46 戦闘開始
「
「遺跡にかけられた魔法じゃあない! あれは魔女の魔法じゃ、わしの管轄外じゃろうが!!」
広間には見上げるほど大きなゴーレムが三体。そのゴーレムの一歩目でオレたちは分断された。
としても、それはイリアの指示によるものだ。
「カンナ、レイ、ルポムは魔女の相手をしろ!」
そう言うと、剣を構えてオレたちを集める。
「その他はゴーレムと戦え!! ルポム達に近づけさせるなよ──ッ!」
戦闘が始まった。あわわ、始まった。
やべえ。どうしよ。とりあえず、盾を構えてアッパコムの近くにいよう。
「やはり頼もしい背中ですな」
「アッパコムの背中にゃ負けるさ」
「いえいえ。あ、踏み潰しが来ますよ」
「となると、避けた方が良き?」
「おまかせします。耐えますか?」
背中を優しく抑えられる。
「そんなこと言われたら、ちょっとやってみたくなるよなあ!」
「それでこそ我が主人です!!!」
すげえ興奮した声が聞こえ、尻尾が地面を叩いた音が聞こえた。興奮しすぎですよアッパコムさん。
「──ッ!」
ゴーレムが踏み潰そうとしたに合わせて盾をぶつけた。
潰されるのが怖いという思いもあるが、アッパコムを背中にしてるからこそ、この場所を動くわけにはいかんのだ。
そして、ぐわん、と大きな巨体が傾いた。
「えっ」
あっけなく。その巨体は横転したのだ。
「えっ?」
「おや。主人が強すぎますね、これは」
「えっ?」
振り向いてみると、アッパコムの満面の笑みが待ってた。
かわいい。舌をチロチロさせてる。オレを食べようとしてる? あ、いただきます、って手を合わせて。……えっ?
「主人はご自身が思っているよりも、強いのかも知れませんね」
「あ、あぁ……そうなのかな」
その言葉を言い残し、バッと手を突き出した。そこに収まるのはマレウス。ゴーレムの攻撃によって飛ばされたらしい。
「いかんいかん……強すぎじゃわい……そっちは」
「ご主人さまが一体を倒してくださいましたよ。文字通りね」
「ほお〜、カシが。やるのお」
「えっ。えっ……えっ?」
なに。なんで? おれ、なにかやっちゃいました?
ただ、盾を突き出しただけだぞ。
ゴーレムの脚に合わせてかがみ込み、パーシャルスクワットみたいに途中で脚に力を入れる。
で、そのまま立ち上がる。すると、転けた。なに? なんで?
「……?????」
「ぼーっとするなカシ! 相手は魔女だぞ!」
「ねるねるねーるねって感じか」
魔女って言われてもなぁ、見たら見るだけ『なんかえっちなお姉さんがいるなあ』くらいにしか思えないんだよな。
最初に石ころを投げて来やがったのは腹が立ったけどさ。
「いや、まぁ、そうだよな。集中しよう」
「!? カシッ──」
「ん?」オレに影がかかった「んぉ」
見上げるとゴーレムがいました。こんばんわ。
「いや、さすがに不味いかっ!?──っとォ!!」
ゴーレムの豪腕による横払い。それに盾をあわせて。
オレの位置は一ミリも動かなかった。
「…………?」
「…………?」
オレは指を立ててみる。もう一回してこいって意味だ。伝わったかな? あ、頷いた。なんだ素直じゃないか。
「ヨシコォイ!!」
さて、もう一回来た横払いだが……うん。
盾から顔を出して見上げた。ゴーレムも困惑。
「手加減してる……?」
首を横に振った。
「じゃあなんだよ。どう説明してくれんだ」
顎に手をやって考えるゴーレムとオレも同じポーズをしてみる。
あ、そうだ。
「じゃあさ。次はオレがやってみていい?」
「!」
頷いた。のそっと顔を近づけてきたので、思いっきりためて、ビンタをおみまい。
──ドゴンッ!!
ゴーレムが飛んでいった。壁にぶつかり、土塊がボロボロと崩れだした。
「…………????????」
ん〜??? なんだこれ。なんでこんなことになってる?
とりあえず、駆けていってボロボロに崩れようとしてるゴーレムに手を差し出した。
「すまん。なんか飛んだ」
「…………」
「あ、怒ってないって? いや、怒ってないとかじゃなくてさ」
手を握って立ち上がらせた。うん。分からん。
が、オレ以外は若干苦戦してる模様。
「何が起きてんだろうなあ……」
「……」
「え? 戦いに行っていいかって? 魔女の命令? ダメだよ。オレの仲間に手を出すな。逆に守ってくれ。それが無理ならここで座ってなさい」
「……」
「分かった? 案外、いいヤツだな」
さて、と。尻についた砂をはたき、みんなに合流をする。あのゴーレムには待機命令を下した。壁際で三角座りをしてる。あらかわいい。
「大丈夫か、三人とも」
「あぁ」「なんとかじゃな」「久々の戦闘で鈍ってる以外は、ですね」
概ね順調みたい。傷もついていないし、大丈夫だろう。
「じゃあ、問題は……魔女側か」
レイ、ルポム、カンナが魔女と戦ってる。
前線を張ってる二人をカンナが弓で援護って形なんだが、魔女が器用に砂を操ってるのか、全部が止められている。
うまい具合に一撃を食らわせても、即座に再生。火なり水なり雷なりが空中を駆け抜けて距離を取らざるを得なくなる。
うん。これ、無限に続くヤツだ。
「なにか、攻略方はないのか……!!」
「ルポムさん落ち着いてください! なにか策はあると思います!」
「昔から魔女の倒し方は一つだけよ。心を折るまで殺し続ける、それだけ」
弓を背中に担ぎ、短剣に持ち替えたカンナが魔女に接近し、砂を避けて耳を小さく傷つける。
「逆に、ソレ以外じゃあ倒せないわ。本人に聞いてみるのはどう?」
「はあ。本気で言ってるの? 私を殺したいのは分かったけど、殺す方法なんて教えないわよ。そもそも、そんなことできる訳もない」
三人が一斉に武器を突き立てたのを見て、魔女は大きく足踏みをした。
広間に轟音が響き渡り、龍が現れた。それは実態を持たない龍だ。
「もうさぁ、やめにしない? 疲れたんだけど」
火の龍。水の龍。砂の龍。雷の龍。それぞれが魔女の近くでうねり、こちらをにらみつけている。
「誰が止めるか……っ!」
「交渉決裂……ね。ほんとに、そればっかり」
四体の龍が襲いかかる。
逃げても食らいつこうと大きく口腔を開いて、早く、段々と加速していく。
そして──地形が歪み、龍を貫いた。
ガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガッ。
細長い岩の塊が、龍の頭を狙って無数に襲いかかりだしたのだ。
「術士の戦いで勝てるとは思うとらんが、砂と岩と泥はお友達よ。これで行き先は絞れるじゃろ」
空中で指をなぞらせるマレウスがニタと笑う。
──遺跡の地形変化。
魔女に青筋が浮かんだ。
「飽き飽きしちゃう。ゴーレムはなにしてるのかしら。休まず、攻撃をし続けてちょうだいな」
命令を飛ばされたゴーレムが再び動き始める。あの子はまだ三角座り。あ、立とうとした。座ってなさい。よしよし、そうだ。
そうしている内に、魔女の手元には四体の龍が集まって
「──!? それを止めろ!! 光線だ!!」
「なにっ、光線だと!?」
思わず叫んだ。光線って、アレだよな。アレだよな??
亀の甲羅を背負ってる仙人から教わるヤツ!! それかもしくはロボットから出るヤツ!!
その光線とやらがオレたちに放たれる直前に、レイとルポムが魔女の手を蹴り上げて、辺りが光に包まれた。
──ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド。
大地が揺れ、腹の底にガンガンと鳴り響く轟音。
目を開けてみると、砂埃が舞う中で魔女の立つ場所に微かな光が差し込んでいた。
「え」
上。そうだ。上だ。
そこから光が……オレたちが降りてきた螺旋階段の道よりも大きな穴が、地上まで伸びていた。
「ふぅ……久々に大技を使っちゃったから疲れちゃった〜。ね、もう辞めにしない?」
少しだけ明るくなった空間で、魔女は玉座に大きく座ってあくびを一つ。
「…………っ」
さすがに皆の士気が下がったのを感じた。
恐怖。あんな大技を撃てる魔女と、先の見えない争いをしてもいいのか、と。
「今なら見逃してあげるからさあ。ほら、出ていきなって」
しっしっと手を動かされ、レイとルポムの表情に暗いものが差し込んだ。
「…………ならん」
「……いま、なんて?」
「私達は貴様を撃つためにここまでやってきたのだ」
イリアが武器を構えたまま、そう言い放った。
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