第五部:魔女の討伐に胸が躍る

41 いざ行かん。魔女退治


「じゃあ、行ってくるよ」


「ズビッ……うぃ、頑張ってね」


 エルにお留守番を頼んで、西の森にオレたちは向かうことになった。

 飯屋の大将に話を通してみると、その期間は休んでオッケーだと。優しすぎ。

 従業員少ない癖によお。どうやって回すんだっての。


「ルポム、道案内よろしく」


「ああ。任せろ。数ヶ月前に通った道だ」


 当然だが、みんな全身装備だ。

 並ぶ順番は以下の通りです。ご査収ください。


 ◯ルポム:道を知ってるから道案内

 ◯カンナ:斥候という職業だったから罠とか、調査とか兼ねてるらしい。

 ◯イリア:騎士で前衛と後衛のどちらも補助できる位置

 ◯レイ:勇者くんもイリアと同じ動きを任せられている

 ◯アッパコム:神官のため、後衛に。といっても元戦士だから後衛の要だ。

 ◯オレ:言ってしまえば役に立たんが、アッパコムとマレウスの補助。

 ◯マレウス:魔法を使えるし、腕っぷしが強い。彼自身が望んでの最後尾。


 あぁ、大所帯。横並びで歩いてたら倉敷ナンバーに跳ねられるか、暴走自転車に盛大に轢かれるだろう。


 小学校までの道のりで六年生に頑張ってついていった頃を思い出すなあ。友達と話そうとすると横並びになるから、車道にはみ出るんだよ。で、怒られる。

 

 あ、なんだか楽しくなってきたぞ。余裕か?

 森って言っても、オレの実家は森と川と森に挟まれたど田舎だったからな。

 

「すごい……カシが笑ってるわ」


「ん? ん、いや。なんだか楽しくて」


「ふっ、カシらしい」


 なんだか、かしましいみたいだな、それ。

 女三人寄れば姦しい。やかましいって意味だったか。

 おれは煩いからな。間違ってはない。


「西の森ってのはここかあ……」


 どんよりしてる森だな。朝方だってのに、ここだけ夜みたいだ。

 

「道は分かってるから進むが、ここから先はモンスターも出てくる。隊列を乱すなよ」


「分かった」


「っと、勇者サマ。ビビってるヤツから狙われるから気をつけるんだな」


「!! が、がんばるます!!」


 背筋ピーン。そうだよな。村出身で勇者に選ばれたからって急にこんな場所に行けって言われたんだ。

 初めてのおつかいに成功してよかったね〜ってレベルじゃねぇぞ。

 オレも岡山出身だが、こういう森にはよく入って遊んでたからなあ。

 モンスターっていっても、イノシシとかそういう感じだろ?


「灯りは?」


「要らん。敵に場所を教えてるみたいなもんだ……が、二足歩行の足音ってのはわかりやすいからな。くるぞ」


 ルポムが言い放った瞬間、木陰や草むらからいわゆる『モンスター』が出てきた。

 

「ってイノシシやないかーい!」


 腰を低くして盾を構えて、アッパコムの前にまで歩み出る。

 

「おぉ、主人。頼もしい背中ですな」


「あんがとよ」


 そこから戦闘が始まるかと思ったんだが、一瞬だった。


「まあ、こんなところよね」


「だな」


 カンナの弓が的確にイノシシの脳天に突き刺さり、ルポムの小刀が首を跳ね飛ばした。

 武器を構えようとしていた手をゆっくりと降ろす面々。早業ってこういうことをいうのかな。


「やるな、森人エルフ


「伊達に冒険者やってないわよ。アンタもやるじゃない?」


「はっ、元傭兵なめんな」


 カンナってこんなに強かったのか? えっ、冒険者の白金等級ってみんなコレくらい強いの? ぽわぽわとあのヒゲモジャ剣士が率いる冒険者チームが親指を立ててる姿が思い浮かんだ。いや、強そうには見えんが、どうなんだろうな。

 ルポムに限っては角が完全に治ってないのに強すぎんだろ。今までの小さな体に筋トレをしただけだよ?


「オレ……本当にいったか?」


「主人がいるだけで頑張ろうと思える者も多いでしょう」


「そうかね。ならまあ、頑張って生き残るよ」


 最初の戦闘が良い緩和になったところで、奥にずんずんと進んでいく。

 そうするとすぐに見えてきた。


「遺跡……城跡みたいだな」


「魔女がいるのは最奥だ。そこまでは……まぁ色々とある」


「色々ね。分かりやすい説明ありがと」


「ンだよ。斥候なんだろ、行って見てこいよ」


「昔にアンタのところのチームが一回入ったんでしょ? 調査いるの?」


「魔女だぞ。何があるか分からん。それに城だ。攻め入るモンを弾くようになってる。実際……仲間が死んだって言ってたろ。二人が罠にかかって死んだ」


「ほお。わな、か」


 顎髭を扱くマレウスは遺跡を見上げて、目を細めた。


「だからこそ、みんなで入ろう」


 イリアが背中を押すようにして、遺跡の中に入っていく。


「待たんか」


 それを止めたのはマレウス。

 見上げていた顔をゆっくりと戻して、遺跡に手を触れた。


「ふむ。分かった。悪いのお、止めて。進んでええぞ」


「……? ああ」


 真上を見上げてなにがあるんだ? ん? 鳥が飛んでるくらいか。

 マレウスにしか分からないことがあったのだろうか。

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