45 ほな、地下駐車場じゃないか……



「あ、地下駐車場は車が真ん中にあって落ちていくから違うか。逆か。そうか、逆だな」


「まだ言ってる……」


「勇者サマは気にしなくていいの。あれ、カシの発作みたいなもんだから」


「じゃあ、なんて言えばいいんだろう……なぁ、マレウス」


「飛び火してこんでくれんかのぉ……」


 地下への入り口が開いたかと思うと、そこから螺旋階段がある。

 あ、アニメで見たことがあるのか? 思い出せれないからいっか。

 地下駐車場なんか岡山には存在しないだろうからな。


「ってか、これって遺跡に住んでた人らはどうやって暮らしてたんだ?」


「毎回この螺旋階段を上がったり降りたりしてたんでしょうか」


「ンな訳がないじゃろう。地下には繋がっとるが、その先には脱出用の隠し通路なんぞ用意しとくんが常じゃ。あの仕掛けを押すンも魔法の反応が見えた。それは古くて機能しとらんかったが、ガスじゃ槍じゃで数減らしをしてくると見た」


「敵に攻め入られて、ここまで退避を余儀なくされた場合はその通路で逃げる。その後に魔法なんかを用意してたら」


「木っ端にできる。まぁ、最終手段すぎるが。拠点を一つ、まるまる使えなくなる訳じゃしのお」


 角灯で先を照らしながら降りる。


「そういえば、ルポム達はここを降りて行ったんだな」


「あぁ。上に部隊を残したままな。扉がしまったら出られんと思って」


「今回はワシがおるから皆でおりとるわけじゃな? そういう情報は先に言うんじゃぞ」


「うっせ。今言ったからいいだろ」


「ここから先の道は……?」


「地下に着いたら通路がある。真っ直ぐの道。で、また広間があって……そこに魔女はいた」


「じゃあ、もうすぐということだな。気を引き締めるんだぞ」


 螺旋階段を降りていくと、黒石で作られたような広間に着いた。

 光を飲み込むように暗いその広間から伸びる一本の道。


「……奥に扉が」


「名探偵のCMのアレみたいだ……」


「またなんか言ってる……」


 CMが始まるとガチャンって閉まるぞ。見とけよ見とけよ。

 

「……いや、こういう小言を言っとかんと緊張してるんだわ」


「まあ、ね。私もしてるわ」


「ふっ……大丈夫だ。心配はせずとも良い」


 うんうん。イリアがいるし、こっちには勇者もいる。

 

「カシがなんとかしてくれるはずだ」


「っておーい。期待高いのきち〜」


 はっはっはと笑って、盾と斧を握る手を強める。

 戦闘初心者が無事に帰れるのか。客観視したら絶対ムリな話だ。

 

 息を吸って、鋭くはいた。MAX測定の直前の集中力を作り上げる。

 通路を歩いていった先の扉にイリアとマレウスが手をかけた。


「開けるぞ」


「分かった」


 ギィと扉が開いて行き──飛んできた岩がぶつかってオレの体は吹き飛んでいった。

 

「カシッ!?」


「大丈夫だ!! それよりも集中しろ。ボスの部屋だぞ!!」


 車に跳ねられた経験が人生で三回あるが、そのどれよりも弱い。

 盾で咄嗟に防げれたからな……!


「はあ……また、来た……もうめんどくさいなあ」


 広間の中央の奥の玉座で寝転んでいた女性はそう呟く。椅子は座るところであって、ソファみたいにくつろぐモノじゃあねぇぞ。


「オマエが……魔女か」


「魔女魔女。あんたらはそれしか言えないの……? ったく、懲りずに何度も何度も……」


 その空間を走り抜ける一つの風。黒く光る剣を振り下ろす。

 だが、指の爪によって防がれていた。

 

「あら、あの時の隊長さんじゃない? かわいい見た目になっちゃってまあ」


「……! 絶対、ぶっころす……!!」


「はっはっは。無理よ。だってわたし──」


 スパンッと言葉が途切れたかと思うと、ルポムの顔に大量の血液が散った。

 燭台の微かな光に照らされたのは、レイ……勇者の剣。

 血液を撒き散らしながら魔女の首だったものは飛んでいき、地面に思いっきり落下。段差を数段と下ったところでその自由落下を止めた。


「やった……?」


 後ろのオレらが声を出して、レイも安堵の息をこぼして剣を下げて。その体をルポムが抱きかかえて飛びのいた。


「ルポムさんっ!? なにを……」


「アイツは殺しても死なないんだよ……!」


 距離を取ってみると、魔女の首から出てきた血液は止まっていて、バランスを保ったまま立っている。   

 そのまま肩を竦めたかと思うと今度は手をゆらゆらと動かして、首を浮かばせて、元あった位置に据えた。


「そう。その隊長さんの言う通り、わたしは死なない。だからさあ、帰ってくれんかな……」


 長い爪でポリポリと頭を掻く。

 

 その姿が灯りに照らされて、皆は武器を構える。

 魔女だ。なぜかひと目でそう思える風貌。雰囲気というのだろうか。

 女性の体。黒髪。やたらツバが長い折れ曲がった帽子。そして豊満な体。

 でも、表情はめんどくさそうで、飽き飽きしているように見える。仕事疲れのOLみたいだ。小さなバックを持ってないからOLじゃないみたいだ。


「ってか、戦う必要なくない? 話し合いしようよ。ほら、こっちきなって」


 ちょいちょいと指を動かすが、誰も応じない。

 まぁそれはそうだ。目の前の存在が怖いと感じるのはオレもそう。

 

「あっそ。じゃあさ、もういいや」


 指を上から下に降ろすと、広間に広がっていた土塊が人型になっていく。そしてそれは見上げるほど大きくなっていき、武器を持った。


「ゴーレム……」


 マレウスの言葉が聞こえると、それがなにか分かった。

 が、おれの知ってるゴーレムとは結構違う。

 もっとなんだ大雑把というか、山というか、城というかただただデッカイ人型のイメージがあった。


「モンスターもいっぱい来るし、アンタらみたいなのもたくさん来るし……もううんざり!」

 

 しかし、これは……ゴーレムというより、巨人だ。


「でも、ま、戦おっか。戦うのが好きなんでしょ?」

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