28 惚れ惚れとしちゃうわ



 その後も男たちの質疑応答に答えていき、波が去った後に後方彼氏面していた三人組が近くによってきた。


「これで、貸し借りはなしだな」


「ありがとう。助かった」


「いいっての恥ずかしい」


「それにしてもあのトレーニング凄いよな。今でも続けてるぞ。食事もちょっと気にしてるし」


「ちょっとだけな、本当にちょっとだけ」


 三人に教えたトレーニング内容は簡単だ。


 ヒゲモジャの剣士には、三頭筋や肩を狙った腕立て伏せ。体幹トレーニング。足腰を鍛えるためのスクワットや、すり足の仕方。これは力士のを参考にした。足腰がしっかりしていないと力を加えにくいからな。


 陽気な弓使いには、カンナと同じようなメニューを自重でするように伝えていた。背中と肩、それと少しの腕。主に背中だな。懸垂の持ち手の選び方と、背筋のやり方を。足腰や体幹も一緒。


 ムキムキな神官には、とりあえず足腰を鍛えるためにおもりを付けてのスクワットとカーフレイズを教えていた。集中力って言ってたし。あとは、武器は拳らしいからボクシングの人がやってたっていうトレーニングをおすすめしておいた。いうても懸垂と走り込みだ。


 ってか、この三人、名前なんだっけ? 

 聞いたっけ。まぁいいか。名前を覚えるの得意じゃあないんだよ。

 親戚の名前とか、田舎特有の勝手に家に上がってくるおばちゃんおじちゃんの名前なんかいまだに覚えてない。


「でも、あの時からやってるならそろそろ飽きてきたころじゃないか?」


 三人からの反応は概ね予想通り。若干飽きてきてるみたいだ。

 多分、用法用量を守らず勇み足でやり続けて、若干のオーバートレーニングにもなってるだろう。

 筋トレってのは効果が出て楽しくなっても嫌になることだってある。


「じゃあ、丁度いい。あの時に教えた内容をすこしアップグレードできるんだ。それこそ、インクラインベンチプレスを教えることができる」


「インクラインベンチプレスはトレーニングの内容なのか!?」


「ああ! マシンを導入した。筋トレの効果を高めることができるぞ。暇があったらさっきいった場所にきてくれ」


 すごく盛り上がってる三人を見て笑った。

 インクラインベンチプレスで盛り上がる世界なんて最高じゃないか。

 やっぱり胸トレだな。胸トレは世界を救う。


 『私、胸を鍛えたくないわ』


 って昔に言ってきた女性のお客様へ言いたい。

 鍛えたらバストアップと垂れ乳になることを防いでくれるんだぞ、と。

 また、鎖骨あたりがスッキリするから夏場とかで首元が見える服を着る人にはおすすめしたい。

 

「良かったわね、カシ」


「あぁ、助かったよ。あの三人がいなけりゃ、多分失敗してた」


 今度は後方で腕を組んでたカンナが来てくれた。

 

 この世界は未だに分からんことが多い。

 すぐにマレウスの納屋に引っ込んだから、外の世界が未だに不透明だ。

 岡山だと思って外を歩けば恥をかくだろう。まぁ、治安が悪いのは岡山の方ではあるんだが。


「この後は?」


「もう少し粘ってみるよ。女性のお客様もいないとな」


「……そう」


 今の所、男性にしか広まっていない。

 フィットネスってのは主に女性がターゲット層だ。

 パーソナルジムの割合も女性が多い。それだけ、女性ってのは自分の体をよくしようという人が多い。

 化粧とかもそうだが、自分をキレイにしようっていう思いが強いのだ。

 それはこの世界も変わらないだろう。



「──あれぇ? カンナじゃない」



 声がした方を向くと、奥の方から女性二人がこちらに近づいてきていた。


「最近見ないと思ってたら、どうしたの?」


「そちらは? 新しいお仲間さんかしら?」


 おぉ、なんとも女性らしい肉付きの人だ。

 胸がデカイ……が、筋肉じゃあないな。単純にデカイ。くびれもある。

 モデル体型というより、団地妻みたいな人ってのが正しいな。

 中肉中背は失礼か。まぁ、男ウケがよろしそうな体をしてる。


 赤い髪の毛と黒い髪の毛。格好は冒険者といっても、少し露出のある格好で、剣と杖。魔法使いってやつと戦士なのか。

 

「あぁ、カシっていう。二人はカンナの仲間か?」


「元、ね」


 カンナは体を縮めて、オレの横に立った。


「カシさんはどうしてカンナと仲間に?」


「そりゃあ、カンナは──」


「ぶっちゃけ、顔、でしょ?」


 ズイと近づいて、そう言ってきた。

 

「カンナちゃんは顔がいいものね。だって、森人エルフだし。あー、いいなぁ、私も森人エルフに生まれたら男をとっかえひっかえできるのかしら」


「華奢な体の上には、キレイなお顔。男が黙ってないわよ。ほんと、羨ましい」


「…………」


「あ、そーだ。カンナちゃんが入ったパーティーってのは壊滅しちゃうのよ? なんでか分かる?」


「そうなのか?」


「知らないの? なら教えてあげる。この子、只人の男に色目使うのよ」


「顔が良ければなんでもしていいと思ってる女。何人の男が騙されたかわかんない。森人エルフはみんなそう」


「貴方も気をつけた方がいいわよ。その女も他の子と同じで性格悪いし、只人のことを馬鹿にしてるから」


「なんならここでパーティーを辞めた方がいいわよ。ここにはたくさんお仲間がいるでしょう? そうだ、それがいいわ」


 パチンッと手を叩いて、その女魔法使いは笑った。

 

「それにカシさんはカッコいいんだから、こんな女に騙されちゃダメっ! 只人は只人と、森人エルフ森人エルフと、ね?」


「性格の悪い人は、性格の悪い人と仲良くした方がいいのよ。ね? だから、カンナちゃんとは辞めといた方がいいわ」


森人エルフは森の中で野菜でも食っとけばいいのよ。街ぐらしには向いていないんだから」


 二人の女性の言葉にカンナは長い耳を下げて、下を向いていた。

 周りの男達も知らんぷり。金玉でも握られてるのかのような静まりっぷりだ。

 

「……えぇっと、間違いを指摘していいだろうか」


 はた、と手を上げる。

 

「なんだかんだと二人は言ってくれてるが、オレはカンナの顔に興味があるわけじゃあない」


「はっ? じゃあ、なにを」


「オレは、カンナの体に惚れてるんだよ」

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