、大丈夫よ」


 そういうと、魔女はオレに全体重を預けた。


「だから、しばらくはお邪魔させてもらうわね」


「……なら筋トレだな」


「え」


「筋トレだ」


「きんとれ……」


「オマエの体は若いからまだいいが、そのうち老けたら足腰に来そうな体をしてる」


「あしこし……」


「だから今のうちに足腰のトレーニングと、胸が垂れないように胸トレもするべきだ。お邪魔するならしてもらうぞ」


「………………ぷっ、あはははははあはははっ!!!」


 バタバタと足をばたつかせると、魔女は目尻に浮かんだ涙を拭った。


「そうね。頑張るわ。一生懸命頑張らせてもらうわ」


「その意気だ」


「でも、私はもう只人の年齢でいうとおばさんよ?」


「筋トレは何時から初めても遅くないのさ」


「そうかしら」


「そうさ。魔女でも体を鍛えりゃ魔法使わずに殴って勝てるだろ。ムキムキの魔女はいないだろうしな」


 そもそも、森人エルフ鉱人ドワーフだという世界で年齢が理由で諦める理由もないだろう。

 体を鍛えてたら魔女って思われないんじゃないか? これは名案な気がするぞ。

 

「あのぉ、魔女じゃなく、名前で呼んではくれないかしら?」


「くらし……あー、考えておくよ」

 

 呼ぶ日が来るんだろうか。

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