33 体がでかいとこうなるのか



「申し訳ない」


「なんでジュリアスが謝るんだよ」


「いや、これは謝って気持ちを楽にしようとしただけだ。ボクが案内した結果、こうなった訳だからね。眠る時に思い出したくないんだ」


「あら正直。そういうの好きだぞ」


 なんだか憎めないからこれはこれでよし。 

 ひりつく尻を抑え、来た道を帰っていく。


「ってか、イリア。国の外に行けって言われたんだな」


「……ああ」


 だから初めて会った時に酷い顔をしてたのか。

 王国軍ってのは、イメージが間違ってないと国王様が社長の会社みたいなもんだろう。

 で、イリアはそれなりに高い位置にいた。ってことは、それなりと国王と話したりなんやかんやある間柄だったのかもな。

 

「体がデカイだけで国外追放ねぇ……」


「……」


「そのことなんだが、ボクも納得がいかずにイリアが退役させられた時に色々と調べてみたんだ。過去の文献なりなんなりを。したら出てきたよ。ギリギリ納得できそうな理由がね」


 ジュリアスは指を立てて、周りを確認。人っけが居ない場所にオレたちを押し込めて、こそっと耳打ち。


「このデュアラル王国は、いわゆる宗教国家でね。国王を選ぶのが神様なんだ」


「なんだそら」


「国王の上に神さまがいるって感じじゃよ。珍しくはない。ここ、デュアラル王国は秩序の神が信仰対象じゃからのお」


「で、ここから。その選ばれる基準なんだけど、ここまで行くと分かるかな?」


 は、まさか。おいまて、そんなことあるのか?


「体がデカイヤツを選んでるって……?」


「イグザクトリー。そのとおり〜」


 となると、騎士団の中でも高い位にいたイリアを外に追い出す理由って。


「国王の座を……イリアに奪われるかもしれんから、その可能性があるやつを国の外に追い出した……?」


「その可能性が高い」


 オレは、イリアの顔が歪むのを見逃さなかった。

 彼女の顔は、いつも涼しげで、ところどころで愉しそうな顔をする。


 でも、今のイリアの表情は悔しさと屈辱を滲ましていた。他の三人には見えないところで、歯を噛み締めて。


「…………そういう、ことだったんだな」


「やっぱり有角人グランの誇りもなにもねぇカス野郎じゃねぇか」


「アレでも何十年とこの国を治めとる国王じゃからのお。……いや、今までもそうやってイリア殿のようなモンを外へ追いやってたんかもしらんな」


「まぁ、有角人グランは強靭な体な種族だ。ボクなんかじゃあ超えられない。超えられるとしたら、同じ有角人グランか……それこそイリアかだろうね」


 説明を受けた後、オレたちはご丁寧に門の外まで見送ってもらった。

 

「……」


 とんでもない話を聞いた。

 質が悪いのが、その手の話を隠していることだ。知ってる人間もいるんだろうが……。


「カシ。これからどうするんだ? あの国王さんなら強制的に国外に追い出すことくらいどうってことないぞ」


「今日の釣果は0じゃしのお」


「いや、最高にいい話を聞いたよ」


「……?」


「あの話を聞いて、イリアはどうしたい?」


「…………わたしは、分からない。が、ちょっと、ゆっくりしたい気分だ」


「そうか。分かった。こういう時にしっかりと休むのは大事だ。だけど、筋トレはしてもらうぞ?」


「……ああ」


 メンタルが落ち込んだ時に必要なのは慰めとかじゃなく、自分と向き合う時間だ。

 メンタルってのは厄介で、すぐに治らん。そもそも治らんこともある。

 でも、ゆっくりと向き合っていって、立ち直っていく。

 社会ってのは生きづらいもんだ。みんなエラでも生えてんのかな。すげえや。


 ちなみに、オレはこんなんだが、メンタルが落ち込みやすいからな。

 気持ちが分かるぞ。


「イリアはもう一人じゃないし、頼ってくれていいからな」


 とりあえず、かけられる言葉はここくらいか。

 さて、と。今後の方針はどうしたもんか。

 

 異世界の洗礼を受けた気分だ。

 こういうのが来ると、いままで上手く行ってた時のやり方を忘れるよな。夢の中で走り方を忘れたときみたいになる。


 …………が、確実に進んでいくしかないな。


「あっ、、あ、あのっ、す、すみませんっ!!」


「ン」「ム」「なんじゃ?」「……?」


 後ろをトテトテと大きな剣を胸に抱いて近寄ってきたのは、金髪の少年だった。

 背丈はルポムくらいか。目がキラキラ輝いててキレイな子だ。

 

「ぼ、ぼくをっ、鍛えてくださいませんか!!」


「…………」


「城の中から、見ててっ! 兵士さんとの戦い、見てましたッ!」


 腰を折って、頭を下げた。


「ぼく、強くなりたいんです!! お願いします!」


 その先にいるのはオレではない。


「わ、わたし……?」


 イリアがこちらを見た。頷く。

 見る目があるな。この少年。 


 そりゃあ城の中であんな戦いを見せられたら、たまったもんじゃない。

 イリアのことを知らないってことは、騎士団に入ったばかりの子どもか、たまたま城の中にいた子とかそんな感じだろう。


「こりゃあ、釣果1じゃったのお。大物じゃ」


「キレイな目してるしなあ」


「角が他人を認めるのは初めてじゃないか?」


「うっせ」


 マレウスがニカッと歯を見せて笑い、ルポムはそのスネを蹴っていた。

 その間にイリスに肘で小突いておく。


「イリア、返事は? どうするんだ?」


「…………わたしは」


 少年の瞳にイリアが圧されてる。やるなぁ。


「厳しいが、それでもいいなら」


「ぜひ! お願いします!!」


 頭を下げる度に胸に抱いてる剣がカチャと擦れる。

 オレたちは目を見合わせて笑った。

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