38 おいおい、オレもですか
勇者とルポムを中心に筋トレを行っていくことになりました。
勇者──レイくんだ。名前を覚えてあげてね。オレはたまに間違えそうになる。
光線くんって呼ぼうかな。怒られるかな。
横文字って平然に対応してたけど、これ以上増えたら厳しいんだけど。
そろそろ、佐藤とか中野とか山田とかそういう系の名前出てこないかな。出てこないか。
「はあ〜、ちかれた」
「カシ、ここらへんがわからないんだけど」
「料理のことでアンタに聞きたいことがあって」
「主人はお疲れのようですので、皆様はあちらで」
「「ぶぅ〜」」
食卓でアッパコムが労いの肩もみ。
溶けるが〜。おれって脂溶性だったのかな。ビタミンDかもしれん。あーみんなを健康にします。ふぇ〜。
「そういえば、魔女のところに行くのはいつごろになったのですかな?」
「ん。あと6日後だってさ」
「ふむ。でしたら、装備なども揃えなければですな」
「そうだねえ……」
食卓で揉まれてうあうあ言ってると、寝込んでるエル以外のみんなが揃ってきた。
今日は飯屋はお休みらしい。今まで働きっぱなしだったアッパコムも休日。
なんと、お給料が上がったらしい。おやっさんやるなあ。
売上が上がったことで、休みの日を作っちゃったらしい。
余裕があるってのはいいことだ。
「でも、みんな装備持ってんじゃないのか? あ、ルポムは新調しないとか。でもそれくらいじゃないか?」
「オレの装備はあるぞ? 余ってたカネで買った。使ってないだけでな。部屋には置いてるぞ」
「あ、そうなの」
「イリア殿、マレウス殿、カンナ殿も行くのでしたか。あとレイ殿はもちろんとして。拙僧も愉しそうですので参加致しますよ」
「みんな装備とか持ってるんじゃないのか?」
「ええ。持っていますとも」
「? それじゃあ誰が」
「ご主人さまの」
「ふぇ?」
ん? 聞き間違いか?
「オレの装備?」
「えぇ。行かれるのでしょう? 装備を持っておられないようですので」
「あー……持ってはないが、えっ、オレも行くのか?」
「おいおい行かないつもりだったのかよ」
「カシさん、行きましょう! 一緒に倒すんですよ!」
ルポムとレイから言い寄られてマレウスに視線を飛ばす。
「なんじゃあ? 男じゃろう。もちろん、行くじゃろ?」
「オレ、戦ったことないけど」
「ならば、ほれ、一席殿から学べばええじゃろ。勇者と混ざれ混ざれ」
「あー…………」
「カシも武器を取るか! 素晴らしい!! ともに汗を流そうぞ!」
「へえ、カシって戦えるんだ」
「だから戦ったことないっての!」
今更になって『オカケン』が言ってた、剣と魔法の世界ってことを思い出した。
あーーーー、だから『オカケン』は渋ってたのか。なるほどなあ。
『え、オマエみたいなぬるちゃぷが異世界で通用できるとでも?』って顔してた気がしてきた。
「まぁ、仕方ないか。ズブの素人だが、よろしく頼むよ」
なんとかなるだろう精神で行こう。
お、レイくんどうした。オレの腕を握って。あらかわいい。
そんな目で見ても期待されているようなことはできんぞ。
おいおいなんでカンナはそんなにレイのことを睨んでるんだよ。とりあえず、今はプロテインでパンケーキを作ってるところだろ。教えたレシピを見て、頑張ってくれ。エプロン姿似合ってるぞ。
「としても、だな。気負うことはない。カシの知識というのは無くてはならんものだ。死なれては困るからな」
「? じゃあ何したらいいんだ?」
「今回は、とりあえずは盾を持っていこう。剣術などそうすぐに上達するものでもなし」
「盾を持って後ろの方に突っ立ってろって?」
「いいや、術士と神官を護る役目を任せたい。重要な仕事だ」
あ、これ乗せられるヤツだ。
言い方が上手いな。さすが、イリア。騎士団の上司ポジにいたのは伊達じゃないな。初心者にもちゃんと役割をもたせる。うんうん。いいことだ。
「分かったよ。ってことは、マレウスとアッパコムを護ればいいんだな」
「主人に護られるとは光栄ですな」
「カシのガタイなら盾が似合うと思っとったわい。両手持ちにするか? 片手持ちにして、斧でも握っとくか?」
「斧ってのは便利ですからな。ぶん回す。これ正解の動き。駆け引きも少なくてすみましょう」
盾と斧……って。
「お。なんじゃ。
「
「うっさいわい。
「残念。私は斥候よ。弓は使うけど、短剣が主なんだから」
「魔法は」
「精霊にお願いするだけでしょ?」
「はあ……これじゃから」
何を言ってるか分からんが、黙って聞いておこう。
知ったかぶりをするのが恥だが、あとで誰か教えてくれるはずだ。
それか、そのうちウィキとか出てきて、教えてくれると信じておこう。
「耳長は放っておいてじゃな。戦斧なら昔に住み込みをしとったモンが作ったのがあるぞ。盾は」
「盾は騎士団に所属していた時に持っていた物を貸そう。くれぐれもなくさないようにな」
「おお、わかった。ありがとう」
「まあ安心してくれ。私がいる。騎士は前衛も後衛も務めることができる。今回の主役はルポムとレイだしな」
「がんばります」「任せろ」
そんなこんなでトントン拍子に話が進んでいった。
戦う気なんてなかったが、頑張るしかないよな。
それにしても魔女か……どんなやつなんだろ。魔法を使うのはその名前からして分かるんだけど。
「魔女は魔法をつかうんだよお……」
「起きてたのか」
「氷枕がひやってしたもん〜、起きちゃった」
エルの部屋にやってきて、いつもの経過観察。
具合は段々と良くなっているみたいだが、本調子に戻るのはまだ少しみたいだ。
「魔女……はね、なんでもできる、みたいなことを聞いたことがあるなあ……」
「なんでもできる?」
「うん。よくわからないんだけど、死なないーとか消えたり、遠いところに急にでてきたり、とか」
なんだそれ、どうやって倒すんだ。
レイやルポムはなにか勝てる算段でもあるんだろうか。
「カシも、戦うの?」
「なりゆきでな。戦ったことないんだが」
「…………やっぱり、カシはやさしいねえ……」
「なんだそれ。……え、寝た? うそ、マジ? えっ」
すぅすぅと気持ちよさそうな寝息が聞こえてきた。
回復してたと思ったら、そんなことはないのか?
「……オレは優しくないっての」
ズレてた氷枕を直した。
「でも、頑張ろうとは思ってるよ」
──ほんとにお人好しだな、オマエ。
昔に言われた言葉を思い出して、ゆっくりと肩で呼吸をした。
人と関わるのが好きだから、トレーナーをしてる。
筋トレをしたいだけなら、筋トレだけやってるだろう。
「……オレは、多分、根っから人が好きなんだろうなあ」
めんどくさがり屋ではあるとは思う。
あと、性格も悪いと思ってる。よく喧嘩をしてたし。
特別嫌いな人ってのがそこまでいなかった。あ、友達のことを悪く言うヤツが嫌いではあったな。
異世界に来てまで、人のためになにか頑張ろうとするとは思っても見なかった。人は変わらんってやつか。
「エルもはやく元気になるんだぞ」
異世界でボディビルの大会を開こうとしてるだけなのになぁ。
それがいつの間にか魔女退治になってるとは、誰が想像つくか。
「さっ、もう一踏ん張りするかあ〜」
レイとルポムへの筋トレ。それと斧と盾を使っての戦闘訓練。
残り少ない日数で、詰め込むだけ詰め込まないとな
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