48 あ、死んだ? もしかして



「ほんのっ、出来心だったんですっ……こうしたら、みんな帰ってくれるかなって……思っでっ……うぅっ」


 玉座の上で正座する魔女にイリアとルポムとレイが腕を組んで詰め寄ってる。

 あれ、オレが居ない間に仲良くなってる? 


「え、オレの服に血がついてる……」


 イリアから返してもらった服を着てると、後ろからアッパコムとカンナがスススとよってきて腕を組んできた。


「なになに?」


「なんでもないわよ」


「なんでもありませんとも」


「??」


 アッパコムあったかいからいいなあ。カンナもあったかいし。


「じゃあ、マレウスはこっちな」


「なんじゃあ一体……」


 横にアッパコムとカンナ。そして前にマレウス。最高だ。マレウスもあったかい。

 いやあ、まさか空中に放り出されるとは思ってなかった。落ちるときって結構寒いんだな。

 魔女もズビズビ鼻水すすってるじゃん。あんだけ胸元がはだけてたら風邪引きそうだ。


「本気で殺してやろうかと思ったぞ」


「オレもだ」


「ぼくもです」


「お前らはもともと、私を殺しに来たんだろうが!!」


 ズビッと鼻を啜って、ヴェッと泣き出した。


「そもそもっ、わたしは死なないんだっ! なのに、なんでそんなに殺しにくるんだよっ!」


 食って掛かるようにして魔女は話しだした。


「どれだけ獣人アンスロのオマエが強くても私は死なない。

 魔法が上手くても、弓の精度がよくてもだ!

 勇者だろうがわたしは死なないぞ!

 だから!! 帰ってほしいんです!!」


「……オレは角を折られたぞ」


「角が折られただって? わたしは何回首を跳ねられましたかっ!!

 でも? わたしはあなたを一回も殺してない!! はいっ、次!」


「ぼくは、あなたの首を国王に持って帰らないといけなくて」


「こわっ……あんたたちの国のほうがよっぽどひどいことしてない?

 だって、私は今まで誰も殺したこと無いわよ? 

 ひっそり暮らしてるだけだもの。で、獣人アンスロのあんたは」


「わたしはただの付き添いだ」


「そっちの方々は!? わたしを殺したい理由はなによ!」


「ないぞい」「ありません」「ないわ」


「……あなたは」


 うるうるとした目で指をさされても……魔女を殺したい理由っていわれてもなあ。


「そもそも、なんで魔女のアンタは殺されそうになってるんだ? なんかしたのか?」


「!! よくっ、それを、聞いてくれたわね! さすが、チームリーダー!」


「チームリーダーじゃと」


「な〜。知らん間におれがリーダーらしい」


 マレウスがニシニシと笑ったから、オレも苦笑い。


「じゃあ、もう語ってあげるわ。存分にね!」


「待て。せっかくだったら、いつものアレで行こう」


「お」「おぉ」「いつもの……?」


 オレを取り囲む三人からの反応。カンナだけは分かってないらしい。

 懐からトレーニングノートを取り出すと、呆れたように笑った。


「カウンセリングだ」


 向こう側にいる三人も笑っていた。

 近づかないと声を張り上げないといけないため、くっついてもらったままのそのそと移動していく。

 で、玉座の前でトレーニングノートを広げた。

 魔女はこてんと小首をかしげていたが、すぐに分かるだろう。

 

 


 Q、まず、自己紹介をお願いします。


 A、えっ。魔女……です。


 Q、なんでこんな場所にいたんですか?


 A、それは、ここは静かだし、人もこないし


 Q、人が嫌いなんですか?

 

 A、「魔女だ!」って叫んで殺しに来るからね。何百年とそれをされたら嫌いにもなるわ


 Q、殺されそうになる心あたりは魔女だからだけだと


 A、私は何もしてないもの。魔女ってだけですぐに軍隊がくるわ


 Q、なんで魔女はそんなに嫌われてるんですか?


 A、想定してない力だからじゃないかしら。私にはこれが当たり前だからなんともいえないけど。


 Q、他の種族にはない力を持っていて、それを向けられるのが怖いから。ですかね?


 A、そういうことなんじゃない? 知らないけど


 Q、となると、どこかの国とか街から仲間になるように伝えられたことがあるのでは?


 A、そう! そうそれ! なんで知ってるの? なんどもあるわ! 全部断ったけど。

 

 Q、あー(納得)。じゃあ、なんで断ったんですか?


 A、兵器利用をするからよ。私はひっそりと暮らしたいの。日当たりのいい場所で、お茶とか紅茶を飲みながら猫と一緒にのんびりとね。


 Q、…………なるほど。あなたのことがなんとなく分かった気がします。


 A、そ! それならよかったわ。



 うん。この人は平和に生きたいのに、魔女として生まれたせいでそれができない。

 なんとも嘆かわしい話だ。嘘をついてるかもしれんが、この感じ、なんか憎めないんだよな。

 岩ぶつけられたけど。あ、そうだ。それも聞いておこうか。


 

 Q、そういえば、最初岩をぶん投げてきましたよね。あれはなんで?


 A、あれで一番強いのを怯ませれたら逃げてくれるかなあ〜って。


 Q、一番強いの?


 A、えぇ。だって、貴方が一番強いんでしょう? 違うの? 


 

 一番強いのはイリアだろう。まぁ、いいか。

 とりあえず聞きたいのはこれくらいだな。



「よし、カウンセリングは終わりだ」


「もう終わり? 結構楽しいのね、そのかうんせいんぐ? っての。人と話したのなんか久しぶりよ。みんな、あなたの回りにいる人たちみたいに襲いかかってくるんだから」


 ベェと舌を出す魔女に、みんなの眉間にシワが寄った。


「まあまあ。アンタがおとなしくしてくれるならこっちとしても問題ない」


「やったー!」


「でも、レイがオマエの首がほしいらしいぞ」


「ください」


「ほら。礼儀のいい子だろう?」


「欲しがってるのが首じゃなきゃね……いいわ、ちょっとまってなさい」


 魔女がゴーレムの一部を取り出して指を動かして、回して、手元に置いた。

 なんとただの土塊が魔女の生首になったじゃないか。うわ、きもちわりぃ。


「これで、ちょっと表情を苦しそうにして、血とか付けちゃって……あ、麻袋とか持ってきてる?」


「え、えぇ」


「ほら、貸しなさい。で、ここで結んでっと。はい! お土産! ちゃんと国王とやらに渡すのよ」


 そんな久々に実家に帰ってきた孫に土産を渡すおばあちゃんみたいな。

 こうしてると本当にただの平和に憧れてる人だな。


「じゃ、他にはなにを聞きたい? なんでも答えてあげるわよ!」


「会話はそこまでにしとくんじゃな」


「? どうした」


「魔女が大穴開けたせいで、ガタが来とるわい。遺跡から出んと、すぐに崩れてくるぞ」


「まじっ……?」


 そう思えば、パラパラと土塊とか岩が落ちてきてたような。

 

「じゃあそろそろ出るか。アンタは?」


「……どうせ、私を殺したってことが知られてもここには人が来るから……そうね、少し遠い場所にでも行って見ようかと思うわ」


「魔女じゃ、どこに行っても命を狙われるじゃろうがな」


「そうね。まあ……そうなったら、今日みたいに追い返す努力をするわ」


 疲れた笑みを残す魔女に手を出した。


「じゃあな。新天地にいっても元気でな」


「えぇ。あなたたちこそ。久々にヒヤッとする戦いだったわ。あと……角、折っちゃったみたいで、ごめんなさいね」


 握手をしながらルポムに顔をのぞかせて謝った。


「恨んでたが、今はもうどうでもいい。少しずつだが、治ってきてるからな」


「?……有角人グランの角は」


「オマエの前にいるカシと、この蜥蜴人タニファの神官様が治してくれてる。から、謝罪はいらん。死んだと思ってた二人も生きてたしな」


「そう……。ならよかったわ。いいお医者さんなのね」


「トレーナーだ。医者はもっと凄い」


「いいや、カシも凄い!」


「そうですぞ! 主人は凄いんです!!」


 目をパチクリさせて微笑んだ。


「カシ……さん。お仲間に慕われて、素敵なリーダーね」


「まだまだ成長途中だ」


 この出会いもなにかの縁だろう。

 また会うかもしれないしな。


「そういえば、名前を聞いてなかったな。名前は?」


「名前……魔女に名前を聞くなんて、大胆ね。……いいわ、特別よ」


 魔女に名前を聞くのが大胆? 

 なんだそれ。まぁいいか。


「私の名前は、クラシキ。覚えていてくれるブゴッ──」


「あ」


 反射的に殴り飛ばしてしまった。

 

「悪い。殴るつもりはなかった……」


 倉敷って言ったか? 聞き間違いじゃない?

 名前倉敷っていうの? えっ、なにそれ。

 殴った拳に問いかける。ウン,タシカニクラシキッテイッタヨ〜。そうか、やっぱり言ってたな。


「って……白目向いてるわね」


「泡も吹いてる」


 ──ガラガラガラガラ。


「……!」


 降ってきた瓦礫を避けて、魔女を抱えた。玉座は見事に潰された。


「ワシらも本格的にまずくなってきたぞ……!」


「魔女に外に連れ出してもらうってことはできないの!?」


「気を失っとる!」


「死なないくせに!!!」


「とりあえず、急ごう!! 魔女はオレが担ぐから──」


 ガシャンッ。来た通路が上から潰された。

 

「うわぁお」


「退路が……」


 崩壊が始まってる。上に穴が空いてるここ以外はボロボロと岩や砂が落ちてきている。みんなで穴が空いてるところに集まって身を寄せた。


「どうする!? このままだと潰れて……」


「マレウス。なにか空を飛ぶ魔法とか」


「そんなもんあるかい! 魔女にしかできんわ!」


「じ、じゃあ魔女を」


「気を失っとる!!」


「あー、そうだった!! 死なないくせにぃ〜っ!!」


 えっ、嘘だろ。オレの反射パンチのせいで終わった?

 今まで順調だったのに、もう終わりですか? 

 まだあの納屋にあるオールインワンラックのローンとか残ってるのに?

 あーでもオレこの世界に子どもとかいないし、保証人とかもないから迷惑は……いや、メーカーに迷惑かかるじゃないか。

 

「……ごめん、みんな……こればっかりは筋肉があってもどうにもならん」


「いや、まだなにか策があるはずだ。マレウスが遺跡を動かして、なんとか」


「そんなもん既にやっとるわ!! やってこれじゃぞ!!」


 その時、ガタッと頭上に影がかかった。巨大な岩肌だ。

 言葉を発する前に目前に落ちてきたソレにオレたちは何もすることができなかった。


「〜…………?」


 が、いつまで経っても潰れないから恐る恐る目を開けると、そこには彼がいた。


「ゴーレム!!」


 親指立ててくれた。かっけえ。

 降ってきた岩を受け止め、背中で天井を支えてくれている。


「ほっ……魔女が倒れたのに、まだ動けるんかいな」


「独立してるんだろうさ。あとの二体は……?」


 他の二体もオレたちを覆いかぶさるようにしている。どうやら、あの壁際で三角座りをしていた彼が指示を飛ばしてくれているらしい。

 

「でも、このままじゃと保たんぞ!?」


「今のうちになにか策を──」


 チラッと差し込む光に影が映り込む。

 岩だと思ってまた身構えると、それは降ってきた。


 バサッと広げた羽はキレイに白色と黄金色に分たれ、最後に見た時の大きさよりも倍以上の大きさを誇っている。

 背中から生えている羽と肩甲骨辺りから生えている羽で分かれて。彼女自身の顔色も、最高に良い。


「みんな〜!!!!! 大丈夫〜!!!?」

 

「エル!!!!!!」


「掴まって! 足とか、色々!」


「えっ、全員で掴まっても行けるのか!?」


「行けるよ、この羽なら!!」


 エルの足や首元にしがみつくと、バサッと大きく羽撃かせて、気がつくと空に浮かんでいた。

 一度の飛翔で、ここまで……!

 無重力感が体を弄ぶ。夕日が沈みかけている頃だった。


「エル……ありがとう……!!」


「えへへ。あのあと、ちょっと寝たら体のだるさとか全部なくなっててね。いけるぞッ! って感じだったんだ!」


「羽、大きくなったな」


「ウン! カシのおかげだよ! ほんとにありがとう!」


 夕日に照らされるエルの表情はほんとに明るくて、傾いて……って?


「あ、でも、ね。正直にいうとっ……」


 ズルと体勢が崩れ、


「まだ、慣れてないんだああああああああっ〜!!!」


 そこから一気に落下していった。

 

「「「「「うわああああああ!?」」」」」


「フォールンコントロール」


 マレウスの唱えた魔法によって、オレたちの体は抵抗感が重たくなって、ゆるやかに落下していく。


「最後まで油断ならんかったのぉ」


「えへへ……ありがと、おじちゃん……」


「空を飛べる魔法はもってないんじゃないのかしら」


「落下を緩やかにするだけじゃわい。鉱山じゃなんじゃで採掘しとる時に覚えた」


「……鉱人ドワーフらしいわね。ありがと」


「そう思うと、カンナは魔法が使えるんだろ?」


「? 精霊に頼むくらいならできるわよ」


「あ〜、カシ。勘違いするんじゃない。コヤツの魔法はちくと毛色が違うんじゃ」


「へえ~……」


 下を見ると、遺跡の入り口から離れて立っていた双子がいた。

 ルポムが手を振ると、ここからでも分かるほどのはしゃぎっぷり。

 

「でも、よく場所が分かったね」


「ものすごい音だったからねっ! どごぉ〜んっ! 爆発してた。びっくりして、音の場所に飛んでたらここだったのだ」


「魔女の魔法じゃな。たしかにアレはすごかったわい」


「あっ、そうだ魔女! どうしたの!? 魔女倒せれた?」


「魔女は、実はここにいるのだ」


 抱えていた魔女を見せると、エルがピッと驚いた声を上げて羽を動かしていた。


「えっ、えっ!? なんっ、どうしたの?」


「悪いやつじゃなかったし、気を失ったから連れて出たんだ」


「……ふふ、はははははははっ! カシらしいや! そんなカシがだ~いすき!」


 ギュッと抱きついて、おでこにキスをしてきた。


「「!!?」」


「オレもエルのことは好きだぞ〜」


「「!!!??」」 


 背中を叩こうと思って魔女を手放すと、ふわふわと回っていた。おもしろ。

 

「あ、エルが一番温かいかも。まだ熱あるだろ」


「ん〜、そうかなあ〜? かも! また看病して!」


「はいはい」

 

「カシ!! 私も、私もっ、熱があるみたいだ!! 看病を!」


「私もよ! ちょっと、クラクラしてるって思ってたの!」


「疲れたからか? はいはい。家に帰ったらな」


 イリアとカンナはガッツポーズ。それができるなら元気だろうよ。 

 

「他の四人は大丈夫か?」


「ワシは大丈夫じゃよ。ただ、今日ばかりは酒を飲ませてくれ」


「いいぞ。すごい活躍だったもんな」


「拙僧も健康体ですな。そこまで動くことがなかったので。主人のおかげで」


「いやいや、あの奇跡の結界はすごかったって」


「オレは……まぁ、なんだか疲れた。熱はないが、久々にぐっすり寝たい」


「ぼくもです……」


「二人は訓練ばっかりだったもんな。しっかり休むといい。みんなが元気になったらパーティーでもしよう。たまには盛大に食って、盛り上がろう。魔女を倒した報酬金とか出るんかな。ちょっとはくれよ〜?」


「はい!」


 あー、疲れた疲れた。

 異世界にやってきて、初めて冒険ってのをやったな。

 カロリーがすごかったなぁ。腹も減る。こんなのをしないといけないってなると、体がでかくなる理由も分かるなぁ。


 落ち着いたら、オレも筋トレ頑張らないとな。

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