30 見えたっ! 課題解決の糸ッ



 マレウス家の二階の奥の部屋から寝起きのオレが登場。

 二階の部屋が寝室になってる。一人一部屋っていうのが凄い。それでまだ部屋が余ってるんだから凄いや。

 螺旋階段を降りて、一階に降りる。一階は鍛冶場とか炊事場、入浴場とか生活に必要なものがあるって感じ。

 

「ふあああ……」


 目覚ましなんてもんはないが、決まった時間に寝て、決まった時間に起きる。

 夜型の人間だが、ほとんど完全在宅のお仕事みたいなもんだから頑張れる。

 これで満員電車に乗れって言われたら無理だ。本当に世の社会人には頭が上がらん。 


「お、おはようアッパコム、今日はお暇?」


「おぉ、主人殿。今日も早朝からお仕事ですとも」


「なんだぁそっかぁ。ってか、アッパコムだけ入る日数多くないか?」


「一人だけお高いお肉を食べさせて頂いておりますゆえ」


「気にしてんのか。まぁ、こっちが上手く回りだしたら食費とかに回せれるから、今は迷惑かけるな」


 一階に降りると、眼鏡を付けて新聞を呼んでいるアッパコムがいた。

 さすがG7のテーブル。大きいアッパコムがいても小さく見える。これが遠近法か。

 

「今日は主人殿は?」


「あぁ、王国軍に売り込み。冒険者の方の売り込みである程度の認知度は得られたからな」


 ふあ、とあくびをしながらボードを開く。

 

「いまのMPは……おお、650か」


 内訳は見えんが、あの冒険者三人……あ、名前を覚えたから一応それで数えるか。


 ・ヒゲモジャ剣士──シドニー・ビッグスピー:100MP(筋トレの認知)+20MP(オレの認知)

 ・陽気な弓使い──リッチ・フエゴ:100MP+20MP

 ・ムキムキ神官──ゴルゴンゾーラ・マッスル:100MP+20MP


 これだけで、360MP。

 で、今が1ヶ月の内の17日目。オレの筋肉で得られるポイントで……って、あれ。

 

「15MPに増えてる」


 全く気が付かなかった。そういえば、体はでかくなったなとは思っていた……。

 食生活やトレーニングが身近になって、それに集中できているっていうのもあるだろうし、この世界の人間の体になったといえばいいか。

 でも挙上重量とかそんな上がってないのがなあ〜、トホホ。


 マシンを買った時はまだ10とかだった気がするから、いつから変わったんだ?

 まぁ、適当に計算しようか。とりあえず、一昨日(15日)からそうだとして。

 150MP+30MPで、180MP。


「これで、360と180でえーと、540? となると、あと5,6人に認知されたって感じか。おもしろ」


 最近はMPを使わないようにしてたからな。

 プロテインがもうなくなりそうだから欲しいんだが、まぁそこらはまた後で考えよう。

 リアルフードを食べられるなら、リアルフードの方がいいもんな。


「でも、とりあえずは毎月の支払いに間に合いそうだな」


「……主人のスキルは面妖ですなあ」


「そうか? アッパコムの使う奇跡ってのも不思議だけどな」


「ふむ。としても神のお力を借りて発動するもの。人智を超えたものであるものは当然かと」


「ならオレのもそうだな。一緒一緒」


 隣に座って、くあ、とあくび。

 どれだけ寝ても寝たりん。体がバキバキだ。


 あー…………眠い。アシュワガンダ飲みたい……疲労回復してぇ。でも、毎月の支払いがあるからホイホイと使うのもなぁって感じだ。


 マルチビタミンも買おうと思ってたんだ。七人もいりゃあすぐに切れる。


「おつかれのようでしたら、奇跡は一ついかがでしょうか?」


「……奇跡で疲れが取れるの?」


「ええ。奇跡といえども種類があります。私の信仰する神はいくらかわかりやすいもので。とりあえず、お試しに。初回無料でいかがでしょうか?」


「じゃあ、頼むよ」


 ゆら、と指先を動かして額に当てるとアッパコムはスッと目を瞑る。

 オレもつむったほうがいいのか? つむっとくか。

 あ、アッパコム笑った。瞑らない方が良かった? まぁいいか。


「アナレプテク」


 ぽぅ、と瞼を閉じていても分かるほどのあかりが灯り、和らいでいく。

 

「はい。おしまいです」


「おわったのか?」


「はい。立ってみて具合を試してみてください」


 ん、何も違いなんて──


「お」


 体かるっ!? やばっ。え、すご。


「すげぇ……さっきまでの疲れどっかいった……。……!? ちょっとまて」


 直立不動のまま、ゆっくりと簡単に谷間を作るように胸に力を入れた後に、両腕をピンッと地面に向けて伸ばす。

 

「うん、大胸筋も、うん……三頭筋も……」


 その後は、両肘を背中で着ける(もちろん、つけることはできないが)ようにしてみる。


「背中……僧帽筋も」徐々にくっつける位置を下の方にずらし行く。「上背部も下背部も」


「どうですかな?」


「筋肉痛がなくなった……すげぇ、なにやったの?」


「いまやったのは簡単な奇跡です。ちいさな傷口にするようなものです。疲れを取るのには丁度これくらいが良いかと」


 さらっと言ってるが、とんでもないな。

 再生力を底上げしたのか? 自然治癒能力を上げたってことは……。


「一部の細胞だけを活性化させた? 細胞ってのは分裂する回数が決まってるっていうが、ある種の寿命の前借りじゃあないのか?」 


 顎に手をやって考える。

 体の仕組みにそこまで精通している訳じゃあないから、素人は黙っとれ状態だが、どうなんだ。


「カシ殿」


 悩むオレの肩に手を置いて、アッパコムは笑った。


「神の奇跡ですので、ご心配ならさらず」


「そっか! 奇跡だもんな!」


 なんだ、奇跡か。だったらいっか。

 この手の摩訶不思議の現象に頭を一々捻ってたら頭がねじ切れて、そのうち首だけでタケコプターができるようになる。

 異世界ってすげーぇ、それでいいのだ。


「ってか、これ使ったらさ」


「?」


「…………うん、たぶん、いけるな」


 MPストアをおもっくそ開いて、縦にスクロールしていく。

 

「ビタミンK、ビタミンD、カルシウム……ケラチンのことも考えて、食事も、そうだな。あと……たんぱく質も、結局プロテインかな。あの体で固形物をそこまで消化できるとも……うーん」


 疲労回復したから、頭がよく回る。まじでタケコプターかもしらん。精神的タケコプターだ。脳みそがぶんぶん言うとります。

 ずっとどうしようか悩んでいた課題が、二つ解決しそうだ。ぽちっとな。


「おぉ、なにか出てきましたな。それは……?」


「サプリメントだよ。アイツに今後とってもらうための。こっちはプロテイン、フルーツ味」


「ほお。……ふむ、主人。とても楽しそうな顔をしておりますな」


「そうか? そうかもな。挑戦ってのはいつだって楽しいもんだ」


 その時、階段から降りてくる足音が二つ。


「おはお〜……あれ、カシち起きるの早いねー……」


「……はよ」


「お、丁度よかった。ルポム、エル。こっちきて」


「?」「?」


「これはルポムに、こっちはエルに。ルポムのこっちは毎食後に飲んでね。エルのは空腹時間を空けないように定期的にこっちを飲んでほしい」


「なんだこれ……変なのに入ってるけど」


「ナウ◯ーズだ。オレがいつもお世話になってたサプリメント。安心して飲め」


「カシち、これは〜?」


「エルが前、フルーツが好きって言ってたからフルーツ味のプロテインを買ってみた。知り合いが、そのメーカーのフルーツは美味いって言ってたからな」


 ネイチャ◯カン。マイプ◯テインの前の社長が立ち上げた人気急上昇中の会社だ。

 オレはまだ飲んだことはなかったが、きっと気に入ってくれるだろう。


「試しに、今、飲んでみてほしい。ルポムはちょっと今回ばかりは食後じゃないけど」


「…………わかった」「よしきた!」


 ふたりとも、なにか意図があると思ったのだろう。素直に聞いてくれたな。


「ぽむぽむ。これ飲んでから飲む?」


「いいのか?」


「もちこーす!」


「……ジュースじゃないのか、これ」


「え、うわ、ほんとだ。……プロテインなの?」


「気に入ったか?」


「うん!! 美味しい!!」


「オレにも自分専用のヤツくれよ。プロテイン、だっけ」


「もうちょっと集客が上手く行ったら、みんなが気に入ったプロテインをそれぞれ買うつもりだから」


「へっ、頑張れって話か。わかりやすいなっ──と」


 うん、これで二人は体のなかに栄養素がある状態だ。


「今、ルポムに飲んでもらったのは骨に必要な栄養素のサプリメントだ。ビタミンKとビタミンDとカルシウム。あと、まぁたんぱく質もだな。エルのは羽の合成に必要な栄養素、知っての通りたんぱく質だ。以前から多めに摂るように意識してもらってたが、そこまで食べられないエルは固形物で摂るのがきついだろうから専用のプロテインで飲んでもらう」


「「……?」」


 オレは医者じゃないし、これで正解かもどうかはしらん。

 が、やれることはやってみないとな。


「ルポムの角は自然治癒じゃあ治らないって言ってたよな?」


「……あぁ」


「エルの羽も、次の換羽期が来ないと生え変わらないだろう」


「だとおもう」


「じゃあ、ちょっと、いろいろを試してみたいから……アッパコム。頼んだ」


 目配せすると意図が伝わったよう。口元に笑みを湛えて、二人の額に指をあてた。あ、やっぱりふたりとも目を閉じた。そうだよな。なんかな、閉じちゃうんだよ。


「アナレプティク」


 まばゆい光に包まれると、これは面白い結果になった。


「…………折れてた角が、伸びた……?」


「わ、わ、わあっ、羽が、落ち始めたよっ!?」


「効果てきめんだな。ありがとうアッパコム」


「いいえ。ですが、おもいつきにしては素晴らしいです」


「筋肉が大きくなるのと同じ原理でいけんかと思ってな。試しみたら、うまくいきそうだ」


 体の中に栄養を取り入れ、それを奇跡で誘導させ特定の箇所に栄養素を偏らせる。

 細胞やらなんやらが再生する際に余分にあまった栄養を使って、再構築。

 原理は説明できんが、イメージはこんな感じ。筋肉も筋肉を傷つけて、そこに血流がいって、でかくなる。その「傷つける工程」というか「傷ついた所修復しようとする」工程を奇跡でできんもんかと思ったわけだ。


 その結果、ルポムの角が伸びて、エルは羽の生え変わりが始まった。

 よかった。まじでよかった……。


「ルポムはこれから、毎食後、同じようにアッパコムからの奇跡を受けること」


「お、おう!!」


「エルは強制的に羽の生え変わりが始まったから、多分、体調的にしんどい時もあると思うから仕事は休むように、トレーニングも中止。ただ、その間は栄養だけはしっかりと摂るように。サプリメントも追加しておく」


「う、うんっ」


 キラキラと輝く二人の瞳を見て、一安心。ほっとしたらなんだか疲れたな。これで、エルとルポムの問題は一歩前進だ。 


「朝からいい仕事したから、気分がいいな。このまま王国軍の方に売り込みが成功したらいいんだが」


 こういう上手く回ってるときこそ、怖いんだよなぁ。

 

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