23 カウンセリング#アッパコム#カンナ




「拙僧の理想は、龍となること」


「よし、分かった。羽が生えたらいいんだな」


 アッパコムとのやり取りはいつもこんな感じ。端的かつ明確。

 オレのことを主人だって言ってくるからやりにくいんだよ。オレが東京の人ならこうはならなかったんだけど……え? だって東京の人は東京以外の人を目下の人間だって思ってるって聞いたことがあるんだけど。

 誰にって? 倉敷市の人に……。


「あ、アッパコムが背中が強い理由は祖先が龍だったことの名残か?」


 ベンチに座っている彼をぐるり。うん。多分それかな。


「レッドブル……つばさをさずける……」


 そうだよな。レッドブルを飲んでもらったら一発だよな。

 あ、そういえば肉屋で「ブル」って名前を見かけた気がする。

 探したらレッドブルも居るかも……? その血とか飲んだら翼が生える……とかはないか。


「ブル……? 雌牛のことですかな。かつては主食としていたそうですが、沼地には牛は生息しておりませんので」


「お、じゃあ、試してみる価値はありそうだな。アッパコムは牛肉だ。一人だけ豪華だぞ〜」


「おぉ!! でも、鶏肉もあると嬉しく」


「なら日によって変えてみるか。味変大事」


 オーケーオーケー。牛肉だとももかヒレ……ヒレは家系に大打撃だから、ももだな。

 

「あ、でもさ。もし龍になった時ように胸も鍛えたほうがいいな」


「胸、ですかな?」


「エルいるだろ? 鳥人ハーピーの胸が大きめなのは、羽ばたく力のためだって話だ。龍になっても飛べる力がなけりゃ辛いだろうし」


「ふむ。それは盲点でしたな。しかし、魔法で浮くこともできるのでは?」


「アッパコムは神官なんだろ? 魔法で浮けんの? 鍛えれるなら鍛えてみようぜ。可能性をわざわざ捨てるこたぁない」


「でしたら、そのとおりに」


「よしきた」


 アッパコムの方向性も決まったな。背中を強化する方向と胸。足はちょっとそこまでメインじゃないかもな。

 鍛え抜いた後はフィジークに近い体型になりそうだ。




      ◇◇◇




「最後はカンナだな。カンナの理想とする体はどんなのだ?」


「そんなのないわよ」


「え、じゃあ悩みとか抱えてないか?」


「ないわ」


 あ、コミュニケーション終わり。


「じゃあ、カウンセリング終わりました! ありがとうございました! っておいぃー!!」


「な、なによ」


「ほんっっとうに悩みはないのか? 冒険者のパーティーに居られなくなったんだろ? なにかそこからさ、なにか」


「……パーティーにいられなかったのは、男どもが私に好意を抱いたからよ。ほら、なにもすることはないでしょ」


「確かに……カンナが今より美しくなると、大変なことになるって訳か……こりゃあ参った。筋トレでブサイクになることはできんからな〜……」


 あれれ、じゃあカンナはどうしたらいいんだ? 

 もっと良いからだになるとカンナは不幸になるっていうし、じゃあ何もしないのかってなるとソレは違うし。

 

「んぁぁ……」


「アンタは」


「ん?」


「アンタは、私にどうなってほしいの?」


「そりゃあ……良いからだしてるだろカンナは」


「…………。アンタまでそんなことをいうのね」


「だって、そんな広がりのある背中は中々ねぇぞ……ちょっと失礼するな」


「ひゃいっ!? なに、どこ触ってんのよ!」


「はぁっ!? どこって脊柱起立筋群に決まってるだろ!!!」


「せ……へ?」


「この脊柱起立筋群の姿を見てみろよ、って見れんか……。本当にカンナの体は凄いんだ。男たちが鼻の下を伸ばすってのも分かる。だって、こんな立派な背中はねぇ…………いや、すごい、ほんと」


 日本人の体じゃあない。それこそ、イリアみたいに「ナチュラルか?」と疑いたいレベル。


 でも、これがこの世界じゃあ普通だもんなぁ。特に森人エルフとかは街とかじゃなく森の奥に住んでたっていうんだから、体の構造とかは人間とちょっと違ったり筋肉の付き方に特徴があるのが当然だ。


 むしろ、ゴリラみたいに「消化器官の中にアミノ酸を合成する微生物がいたり」「一日に30kgの草を食べる」みたいな生態になってないだけでも凄い。


「弓だよな!? 普段使うの!」


「え、えぇ……」


「体幹、背中、肩、腕……どこをとっても良いからだをしてる……芸術的だ」


 イリアがボディビルだとしたら、カンナはフィジーク。

 筋肉の付き方には違いはあるけど、ふたりとも凄まじい体をしてる。

 

 このフィットネス業界に入って、ジムの店長(女性)と一緒に買い出しに行った時に感じたアレだ。

 背中が広がってて、尻はぷりっとしてて、なおかつ余計な脂肪が削ぎ落とされた体。……あの感覚と一緒。

 性的に興奮するというより、芸術的で感動したのを覚えてる。


 あぁ、人間ってこんな体になれるんだ、って。

 

「あんた……なんで泣いてんのよ」


「いやあ、懐かしい記憶が蘇って……」


 あれが正直、筋トレを頑張ってみようと思ったきっかけだった。

 そう。カンナにはそんな力がある。だから、


「カンナ……体を鍛えてみないか。もっと良い体を目指して」


「…………」


「嫌だっていうなら強制はしない」


「や、やるっ!」


「ほんとうか……?」


「アンタがそこまでしてほしいっていうならよ!? しかたなく、しかたなーくなんだから!」


「よ”か”っ”た”あ”あ”あ”あ”あ”あ”ッ〜〜〜!」


「……なんで泣いてるのよ」


 あの日、自分に筋トレの道に誘った体と同等かそれ以上の体を教えることができるなんて。

 感動しないほうがおかしいだろう……。おれ、筋トレしててよかった……。


「よ”し”っ”……ズビッ、おけっ、おけぇ……っ。まかせろ、カンナ」


「……変なやつ」


 よっしゃあみんなの方向性が決まったし、後は微調整をしながらみんなを鍛え上げてやる。

 やるぞやるぞやるぞ〜!!

 

「えいえいおー!」


「…………おー……」


 

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