第三部:異世界のターゲット層はどこ

24 集客0だってよ、終わったわ


 みんなの方向性を決めて、トレーニングをして順調に進んでいって〜と思っていたんだが。

 えーっと、壁にぶち当たりました。


「…………集客、0」


 みんなに「飯屋の方で良さそうな人がいたら声をかけて、ここに連れてきてくれないか」と伝えて15日。

 つまりは、えー、半月が経ちました。残り時間も半月。折り返し地点です。

 六人とのトレーニングは順調なのに!!! 

 筋トレの文化が広まりません!!!

 広告代理店さんっ!! 誰か!! 助けて!!


「待て待て待て待て、おちつけつけつ、殻田出樫……。大丈夫だ大丈夫……」


 必死にそう言い聞かせるベンチの上の今日このごろ。


 筋トレの文化が広まらない理由は明確だ。


 ・カネを払ってまで、良いからだになろうとする理由がない。

 ・そもそもマシントレーニングの認知0。

 ・あと、オレも無名過ぎて笑えてくる。


 元の世界と同じマーケティング手法を取るにしても、SNSがない時代で、魅力が伝わっていない状態でどう広めたらいいんですか。

 ターゲット層はどこですか。

 

「オレも必死にかんがえていますとも……これでも、1店舗の店長になるって話も出てたんです」


 社長と言い合いになって止めさせられたけどな!! はっはっ!! あーあ。まぁ、あの社長は賢かったよ。だって、今のオレはなにも市場調査をしないままパーソナルジムを開いてんだから。てへ。


 異世界への理解度が浅すぎました。

 この無能なオレをどうか罵らないでやってくれ。

 コルチゾールが増えて筋肉が分解されちゃうから。ストレス社会は辞めて〜……。


「あっ、カシち〜。今日もっ、トレーニングをー……? どしたの」


「エルゥ……!!」


「わあビックリ」


 エルが女神に見える。ちょこんと隣に座ってくる様子はなんとも可愛らしく見える。 

 いち異世界人のエルに助言を求めるべく、正直に話しました。


「どうしたら、筋トレをしたくなるか、かぁ〜……むむむ」


 エルの口から筋トレって単語が出てきたのが嬉しい。あ、なんかそれだけ良い気がしてきた。

 ダメです。何いってんだ。


「筋トレはしたくならない!!」


「そうか!!……そうか」


 しょぼん。まじか。


「じゃあ、カシはなんで筋トレをやりたいの?」


「良い体になりたいし、大会に出たいから」


「なんで良いからだになりたいの?」


「人生一回きりだから。あと、鏡に映る自分の体を見てため息を着く毎日は嫌だし」


「ふむ……ぅ」


「話は聞かせてもらったぞ」「話は聞きました」


「そ、その声は!! イリアとアッパコム!」


 なんだその登場の仕方は、面白いけども。


「主人が悩んでる声が聞こえましたので」


「私もだ。決して、勝手に覗いていた訳じゃあない」


 覗いてたのね。


「じゃあ、二人はなにか案はあるのか?」


「拙僧の意見でよければ、筋トレによって得られる効果というのを皆知りませぬ」


「まぁ、そうだな」


「知らぬままで行う筋トレというのは、かなり苦行なもの」


「おう」


「ですので、筋トレの効果を触れ回るのが得策かと」


 あ、えーと。


「具体的にはどうやってすれば」


「筋トレによって作り上げられた体とはどういうものかをアピールすればよいのです」


「あ、飯屋でか!!」


「左様」


「でもまて。それは嘘になるぞ。だって、イリアもアッパコムも筋トレを初めてまだ間もない。その体っていうのは、二人の努力の結果なんだ。筋トレのおかげっていう訳にはいかん」


「やはり主人はお優しい……」


「な、カシは優しいんだ」


「カシちは優しいよ」


 なんなんだよ一体。涙を流すな。やめろやめろ、そわそわする。


「ですが、嘘をつく訳ではありませんよ。だって、ほら」


 アッパコムが指を指す。その先にいるのは、オレだ。


「主人のその体は、筋トレによって生み出された体。その体でアピールするのです」


「そうよ!!!」


「こ、この声はっ!! カンナ〜!」


 そんな自由の女神みたいなポーズして登場するな。髪ボサボサじゃねぇか。


「って、なんだなんだ。まだ朝は早いだろ。森人エルフは早起きが苦手って言ってたろ」


「朝から元気な声が聞こえてきたら起きるわよ」


 髪を直しながらのぼやき。ごめんて。


「で、カンナはなんだ? 元気に登場してきたけど」


「アンタは言ってたわよね。筋トレを本格的にやろうと思ったのは、カッコイイ体を見たからだって」


 フィットネスジムの店長との話か。


「だったら、貴方がそのみんなが筋トレを始める理由の『かっこいい体』になればいいのよ!! ぐー……」


「おぉっと」


 え、立ったまま寝始めた。そんな名探偵の真実はいつも〜みたいなポーズのまま寝られても。

 ギリギリのところでカンナを支えて、ふむ、と一考。


「試しにやってみるか。でも、エルとマレウスとルポムのトレーニングがあるから今日は」


「いいのいいの〜。二人にはワタシから言っておくからさ!」


「そうか? じゃあ悪いな。久しぶりの飯屋での仕事か〜……」


 と、まてよ。この体のままで良いのか? 良いからだを見せつけるためには……あの時、店長はどんな格好をしてた?

 下はアンダーウェアで、上は結構際どい服を着てたよな。だってあの時に背中が見えたんだから……それを男でするとどうなる?

 

「カシ?」「カシち?」「主人?」


「…………MPは使えない。から、そうだな。ひらめいたぞ」


 男で体を見せながら、決していやらしくない格好。

 そんなの決まってるよな。


「行こう。ふたりとも」


 オレに良い案がある。

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