27 この世界での集客の仕方は”こう”だ



「ここが、冒険者の溜まり場か!」


「ギルド! ギルドって言って」


「カッコつけんなって。カッコつけるとつけあがるヤツがいるんだぞ? 昔なぁ、暴走族って名前でパラリラしてる人たちがいたんだが、名前が『珍走団』ってなってからはちょっと勢いが落ちたってもんよ」


「いや……正式名称だから。それに売り込みに行くんだったら、もうちょっと調べたりしなさいよ」


「スマホがないとオレ何もできないから」


 現代人なため、足を使って調べるってことができん。

 現地調査っていってもなぁ、トレーニングで忙しいし。


「あと、カンナや他のみんなが詳しいからな。おんぶにだっこだ。オレは重たいからな、いい筋トレになるぞ」


 やあやあ、じゃあお邪魔しようか。開き扉っていうのか? 西部劇みたいだね。

 ギィと音を立てて木製の開き扉を開くと、皆の視線を浴びた。


「ふむ……」


 この視線。どこかで感じたことがある。


「そうか……初めて、新しいジムに行った時のアレだな」


 試されているのだろう。オレの筋肉を。

 マッチョ達はすぐに仲良くなる傾向がある。そのこともあって、派閥ができやすい。

 だからこの視線は──オレは派閥に引き込む価値がある人間なのかって視線だな。


 それならば、やることは簡単だ。


「カンナ。ちょっとこれ、持っててくれ」


「カシ? え、なんで脱いで……」


 おもむろに服を脱いで、カンナに服を渡す。

 下は肌着で、そこまで露出は多くないが、これで勘弁してくれ。


 ムキムキムキッ、ボゴッ、キュッッッッッ──


「ハッ!」


「…………………………?」


「よし、コレでいいだろう。カンナ、服をありがとう」


「カシ……アンタ、一体、なにを……」


「? 見てわからないか。アイツラの表情を」


「?」


「もう、オレのことを品定めしてるやつはいない」


 ギルドとやらにいた屈強な者たちの視線はおとなしくなった。これで、カーストが決まったのだろう。

 食う手を止めてこちらを見ていた男性にウィンクを。アイツ、おれの筋肉に惚れたな。


 うん。みんなも初めてジムに行った時に視線を感じたらやってみてくれ。(※やらないでください)

 

「アンタ……」


 そこで、ぬらり、と銀髪の男が立ち上がった。

 

「良い体をしてるな。ランクは」


「ランク……?」


 なんだ。無差別級って話か?

 体重を聞かれている? 

 

「80だ」


「は、80ッ!? そんなっ馬鹿な!」


「あぁ。キミは?」


「オレぁ……銀等級」


「安心して。この人、冒険者じゃないから。……どうせ、体重でも言ったんでしょ?」

 

 ひょっこりと出てきたカンナの補足に頷く。


「その体で冒険者じゃあない……ってことは、なにを職業に。傭兵か? 王国軍か?」


「非正規雇用のジムトレーナーだよ」


「じむとれな……」


「あぁ、えっと、筋肉を大きくしたり、理想の体を作る職業ってこと」


「はあ〜……そんな職業がオレの知らん所で」


「どうだ。一緒に理想の体を追い求めてみないか?」


 銀髪の男は悩んだ後に、手を横に振った。


「オレはパスだな。体に頓着しとらんのだ。モンスターを倒して、酒を飲む。それだけだ。ま、あんたが冒険者になったら酒飲むついでにまた話を聞くよ」


「分かった。じゃあ、また今度だな」


「おう、そのじむとれなっての頑張れよ!」


 腕を合わせると銀髪の男は食事に戻っていった。

 

「アンタはねぇ……私が通訳しないと会話すらできないの?」


「助かってはいるぞ。ありがとう」


「もっと頑張りなさいな。……私は受付でちょっといろいろの許可を取ってくるから」


「許可? なんの」


「ここでお客を集めてもいいのかって許可。只人は変な所がゆるくて、変な所が厳しいから」


「ありがたい。じゃあ、オレはオレができるのを頑張るよ」


「はいはい」


 くす、と笑って受付にいったカンナを見送り、オレは集客を頑張ることにした。


 カンナは冒険者ってのは結構血気盛んのヤツが多いって言ってた。

 最初は少し警戒してたが、実際に話してみるとそんなことはない。

 外仕事の兄ちゃんたちみたいに話しやすい人らばっかりだ。

 酒の話。女性関係の話。仕事の話。ソレに加えて、モンスターだのダンジョンだの勇者だのなんだのっていう聞き慣れない単語が加わっただけ。なんらコミュニケーションに困ることはなかった。


 ってか、魔王はいないのに勇者はいるんだな。


「で、そこでオレぁゴブリンの首を跳ね飛ばしたって訳よ。こう、スパンッってな?」


「その動きは、肩関節屈曲と水平内転!!! だからおっちゃんの肩のフロントはそんなにでっかいんだな!!」


 袈裟斬りの逆だから、逆袈裟っていうのか? 下から斜め上に振り上げる、ゴルフをするようなもんだ。

 

「って、そこの人!! 見覚えがあると思ったらあの時の!!」


「ん?」


 おっちゃんと席に座って盛り上がってる時に、後ろから声がかかって見上げた。


「あ、最初の奢ってくれた兄ちゃんじゃねぇか!!」


「久しぶりだなぁ! 元気にしてたか? えー、インクラインベンチプレス?」


「おっ、覚えててくれたか。じゃあ、オーバーヘッドケーブルトライセプスエクステンション?」


「ガハハハ! また知らねぇ単語が出てきたな。あの、でゅあるなんとかってのも忘れちまったってのに」


 この男性はオレが異世界に来た時に飯を奢ってくれた第一村人。その後ろからゾロゾロと知った顔が出てきた。

 マッチョの神官。陽気な弓使い。手を振って挨拶をした。

 懐かしい。イリアと会う前だから本当に最初に会った人たちだ。


「ここにいるってことは冒険者だったんだな」


「あぁ、ってか最初に言ったぞ」


「聞いてなかったのかよ」


「カシ殿は話を聞きませんからなあ」

 

 チラと胸元にチェーンで引っさげていたやつを見せてきた。

 

「俺らは白金等級の冒険者だ」


 一番最初に声をかけてきてくれたのが、銀等級の冒険者って言ってたよな? 白金等級ってのはどれくらいなんだ? すごいのか?


 ピーンとカンナとした冒険者の話を思い出した。


 私の等級は白金等級。上から三番目よ。

 カンナと一緒ってことか。最初に会った時にいい体をしてると思ったが、凄いんだな。


「また筋トレの話か? どうせ、俺らん時みたいに体をでっかくしようって話をしてんじゃねぇのか?」


「もちこーす!」


「それじゃあダメだぞ。コイツラは酒を飲んで、女を抱いて、日銭が稼げりゃいいって奴らなんだから」


「オレが手本を見せてやる。散々、アンタには筋トレの魅力を聞かされたからな」


 よいしょっとオレの隣の席に座り、先程まで喋ってたおっちゃんに向かって一言。


「筋トレは、モテるぞ」


「なっ!!!!!!!???????」


「あと、鍛え方によっては夜が強くなる。持続力が桁違いにな」

 

「なんだと!!!!???」


「それと、飯がもっと美味く感じるようになる。そんで、だ。今、アンタが武器を振って五匹のゴブリンを殺したとするだろ」


「お、おう……」


「で、腕が上がんなくなる。そのダンビラは重てぇだろうよ。が、筋トレをしたらもっと殺せる。つーことはよ、もっと金を稼げれるわけよ」


 周りにいた冒険者が「おおおおおおっ!!」と盛り上がった。


「その話は本当なのか!? おいっ、そこのお前!!」


「はいはいみんな落ち着け。それが本当かどうかはオレたちが証明したぞ」

 

 目配せをすると、その陽気な三人は白金色のプレートを掲げた。


「俺らは数日前に金等級から白金等級になった!」

 

「ずっと実力が頭打ちだったが、この男の助言を頼りにトレーニングに励んだ!」


「奇跡もパワーも以前と比べて信じられぬくらい強くなりました」


 わ、羨望の眼差し。え、困る困る。


「ちょっと待て。それは三人の実力だろ。オレは別に」


「いいや、アンタに聞いた通りにトレーニングをしてから調子が明らかに良いんだ。これは二人もそうだ」


「うむ」「ええ」


「だから、アンタのおかげ。まぁ、オレたちの実力もあるがその後押しをしてくれたんだ」


 そんないい話がある理由がない、と思いたいが……トレーニングをしたらイリアも他のみんなも「体の調子がいい」って話をしていたな。

 この世界の人たちは筋肉が付きやすいのはそうだろうが、もしかして筋トレで得られる効果も高いのか?

 

「その、トレーニングってやつを俺らにも教えてくれ!」


 どわ、と男たちが近寄ってきて思わずのけぞった。迫力スゴ。

 

「教えることはできるが……」


 ちらとカンナが見えた。腕を組んで、こちらを見ている。

 そうだ。いつもは善意で教えているが……それじゃあダメだ。


「悪いな。俺も仕事でやってるから、タダじゃあ教えれないんだ」


 筋トレの文化を広げるのは大事だ。だが、今の俺はみんなが稼いできてくれた金で食料を買ってる。

 オレは今、みんなにとって負担でしかないのだ。


「? そんなの当たり前だろ?」


「何いってんだ? 金は払うさ」


「……えっ?」


「価値のあるもんに金を払うのは当たり前だろ。それが冒険者が知ってる礼儀だ。ソレ以外は知らんが」


「然り然り。金さえ払わねば良いものも続かぬ。どこかで渋るとどこかで金は腐る。金は血液と等しく、回さなければなりません」


「ほら、神官のありがたい〜お言葉だ。そもそも、一度きりの人生だ。貯めてても仕方ねぇ。明日には死んじまうかもしれねぇんだから、好きなもんに金を払うのが当たり前だ」


 正直、面を食らった。

 オレはまだ異世界の文化や特徴に馴染めれていなかった。

 あくまで日本の岡山よろしく。平均の月給も20万そこら。求人をみたら月で14万の仕事すらザラだ。

 そんなところで生活してたら、金払いは渋る。

 オレはそもそも非正規雇用だったから金を払うことを躊躇することが多かった。

 

 だから、最近は無料で読めるだのなんだのって文化で、価値のあるものでさえ有料だと読まれない状況だった。

 

 世界が違うから、なんともいえんが、いいな。

 金を稼ぐ、金を払う。そんな当たり前のことが、当たり前にできるなんて。

 

「……よし、じゃあ。この話が気になったヤツらは街のハズレの丘に建てられてるマレウスの家に来てくれ。そこの納屋でオレはトレーニングを教えてるからな」


 場所を教えて、話をして、金銭面の話もしておく。

 マレウスの家を間接的にバラすことになるが、マレウス曰く「泥棒が入っても、金目のもんはないから大丈夫じゃろう」とのこと。

 最高だ。マレウス。やはり、ひげを三編みにするやつは最高だぜ。

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