47 怒髪
「おまえ……」
「教官……っ」
剣を魔女に向け、鋭い目を向けている。
「イリア」
「大丈夫だカシ。心配せずとも、私達なら勝てる」
「あ、あぁ……」
いや、そうなんだけどさ……いい加減オレの服返してよ。
なんか、スカーフみたいになってるじゃん。もう要らないでしょ?
大穴開いたから、換気もされてるだろうし。ね? お願い。
余計に寒くなっちゃったの。カッコいい顔してるから言い出しにくいんだよ。
気付いてほしいなあ……なんて。ってか、なんか感動シーンかこれ。場違いですまん。でも、寒いんだ。
「大丈夫だ。そんな震えなくても」
イリアがオレの肩に手をおいて、その後ろからカンナが抱きついてきた。
「カシ。安心して、初めての戦闘でも……あなたには傷を負わせないわ」
そういう訳じゃないの。でも、言い出しにくいから黙ってるだけで。
あ、でもカンナ温かいからいっか。
「……カシ?」
「もう少し、このままでいてくれるか」
「……!! な、なにいって──いや、うん。そうよね。うん、わかったわ。怖いものね……」
おかげで体温が少し上がった気がする。体を冷たくしたら筋肉によくないからな。
だから、ジムにいるマッチョはパーカーとか着てるんですよ。
いやあ……なんだこれ。冬が近いのかしら。この世界って四季とかあんのかな。
「……そこの
魔女が玉座に座ったまま、声をかけてきた。
「なんだ」
「アナタがこのチームのリーダー?」
「違う」
小首をかしげ、こちらを見渡した。
「じゃあ、誰がリーダーかしら」
「カシだ」
「えっ、オレ?」
魔女の目が鋭くなった気がした。その目も閉じられ、ふぅ、というため息で誤魔化された。
「…………そ。わかったわ」
「なに、分かったって。なにを分かったの?」
魔女は椅子に座ったまま、脚を思いっきり上げて、振り下ろした反動でオレの前にまで瞬時に移動した。
「なっ」
突然の急接近に何もできずにいると、オレの肩に魔女の手が触れた。
「とりあえず、死のっか」
そして──オレはその場所から消えた。
◇◇◇
「カシ──ッ!??」
今まで抱きついていた相手が消えたことにカンナは飛び退いて弓を構える。他の者達も武器を構えた。が、遅れを取ったのは明らかだ。
だって、カシは目の前からいなくなったのだから。
代わりにその場に立っている魔女は手を後ろで組んで、皆を見回す。
「はい。さて、彼はどこに行ったでしょうか?」
パッと両手を見せて笑顔を見せる魔女はくるくると回って、ニコと笑った。
「精神的支柱がいなくなった今、どうする?」
魔女はこれを狙っていた。
チームのリーダーというのは、皆を奮い立たせる柱である。全員が五体満足の中で、圧倒的な力を見せてもまだ戦いを継続を誓ったのはこの
「……カシは」
「あ、彼の名前カシっていうの?──生きてるといいね? カシくん」
最も信頼を置く人物が消えたらチームがどうなるかを魔女は知っている。
絶望するのだ。あの人が死んだ。あの人がいなくなってしまった。
まとまりのなくなったチームは、バラバラになって、敗走する。
いつものことだ。
だって、この前にきた傭兵のチームがそうだったのだ。
隊長の角が折れた途端、皆の顔に浮かんだ絶望の色。
外の人間どもはこころが弱い。
そう、魔女は思っていた。
──皆の顔に怒りの様相が差し込むまでは。
「え」
直立していた魔女の体がメキメキという音を立て真横に吹き飛んでいく。アッパコムが錫杖を全力で横ぶりにしたのだ。
「主を……どこにやった……!!!!!」
尻尾で大地を揺らしながら、彼は吼えた。その瞳にはいつもの彼の優しさは宿っていない。怒り狂う戦士の形相だ。
「ちょっ、ま」
瓦礫に埋もれる中、見上げた空中にいたのはレイとルポム。
咄嗟に魔法を放とうとしてもそれら全てを切り刻みながら突き進んでくる。
「カシに「先生に」──なにをしたんだ」
涙を流しながら振るわれる剣に突き出していた両手が切り刻まれ、隙を見て横に出てきた魔女の頭に突き刺さったのは遺跡の岩壁と矢。
「オマエさんは、やってはならんことをしでかした」
「絶対に許さない」
指をゆらりと動かすマレウスと、次の弓を番えるカンナの形相はまさに鬼のそのものだった。再生をする暇もなく襲いかかるそれらに、魔女は息も絶え絶えの中、辛うじて残っていた脚で地面を思いっきり蹴り上げた。
ドンッとまた轟音が響き、龍を作り出した魔女は頭を再生しながら叫ぶ。
「落ち着けって、バカスカバカスカと──!!」
その首を跳ね飛ばし、龍すらも打ち消した。遺跡の壁に一つの線が刻まれ、遅れて届いた斬撃の音はその空間を揺らした。
それは、イリアの急接近からの逆袈裟斬り。音を置き去りにした一撃だ。
「──黙れ」
首がない状態で止めようとする魔女の体を切り結び、近寄ってきたゴーレムすらも消し飛ばした。霧散する砂が明かりに照らされ、さらに細かく刻まれた。
彼女の口元から蒸気が立ち上る。
筋肉を全力で使うことで体が熱を帯び、空気がイリアの体にふれるたびに熱されていく。
そして再生した魔女の首を持ち上げ、握り潰した。頬やカシの服に血液が飛び散った。
「カシをどこにやった」
明かりを背負う彼女の瞳には、殺意が溢れていた。
「答えろ。聞こえてるだろ。答えによってはこのまま満足行くまで殺し尽くしてもいいんだぞ」
後ろに控える全員の圧も加わり、顔が再生した魔女は苦しそうに両手を上げた。
「生きてるわ……生きてる!」
「ならどこに!!!!!」
「うしろ……」
みんながゆっくりと振り返ると、そこにはカシが空いていた穴からゆっくりと落ちてきていた。
バンジージャンプでゆっくりと地面に下ろされるように。ゆっくりと、足が地面についた。
「すげぇコレ……! 段々とゆっくりになった! すげえ!! えっ、もう一回もう一回!」
興奮するカシを見て、みんなは糸が切れたように力が抜けていった。
みんなの安堵のため息の理由を彼は知らない。
「……? なになに? みんなどうしたの?」
そして、次の瞬間にはカシはその場にいた六人に抱きつかれてなにが起きたのかわからないままぽかんとしていた。
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