第四部:思わぬ出会いから始まる
34 新たな入居者が来ちゃ
「この部屋を使うといい」
「わ、わっ、わああああ……部屋、使って、いいんですかっ!?」
「ええぞい。掃除じゃなんじゃは自分でするんじゃぞ?」
「はいっ!」
金髪の少年を家に招くと、マレウスが「せっかくじゃから住まわせたらええ」と太っ腹なことを言ってくれた。
とりあえず、三編みを触らせてもらった。ありがとう、マレウス。
前から鍛冶師の弟子とか見習いを住み込ませて、色々としていたから親分というかおやっさんというか、面倒見がいいのはそうなんだろう。
これで、二階の部屋は満員だ。本来なら家賃を徴収したら不労所得がゲットできるっていうのに、マレウスは金っけがない。
それはそれでどうなのかと思うんだが、今はご厚意に甘えておく。
ありがとうマレウス。さぁ、みんなもありがとうマレウス。うん。
「ぅ、おあお〜……うぅ、きもちわるいぃ……」
布団をかぶったままエルが階段から降りてきた。
「調子はどうだ?」
「みてのとおりだよお……この時期、しんどいんだあ……」
ずるずると布団を引きずりながら食卓に座って、ズビッと鼻をすする。
こりゃあしんどそうだ。こんな時にプロテインを飲めっていうのもアレだが、たんぱく質は体を構成するのに必要だ。
何もしなくても、体重の一倍のたんぱく質が必要。
この時期は、筋トレをしている時と同じかソレ以上と仮定をして体重×2〜2.6倍を飲んでもらってる。
あまり飲みすぎるとたんぱく質だって脂肪に変わるからな。でも、もう少し多めの量にしても良さそうだ。
「……ン、お」体を傾け、食卓の窓から見える外に目を向けて「ありゃ……?」
「気付いたか? 昨日から家の人間が増えたんだ」
「こども……?」
「あぁ。田舎から出てきた子どもらしい。城の中にいたみたいで、イリアに鍛えてほしいって言ってきてな」
「イリアちなんだ〜……カシちじゃなく?」
「基礎体力とか、戦い方をイリアが教えて。ウェイトトレーニングをオレがするって形かな」
悪いが、オレの専門はマシンを使ったトレーニングで、体力づくりだなんだってのはあまり専門じゃあない。
走り込みだの、木剣での打ち合いだの。剣道のときの話くらいしかできん。すり足で、中段の構えをして体育館を端から端まで走れって言ってみるか?
「ふぇあ……あ、そうだ。カシちに、さぷりきれちゃった……。ふるーつじゅーすも」
「お、もう切れたのか? ちゃんと言った数を飲んでるんだろうなあ? 飲みすぎも体に毒だぞ」
「だってえ……羽が大きくなるかもって思うと、頑張ろう〜、ってヘヘ」
「ン。イリアに渡してるサプリメントの中で脂溶性のがある。ビタミンDとKだな。あ、ルポム!! ルポムのやつも同じだからな!!」
仕事に出かけようとしてた所に声をかけると、ギクッと肩を上げていた。
「あれ、飲みすぎ、ダメなのか……?」
「ダメだ。嘔吐とか食欲が湧かなかったりするぞ。気をつけるんだぞ。あといってらっしゃい」
「ン……分かったよ」
「アッパコムも頼むな。あと、たまには休むんだぞ?」
「ふふふ、問題ありませんよ。子どもが増えたので、もっと頑張ろうかと思っているところです」
「いや、あの子からは金をもらってるぞ」
「おや。あんな子どもがお金を……?」
「村から出る時に渡されたらしい。それを俺らにほとんど渡してきた。から、金銭面は大丈夫だ」
「そうですか。とまれ、あればあるだけ困りませんので。行ってきます」
「はい、気をつけて〜」
今日はアッパコムとルポムか。あの二人は今はニコイチにしたほうがいいからな。
にしても、イリアは鬼教官だな。少年が汗だくだくになってるじゃないか。
そう思ってると、ばさっと頭の上から毛布がかかってきた。
「かしち〜……ねむたい……きぶんわるいぃ」
「体あつっ!? 発熱してるじゃないか」
真上を見上げると、汗だくのエル。
下に降りてこれるようになったのかと思ってたら、まだまだしんどそうだ。
「えらいなら無理しなくてもいいぞ」
「えらいぃ……? なにぃ〜?」
「揺れるな揺れるな。えらいって……あー」
悪い。方言だ。
岡山の「えらい」は「しんどい」って意味。通じるわけもなかった。
「なんでもない。部屋まで運ぶか?」
「ンィ、ありがと〜……」
このままだと抱きかかえられないから、少し後ろに下がってもらって布団ごと抱きかかえる。
「わるいねぇ……」
「悪いわけあるか。オレの勝手に付き合ってくれてんだから、フォローはするよ。それにエルは軽いからな。運びやすい」
「なにそれえ」
軽くて、胸筋が発達してることで速い速度で飛べてたんだろう。
「体がよくなって、羽がでかくなったら、筋トレして
「…………」
ンにしても体アツすぎないか?
換羽期って発熱症状あったっけか。
氷枕とか用意してみた方がいいかな。
「……どうした?」
「ンヒッ、なんでもっ、ないっ、よっ?」
「なに顔隠してんだ」
「はなみず、とか、いろいろ、きたないからあ」
「はいはい」
部屋に連れて行って、マレウスに氷枕の作り方を聞いてやっておいた。
段々と体調がよくなってるみたいだから、経過観察は良好。あとは新入りをどうしごくかだな。
イリアが朝に特訓をして、夜にオレがトレーニングをする。
本当は逆が良いんだが、イリアの方が今は過酷なトレーニング内容だからな。オレの方が厳しいトレーニングをするようになったら色々と考えていこう。
「若いのが成長するのが、一番楽しみだ」
って、カンナはどこいった?
あ、部屋から寝息が聞こえる。朝が弱いのは相変わらずだな。
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