幕間 荊姫の憂鬱
繊細に輝く金髪に、陶器人形の様に白く華奢な手足。
一部の者からは処刑場の荊姫とまで囁かれるポプリは今、苛立たしげに椅子に腰掛けていた。
頬杖をついた左手に代わって右手は忙しなく肘掛けを掻き、一重で透明感のあるグレィの目は時折痙攣し、その不機嫌さを顕著に表している。
(なんでわたしだけ……こんな体制で大丈夫だと、本気であの女は思っているの?ここ数日は録に休めていないし、よりによって一緒に仕事するのはあの乱雑男……)
普段は感情が希薄とすら見られる彼女がここまで荒れているのは、マウイたちを連れ遠方へと出たエラから押し付けられた業務内容が原因だった。
通常、二人から三人であたる処刑任務をポプリ、そしてラメティシィのウィリアムのみで行うように言われたうえに、いつ帰るのかはわからないとまでくる。
ただでさえ長く戦えるタイプではないことに加え、ウィリアムを得意としていないポプリにとって、これはかなりの苦行だった。
マウイがいない、仕事が多い、ウィリアムと一緒、頼んできたのがエラ、明確な期限がない。
重ねに重ねられたフラストレーションは、確実にポプリを蝕んできていた。
刺すような痛みが続く頭を抑え、彼女は深いため息をつく。
(加えて、何なのあの手紙?だからわたしにどうしろと……?)
出張前、ひとりでむくれていたポプリにエラが手渡した、一封の封筒。
私達が出発したら中を確認してほしい、そう言われていた途轍もなく嫌な予感のする封筒の中には、今回の案件でルークスは重要人物であり、殺人の容疑がかかっているという旨が書かれた一枚の紙が入っていた。
だ か ら な ん だ
ポプリにとってルークスは同じ職場で働く仕事仲間だが、彼は処刑担当でもないため交流も少ない。
少しマウイやマーシャに遊ばれがちな青年だという認識くらいしかないし、正直どうでもいい。
彼のほうもポプリには殆ど関心を持っていないようだし、お互い様というものだろう。
面倒事には変わりないが。
またいつモルスが発見されるかわからないため、一つ大きな伸びとあくびをして席を立つ。
仮にルークスが犯罪者であったとしても、あの面々がそうサクッとやられてしまう筈もなし、あるとしたらマウイが悲しんでしまうくらいだろう。
細いツタのピーズアニマを脚に張り巡らせ、もはやほぼ無意識にできるようになった精密な操作で足を進める。
前回の処刑任務では、ウィリアムが一人で先行し何も連携を取ることが出来なかった。
自分も人のことを言えない程度には協調性が無いという自覚はあるが、あの横暴さ。
仕事のときくらいは収めてくれないものか。
今日何度目かも分からぬ溜息を吐きながら、蒼い瞳が映すさきへと彼女は向かう。
彼が自分の話を聞いてくれるところは全く想像つかないが、話し合いの努力くらいはしておかなければ。
消えぬ憂鬱を押しやり、仕事へと向かう彼女の元にエラたちが帰還するのは、これより2日後のことだった。
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