39 スポーツ選手を教える人はすげぇんだ


「じゃあ、レイ。トレーニングだ」


「はいっ!」


 二人してイリアのトレーニングを終えた後に納屋でのトレーニングに勤しむことに。

 へとへとだが、ある種の合宿みたいなもんだ。

 この後に飯トレって思うほどの肉と米を食う。イリアとのトレーニングと筋トレで消費エネルギーがやっばいんだよ。

 レイは剣を扱うので、ビックスピー(冒険者のヒゲモジャ剣士のことだ)が調子の良いって言ってたメニューをしてみるか。


「フォームチェックをしながらやるのは、全身のトレーニングだ」


「お、おぉ……全身、ですか」


 腕とか脚とかを労ってるのか? イリアので疲労してるもんな。


「安心してくれ。あくまでもイリアの方がメインだ」


 イリアは有酸素込みの素振りとかそういう系が多い。

 あと瞬発系だな。アスリートのトレーニングに親しいなにかを感じた。

 筋肉トレーニングと有酸素はできる限り同じ日にしたくはないから、オレの方はまったりとするつもりだ。


 というか筋肉をでっかくするというよりかは、筋力トレーニングになるな。瞬発的な力を発揮するって方向にしたほうがいいのだろうか。いや、筋持久力……?


「あのお……?」


「どっちがいい? 長く戦える筋肉と、瞬発的な火力か」


「それは〜……難題ですね」


「男の子なら悩むよなあ、分かる分かる」


「ん〜…………」


 ボディメイクならぬキャラメイクだ。

 すばやいキャラクターか、ムキムキの一撃必殺型か。


「……どっちもというのは」


 そうくるよな。オレだってそうする。


「やってみるか?」


「! はいっ!!」


 イリアの方で持久力という面で鍛えてもらっているから、オレの方では筋力を伸ばす方向でトレーニングをしてみるか。

 両立できるかどうかは選手の育成とかやったことないから分からんが、出来得る限りの知識で実践してみよう。


「じゃあ、イリアの方とも相談してトレーニング内容を二分化しようと思う。オレの方は完全に筋力トレーニングに特化するぞ」


「了解です! 教官ッ!」


「うるさい!!!! オレはオマエの教官ではない!!」


「えええっ」


「カシって呼ぶか、トレーナーって呼ぶか、先生って呼べ」


「あ、あぅ……じゃあ、カシ先生で」


「それで良い」


 そういうので良いんだよ。教官って言われるほど、教えられるもんはないからな。

 じゃあ先生って言うほど教えられんのかって言われても知らん。いいだろ。イメージだよイメージ。


「あのぅ、カシ先生」


「なんだね」


「その筋力トレーニングっていうのは、どういうものなのでしょうか……?」


「あ。そうか。そうだよな。ちょっと久々に解説するか」


 オレは指を二本立てた。


「筋肉ってのは、速筋と遅筋ってのがある。速筋のほうが速い筋肉って書くこともあって、力が強い。遅筋はその逆。遅い筋肉って書くからそんなに力が出ないんだ」


「……ふ、ふむ」


「今回、レイにつけてもらいたいのはこの『速筋』になるが、レイはデカくもなりたいんだよな」


「はい」


「じゃあ、筋肥大を狙ったトレーニングと筋力を伸ばすトレーニングをしよう」

 

 といけしゃあしゃあと語ってるが、正直不安である。


 オレは『体を作るためのトレーニング』であり『運動機能を向上させるトレーニング』は門外漢だ。


 野球のイチロー選手は「体のバランスが崩れるから」とウェイトトレーニングの否定派だった。

 野球のダルビッシュ選手は「体のバランスを保ったまま、筋トレで補強する」と肯定派。可能性を広げるための筋トレって言ってた。


 オレがスポーツに通じてたトレーナーだったら良かったんだが、そうじゃない。

 そんな中でオレができることといえばこの「体のバランスを見ながら、筋肥大が目的にならず、動作を損なわいように筋力を伸ばす」だろう。

 要は、レイの調子を見ながらレイの今現在の「体を扱う技術」を損なわないように筋肉をバランスよく付ける。


 おいおい、難題か? 難しすぎんだろ。スポーツ選手とトレーニング教える人ってすげえ。


「ま。オレも成長過程だから、ぼちぼちと行きましょうや」


「わかりました! よろしくおねがいします!」


 はい、予防線ピーッ。これで失敗した時も攻められんな。悪いレイ。こんな大人だが、許してくれな。

 が、最初はやいやい考えずに筋力を伸ばすトレーニングをしましょう。

 瞬発力だのなんだのをする前に、レイは体がまだ小さい。土台を作ってから移行していきましょ。


「序盤は筋肥大を狙ったトレーニングと筋力を伸ばすトレーニングをしていくから、ビッグ3を中心にして組み立てていくぞ」


 ◯ベンチプレス

 ◯スクワット

 ◯デッドリフト


 これで体の土台づくりをして、定期的に体の様子を見て、適宜追加していく。

 トレーニングノートにメモメモ。って、これ、魔女を倒しに行くまでにできるか? できるわけ無いか。

 あ〜……ごめんよ、オレはそこまで役に立たんかもしれん。


「なんでそんな泣きそうなかおを……」


「いや……筋トレの厳しさをな。今回ばかりは、一気に筋肉なりなんなりが着いたらと思ったよ」


 成長を楽しむのが筋トレの醍醐味。だが、レイのことを思うと「毎日これだけでシックスパック!」とかいう宣伝文句が現実であってほしいと思うよ。

 いやいや、なに教える側が不安がってるんだ。オレがしっかりしないと、レイまで不安になるだろ。


「が、全力を尽くす。頑張って魔女を倒そう」


「はい!」


 固い握手をして、トレーニングに入っていった。



 トレーニングノート


【 名 前 】レイ(金髪、藍色の瞳、かわいい)

【 職 業 】勇者

【 代 謝 】1900

【筋トレ内容】BIG3を中心とした筋肥大・筋力トレーニング>この後に種目数や瞬発系のトレーニングへ移行(予定)




 

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