43 双子の有角人の生存確認


「ナーウィスだ」


「フェイラー……っていいます」

 

「オレの部下だった双子だ。探索中に落とし穴にハマってたんだが、よく生き残ってたなあ〜!」


「ちょっ、隊長ッ!?」「く、くるしっ」


 ゴブリンを倒した後に紹介が始まった。

 ふむ、有角人グランは戦闘に特化した種族と聞いていたが、この二人は……あまりそうには見えないな。

 

 線が細いと言えば、いいか。筋肉量も只人と変わらない。

 角の長さや太さも今のルポムと比べて同じくらいだ。

 女性ではないのは見て分かるが……。ジィ〜……。


「なんか、すごい、見られてるな……」


「うん……」


 他の皆も一緒に腕を組んで様子見のよう。

 

「二人は荷物持ちだったんだ。まだ若くて、新入りだった。線が細いって思ったろ」


「あぁ。オレが知ってる有角人グランはルポムとあの王様しか知らんからな」


「せ、成長途中なんだよ、ほっとけ」


「……」


 気の強いお兄ちゃんタイプと、気の弱い弟タイプですかな。

 双子って言ってたから年齢に差はないんだろうが、双子で性格が分かれることもあるのか。

 リアル双子に出会ったことないからな。こんなもんか。


「ンにしても、隊長どうしちまったんだよその体……」


「気になってた……角、折られたの?」


「……まあな。そのこともあってアイツラから追い出されちまった」


「「!!」」


 そうか。有角人グランは角が折れたヤツには容赦はない。

 特に傭兵だのなんだのはそういうご職業だと言っていた。

 ルポムも顔色が悪くなってきたな。どれだけ筋肉が着いたっていっても、今は双子の方が身長がでかいんだ。

 嫌な記憶が頭をよぎってる、みたいな顔だ。


「そういえば、あんたら二人はすぐにルポムのことをその……隊長ってのに気付いたわよね。なんで?」


「分かるだろ。隊長は隊長だ」

 

「うん。角無くても分かる」


「……有角人グランで角が折れたモンは追い出されるか、昔じゃと慰み者になるとも聞いたことがあるが」


「──……」


「オレたちがそんなことするわけないだろ!!! 他の奴らと一緒にすんな!!」


「そ、そうです!! ルポム、隊長は……まだ弱い僕たちを仲間に入れてくれたんです!」


「フェイラーの言う通りだ。姿かたちが変わっても、隊長は隊長だ」


「うんうんっ! でも、ちょっと、かわいいなって思って……」


「バカッ! 隊長はカッコいい……んだ……」


「……?」


「「ぐぅぅっっ……」」


 お、もだえてる。ルポムはたしかに可愛い。

 お洋服を着せてさしあげて、写真を撮ってあげたくなる。ちょっと生意気なのが甥っ子みたいでいいんだよ。

 まぁ、角生えてるし、強膜が黒くて瞳が赤いけど。それも相まって小悪魔だな。

 逆に王様は大悪魔って感じだ。魔王って感じじゃない? 倒そうぜ。勇者いるし。


使?」


 イリアの質問で場が引き締まる。


「……いや、生きてただけで奇跡だ。荷物の中にあった食料で暮らしてたんだろうが、そこまでの長旅じゃなかったからな」


「水はどうしてたんだ」


「落とし穴は地下の用水路に繋がってた。それに、モンスターもいた」


「汚水と、血液か」


「キレイにする方法は学んでます。だから、まぁ……具合は悪いですが」


 おお、すげぇサバイバル。確かに蛇口をひねれば水が出てくるなんてないからな。用水路って言っても、この遺跡の地下にあるのってなったら……まぁ、想像はつくな。


「せっかくの再会で悪いが、二人は連れていけないな。それでいいか?」


「ああ」


 双子は悔しそうだが、納得しなければなるまい。

 

「ふたりとも。帰ったらたくさん飯を食わせてやるからな。キレイな水も」


 うんうん。いい話だ。涙がちょちょぎれる。

 ルポムに抱きしめられる二人は、頬を赤らめてる。

 彼、可愛いからね、仕方ないね。


「アイツが食わしてくれるから。な、カシ」


「あ、オレ?」


「当たり前だろ。オレは料理が作れんのだ」


「はいはい。でも、オレに料理を作らせるってことは分かってるんだろうな……?」


 双子がごくりとツバを飲み込んだ。何が待ってるんだという顔だ。


「デカイ体になるためには、デカイ食い方をしないとダメだ。徹底的に体をデカくしてやるからな。有無は言わさんぞ」


「「っ。……??」」

 

「コイツ、理想の体にするってのを職業にしてるんだ。トレーナー、だっけ?」


 大きく頷く。そのとおりだ。トレーナーですとも。


「だから、二人の体も鍛えてくれるはずだ。オレも、今絶賛アイツに扱かれてる」


 また強く抱きしめて、立ち上がった。


「この戦いが終わったら、一緒に体を鍛えようぜ」


「「!! ハイッ!!」」


 遺跡の壁に二人を置いて、オレたちは遺跡にもう一度入場する。


「じゃあ、いいか?」


「ああ、行こう」


「中弛みはしてないだろうな?」


 イリアの問に、表情を引き締めたまま答える。


「すると思うか……このオレが」


 表情充分。士気も高い。

 最初は緊張をしていたレイも時間が経つにつれて抜けてきた。

 他の皆も準備はよし。


「角を折った恨み、晴らしてやる」


 さぁ、行こう。魔女をぶんなぐりに。

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