第19話 仲間には優しく

「友達……? わたしはお前に、死んでほしいの」


 敵意に満ちた目で睨みつけてくる少女に対して、ヴェルキアは笑みを返す。

 その様子を見たアスフォデルは一瞬怯む様子を見せたが、すぐにまた殺意を込めた視線を送る。

 それでもヴェルキアは笑顔を崩さず、話を続ける。


「わしに死んでほしいのは、わしがいるとディーンがおぬしを捨てるからかの?」


 ヴェルキアの言葉に、アスフォデルは表情を曇らせる。


「ただし、ディーンが直接おぬしにそう言ったわけではない。あってるかの?」


 アスフォデルは黙って頷く。

 それを見てヴェルキアはアスフォデルを安心させるように優しく語りかける。


「では、わしがディーンのことを拒絶すれば、おぬしは何も困らんのではないか?」

「兄さまが納得しないの」


 即答するアスフォデルに、ヴェルキアは大きく頷いた。


「だから、友達になるのだ」


 自信満々に言い切るヴェルキアを見て、アスフォデルは困惑していた。

 その顔には何を言いたいのか理解できないという表情が浮かんでいる。


「わしはのう、友達がおらんのだが」


 唐突にそんな話を始めるヴェルキア。

 それを聞いたアスフォデルは眉をひそめる。


「だから友達ができたらめちゃくちゃ大切にするぞ! たとえディーンに何を言われても100%友達を優先する!」


 アスフォデルはその言葉に反応して顔を上げる。

 いまだ戸惑いの色が見え隠れするものの、先程までのような憎悪は感じられない。

 どちらかと言えば憐れみに近い感情を向けられているような気がする。

 ヴェルキアは畳みかけるように言葉を続ける。


「もちろんおぬしが誰かに相談したいことがあれば耳を貸すし、悩みがあれば一緒に考える! 友達って素晴らしいと思わんか? 欲しくならんか?」


 ヴェルキアの押し売りのような勢いに圧倒されたのか、アスフォデルは目を白黒させている。

 そして小さく呟いた。


「わたし、友達はいるの……お前とは違うの」


 それを聞いてヴェルキアは信じていたものに裏切られたかのような気分になった。


「ば、おぬしわしの仲間ではなかったのか?!」


 その反応にアスフォデルは呆れたようにため息をつく。

 だがその表情からは先ほどまでの剣呑な雰囲気が消え去っている。

 ヴェルキアはそんなアスフォデルの様子に気づかずに続ける。


「わしなんかもう10年以上も友達がおらんのだぞ! それなのに友達のおるおぬしがわしを殺そうとするなどおかしいだろう!」


 ヴェルキアは本気で悔しそうな表情を浮かべる。

 それをみたアスフォデルは呆れつつも、どこか嬉しそうな雰囲気を見せる。


「お前に友達がいないのは、お前の頭がおかしいからなの」


 その言葉を聞いた瞬間、ヴェルキアはショックを受けたように固まる。

 そのまま動かなくなってしまったため、アスフォデルは初めて顔をほころばせる。

 ヴェルキアは少し驚いたものの、釣られて笑顔になる。

 2人はしばらくの間見つめ合った後、どちらからともなく笑い出した。


「わたしには兄さまだけいればいいの。お前なんか、必要ないの」

「そうだのう。おぬしの兄さまは、おぬしの事を捨てたりせんとおもうしな」


 そう言って笑うヴェルキアに対し、アスフォデルは素直に頷く。


「……兄さまに、お前を殺そうとしたことを報告するの」

「わしはぴんぴんしとるぞ? まあこの辺り一帯の荒れようはごまかせんだろうが……」

「むかつく……お前は化物なの。人間じゃないの」


 アスフォデルはそう言って頬を膨らませる。

 その様子を見て、ヴェルキアは愉快そうに笑った。


「兄さまに怒られたらお前に愚痴るの」

「ああ、何なら一緒に怒られてもいいがの」


 ヴェルキアはそう言いながら立ち上がり、アスフォデルに手を差し出す。

 アスフォデルはその手を払いのけることはせず、ただじっとヴェルキアの目を見つめる。

 そしてヴェルキアの手をとり、立ち上がった。

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