水曜日 ー青ー

雨だった。

確かに昨日の予報では雨予報だった。しかしそれはお昼あたりの話で、こんな早朝から降るなんて聞いてない。

ま、たとえ雨だろうと私のすることは変わらない。まずはバイトに行かないと。


青色のくつ下を履きビニール傘をさして外にでた。


青色の車が道路を通り、信号は皆青色で点灯していた。

人の気配は皆無。傘をさしていてもぶつかることはなかった。

水溜りには私が反射している。今日の服色とも合わせて青っぽかった。


バイトが終わり帰宅した。そのまま散策をしてもよかったのだけど、早朝よりも強さをました雨に挑むには装備が軽装すぎた。雨合羽が必要だな。持ってないけど。


濡れ散らかした服を洗濯機へ。

青色のくつ下は洗濯バサミに挟んで乾燥させる。早く元気になれよー。


しばらく横になっていると、気づかぬうちに外は暗くなっていた。

ベットから起き上がり、窓越しに外を見ると、雲の隙間から月が見えていた。


乾かしておいた青色のくつ下を履く。末端冷え性だから何か履いておかないと生死に関わる。


ポットの中を確認するとまだ今朝入れた分の水が残っていた。そのままコンロに火をつけてしばらく待つ。青色の丸模様がついたマグカップに注いでココアを作った。月明かりが差し込む窓辺に座る。月明かりに照らされて私の部屋は全体に青っぽくなっていた。

月を見ながらココアを一口。風流ですな。

けれど夜になると気持ちは沈む。

すると色々なことを考えてしまう。


ーー


私の親友は常に明るく日常を楽しんでいた。彼女の全てを名前が表していた。


「あかり」


「なに?」


「どうしていつもくつ下の色変えてるの?」


彼女は曜日ごとにその日に履くくつ下の色を決めていた。


「身に纏うもの一つで世界が色づくって考えてるからな。世界は自分を中心に動いているわけじゃないけど、その世界に少しでも影響が出れるようにって。赤色のくつ下を履いて外に出た時赤信号が多いと、ああ私が赤色を身に纏っているからだって思うとすごい楽しいんだ」


「あかりがすごいね」


「そうかな?」


「私はそんな風に考えられないよ。周りが全部私の敵に思えちゃう」


ファッションなんてまともに考えたことはなかった。

家にあるのは小さい頃に母親が私のために買って来たものだけで、くつ下に関しては白色か黒色しかなかった。


「私白か黒しか持っていないから」


その二択しかなかったから白を好んで履いていた。私を象徴する色は白色だった。


「じゃあ、これあげる」


「……赤色のくつ下?」


「そう!私とお揃い!」


「もらっていいの?」


「うん!それ履いたらきっと世界は色づくよ!日常がちょっとだけ楽しくなる!」


「ありがとう。大切にするよ」


地味目な私もあかりのようになれる気がして嬉しかった。


ーー


中学校を卒業するとあかりとは別々の高校へ進学した。

もちろん同じ高校を受験したけど私は合格し、あかりは不合格だった。

それでも毎日通話した。お互いが一日あったことを報告し、雑談を混じらせながら3時間はしていた。


「明日は月曜日……学校だ……憂鬱」


「月曜日だから憂鬱なのか。学校だから憂鬱なのか」


「学校だからかな」


「確かに三連休の月曜日を恨む人はいないもんね」


「あかりは嫌じゃないの?」


「んー嫌だよ。ちょー嫌だ」


「でも楽しそうじゃん」


「そんなことないよ。確かに今は嫌だよ。明日よ来るなーって思う。でも明日は来ちゃうし、しょうがない。だから暗い気持ちは今日までに置いといて、明日になったら明るく元気に行くんだ。そのために明るい色を身につけるの。すると落ち込んだ時でも、その色を見れば元気が湧いて来る」


「空元気でも?」

 

「元気を出してることには変わりないからね」


「あかりはすごいね」


「あ、そうだこれ見てよ」


そう言うと、あかりが写真を送ってくる。そこには実にふてぶてしい三毛猫が写っていた。


「うわぁぁぁ、可愛い!何これ!」


「友達の家の猫なんだけど、太りすぎじゃない?って見せて来たんだ」


「何言ってんの。動物は太ってた方がよかですよ」


「もう一匹いるよ」


もう一枚写真を送ってくる。


「わー茶トラだー」


「猫好きだよね」


「うん。大好き。私=猫。猫=私と言っても過言ではないね」


「良かったよ、喜んでくれて」


「猫カフェとか行ってみたくない?」


「あーいいね。行きたい行きたい」


けれど、私たちが一緒に出かけることは一度もなかった。


ーー


フゥと息を吐いたところで残りのココアを暖かいうちに飲み干して、台所に立った。電気をつけずに水だけを出してマグカップを洗う。乾かし台に置いた後台所にもたれかかる。

未だに月明かりが誰もいない部屋を青く染めていた。









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