第13話『馬車内での授業』
カディスはリエルを馬車へ抱いていったあと、索敵魔法を展開しつつウトウトすることである程度の休息を取った。
それは勇者パーティーであちこち回っていた頃、野営をするのに非常にありがたかった特技の一つだった。
結局その夜は追手どころか魔獣などのモンスターに襲われることもなく夜は明けたのだが、明け方からポツポツと雨が降り出す。
荷馬車には雨風避け用か奴隷を積んでいるのを目られないようにするためか幌が張ってあるので、ずぶ濡れにならずに移動できそうだった。
「まぁ十中八九人目を避ける用なんだろうがな……」
「だろうな。俺のような大人ならまだしも、子供が複数人乗ってるのに対して大人の数が合わなきゃ怪しいしな。しかしこの魔法をこんな使い方するとは……ほとんど濡れてない」
御者を任せているガインの所には幌もないため、カディスが一般的な用途としては飛んでくる物を防ぐ【シールド】の魔法を使って、擬似的に傘になるように展開し続けている。
「屋根がなけりゃ馬車全体を覆うつもりだったが、これだけなら消費魔力も少なくて済むしラッキーだったな」
「それにこのまま降ってくれれば俺らを探す事も難儀するだろうしな」
「あぁ。その間にミナカの町まで行ってしまいたいものだ」
「うぅーん……光らない……」
「わたしも……」
子どもたちには乗っている間暇だろうから、魔法の基礎を教えている。リエルには夜少し教えた話をしたら、カルドも教わりたいと言ってきたためだ。
カルドも年齢的に親から早めに教わっていてもおかしくない年齢だが、教えてもらう約束の日の前に攫われてしまったようだ。
「そうだなぁ。魔力の流れは少しはわかったと思うから、それを手のひらに集めるんだ。集まったなぁと思ったら【ライト】と唱えればこんなふうに光の玉が出るはずだ」
そういいつつカディスが目の前で実践すると、薄暗い馬車の中でも眩しくない程度の光を放つ玉が出現した。
こういう狭いところや暗い場所でも魔法の練習ができるため、【ライト】は最初に覚える魔法としても有名だった。
「僕たちには闇魔法の適性があるからだめなんじゃ……」
「いや、そんなことはないぞ。【ライト】に関して言うなら、魔力を持っていれば使える生活魔法だからな。火や水などは個人で相性があるから強い魔法が使えるかは人それぞれだが、コップの容量くらいの水を出したり、薪に火をつける火種になる程度の火も生活魔法の分類だ」
「ならわたしたちにもつかえる?」
「もちろんだ。稀に魔力をほとんど持たないものもいるが、お前たちは闇魔法適性持ちと分かっているんだからその心配はない。寧ろ闇魔法と回復系統である聖魔法の適性は、火や水とかと違って無いと使えないから珍しいくらいだ」
魔力自体は生きていれば大気中の魔素を取り込む関係で、誰しもが体内に持っている。
ただそれをうまく扱えなかったり、容量が極端に少ない人がいるのも事実ではあるが、魔法がうまく使えないからと言ってどうこう言われることはなかった。そういう人こそ剣の道を突き進んだり、頭を使う仕事をしたりして活躍していたりする。
火や水、風や土といった属性は適正というものを持たなくてもある程度使えるし、努力次第では相性が悪くても高位魔法まで使えることもある。
もちろん魔力量の関係もあるし、自分にあっている属性を伸ばしたほうが負担は少ない。
普通の田舎のおばちゃんですら、竈の火を起こすのに1日1回だけなんとか使える人もいれば、広い畑に水をやるのに使うほどの大量の魔力を持っているただの農夫もいはするのだが、それらはあくまで出すだけなのでそこから爆発するようにとか、物を切れるようになどとなると難易度は跳ね上がる。
それに比べて聖魔法と闇魔法に関しては、そもそもの適性がなければ発動自体できないうえに、あとから身に付ける術も発見されておらず、生まれ持った才能の一種とされていた。
それらに適正があるものは充分な魔力量を持ち合わせていることも分かっており、リエル達は教団によって闇魔法の適性があると調べられた上で連れてこられていたので、魔力量もそれなりにある。それはこの子たちにとって不幸中の幸いなのかもしれない。
「うぅーん。【ライト】。【ライト】!」
「まぁ焦らずにゆっくりと溜めるといいぞ」
「……【ライト】」
リエルが集中したあとそう唱えると、幌馬車内に雷が近くに落ちたかのような閃光が放たれた。
「え!?」
「まぶしっ!」
「うお!? なんだ!?」
「リエル、落ち着いて魔力を切るんだ」
急に後ろから閃光が放たれたガインは焦っていたが、カディスはリエルが慌てないように落ち着いた声色で指示していた。
リエルの手元にあった光の玉は徐々に放つ光の量を抑えていって消え去った。
「ご、ごめんなさい……」
「いやいや。成功したんだぞ、喜べ喜べ」
「ぐぅ。僕も!」
カディスが見せたものと比べて自分が出したものが異常だったことは理解できたため、咄嗟に謝ってきたリエルだったが、カディスはそんなことを気にせず成功したことを撫でながら褒めた。
「そうだぞ。幌もあるしこの天候だ。仮に人目についていても落雷と思われるだろう。それにしてもすげぇ光だったな……」
「あぁ。魔力量が多いと魔力を込める際に吸われるように固まってしまってああなることもあるから可能性としては考えていたが、予想以上の光だったな」
カディスは魔力の流れを教えた際にある程度の魔力量の測定を行っていた。それは練習しても魔力切れを起こさないかの判断のための、一定以上あるかどうかだけの確認で最大量は全く気にしていなかった。
カディスは今のリエルの【ライト】をみて、今後のためにも最大量も確認してみることにした。
「力を抜いて、魔力を込めたりしないでそのまま座っててくれ。……おぉ。リエルの魔力量すごいな。その年でこれだけあるなら俺も抜かされそうだ」
魔力を込めてたりして意図的に少なく見せたりも出来るので、できるだけ本来の量を計測できるように力を抜いて貰ってから見てみた。
――すでにそのあたりの魔法使いの魔力量を遥かに超えてるなぁ。訓練次第で伸びるから、純魔法使いじゃない俺は将来的に抜かされるだろうな。……しかし一度死んだ影響かこの目のおかげなのか、魔力が生前よりはっきりと分かる気がする。ま、悪いことではないからいいが。
「カディス殿より多くなるって、トップクラスじゃないか……」
「いやいや、魔力量だけならそれなりにいると思うぞ? まぁ俺もかなり多い方にいるのは間違いないが」
「俺なんかがあんな光量放ったら一発でぶっ倒れちまいそうだ……」
「消費魔力量自体は大差ないぞ。魔力操作次第で光量はある程度変えられるからな。ただ、今のリエルのは魔力操作は関係なく、魔力量に物を言わせた力技ってところだ。今度は余計に吸われて固まらないように魔力操作も練習だな。そうすれば他の魔法も簡単に使えるようになるぞ」
「わたしが、魔法を……」
普段大人し目のリエルにしては珍しく目を輝かせながら、初めて魔法を出したことに興奮しつつ自分の手を眺めていた。
「くぅー。【ライト】【ライト】ぉ」
「カルドはもう少し落ち着いて溜めてみな? 別に競争してるわけじゃないんだから」
「う、うん。分かった」
――カルドも素直でいい子だよな。リエルの魔法に関する感覚がすごいだけで、この子も短期間で魔力の流れを感じ取れたんだからそう遠くないうちに使えるだろう。
4人を乗せた馬車は雨の中更に進んでいき、夕暮れには雨も上がり野営は問題なく出来そうだった。
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