第11話『それぞれの経緯と移動』

 すぐに欲しかった情報はある程度得られたため、残りの物をアイテムボックスに収納しつつ今後の行動を話し合うことになった。


「とりあえず、それぞれの経緯を聞く感じ攫われてきたみたいだから、元の町へ送ろうと思うんだが」


「……俺のいた村はモンスターに襲われたからもうないと思う」


「単に攫われたんじゃないのか」


「奴らの中に魔物を使役できるやつがいたらしく、村を襲わせて欲しい人材だけ攫ったようだ」


「そうか……」


「まぁもう10年も前の話だ。ちゃんと気持ちの整理はできてる。奴らへの恨みが消るわけはないがな。それにこう言っちゃなんだが今日ので少しは晴れた気もする。だからまずは子供たちを送ろうぜ。住んでた町の名前とか分かるか?」


 ガインは若干無理をしているように見えたが本人が大丈夫だと言う上に、できるだけ子供たちを何とかしてあげたいという気持ちには賛成なので、あえて何も言うことはなかった。


「ミナカっていう町」


「言いにくいかもしれんが町は無事か?」


 ガインは自分のいた村が襲撃で無くなっていて聞きづらそうだったので、カディスが代わりに聞いておく。


「町は大丈夫だと思う……でもリエルのほうは……」


「孤児院のシスターや兄弟はみんな……」


「お前たち同じ町だったのか?」


「うん。僕が孤児院に遊びに行ってて夕方頃帰ろうとしたら、あの人たちみたいな格好の人と何人かの大人が来て……」


「みんなを縛って、何か黒いモヤモヤを吸わせて回ってて、私とカルド以外みんな倒れて動かなくなって……」


 そこまで言うとリエルは泣き始めて会話ができる状態では無くなった。


「それで倒れなかった僕たちに、何かの魔法をかけてここまで連れてこられたんだ……」


 話せなくなったリエルのかわりに、カルドが残りの経緯を話してくれた。


 ――リエルは孤児院育ちだったのか。カルドは両親がいるようだが、孤児院の同世代の子と夕方まで子供だけで遊べるくらい治安のいい町だったんだな。連れてこられる直前の魔術は、逃げたり暴れないように隷属術を施したんだろう……


「いい町なんだな。安心しろ。ちゃんと親のとこへ連れて行ってやるよ」


 そう言いつつ泣くのを我慢していたカルドを引き寄せてリエルと一緒に抱いてあげる。


「そっか。ミナカは無事か」


「知ってるのか?」


「俺の生まれ育った町だ。町長の息子とはよく遊んだものだが、結婚するときに村に移ってからはまともに会ってなかったな……」


「奥さんがいたのか……」


「あぁ。のんびりとした性格で優しいやつだったよ……襲撃で死んじまったが、奴らの慰み者にならなかったのが不幸中の幸いだ……」


「そうか……つらいことを思い出させて悪かった」


「さっきも言った通り俺は大丈夫だ。それにカディス殿が活躍していた頃は、もっと悲惨なところもあっただろうし、なんで俺がなんて凹んでられないしな」


「前向きで優しいお前といられたんだ。奥さんも幸せだっただろうさ」


「おう。ありがとうよ」


 昔を思い出して涙ぐみつつもニカッと笑うガインの言う通り、悲惨な光景はそれなりに見てきた。


 そんな話を今しても気が滅入るだけで良いことなんてないので、まずは子どもたちが住んでいたミナカという町へ向かうことにした。


「問題は奴らだな……ここは儀式場らしいから、本拠点になる場所とかがあるはずなんだが、手掛かりになりそうなものはすぐには見つけられなかった」


「俺もここ以外はわからないんだよな。奴隷だった頃の記憶はあるんだが、ずっとこの中での作業だったから……」


「ここの位置はわかるか?」


「んー。さすがに10年前だしな……サウラメスのどこかであることは間違いないと思うんだが……この子達もミナカ出身で2日ほど前に連れてこられたことを考えると、そう遠くはないはずなんだ」


 ――移動させる準備等を考えると確かにそこまで距離はなさそうだが、そう簡単に見つかる場所であればすでにここは抑えられているはずだ……何かしらの隠蔽魔法を施している可能性もあるな。


 まずは外に出ることになったので、ガインに入り口まで案内して貰うとまだ明るく、太陽の位置からして昼過ぎくらいだということがわかった。


 近くにはうまくカモフラージュしてある厩舎があり、フードの男たちが乗ってきたであろう荷馬車も近くに隠すように置いてあった。


 入り口は廃れた坑道の様な見た目になっており、さらに人払いの結界が張ってあったため、万が一近くに寄れたとしてもただの廃坑に見えて、何も気にせず引き返すような作りになっているようだった。


「なるほどな……外から見れば割とありそうなただの廃坑か、うまく隠してるな。ガイン、馬はいたか?」


「あぁ、2頭いるな。この荷馬車を引いてたやつだろう」


「荷馬車につないでさっさとここから離れるか」


「あぁ。他の奴らが来るのを待ってやり返したいが、この子らを送るのが優先だな」


「関係しそうな書類も持ち出したから、手掛かりになりそうなものを見つけたらこちらから向かえばいいさ」


「そうだな。カディス殿がそう言うんなら安心できるってもんだ」


 ガインは笑いながら馬車の準備を進めていくれているので、こちらも全員の衣類の準備等をしておく。


 ガインや子供たちはもちろんカディスも薄い布地の簡素な、それこそ奴隷が着ているようなボロボロの服だったので、町へ行くなら着替えておきたかった。


「ごめんな。さすがに女の子用の服はないんだ。まぁカルドの方もブカブカだから……そもそも子供用サイズなんて持ってなかったわ……」


 衣服に関しても少しはアイテムボックスに入っている。


 というのも勇者パーティーでアイテムボックスを使えたのが、カディスと魔法使いの2人だったため衣類は男女で分けて収納していたのだ。


 魔力を扱う技量的に考えれば勇者と聖女も使える魔法なのだが、他に教えるべきことが多かったため後回しにしていたら、とうとう教えることなくこの世を去ってしまっていた。


 ――もしまだ覚えていないようであれば、出会えた時に教えてやるか。


 昔の(といっても精神的には昨日まで一緒にいたのだが)パーティーメンバーの事を思い出して優しい気持ちになった。


 ガインが荷馬車の準備を終えたようなので、それに乗り込みその場を後にした。


「とりあえず適当に移動してここから離れよう。すぐに来るわけじゃないだろうが今は奴らと会いたくない」


「了解だ」


 本当は飛行魔法を使い、海の位置でも把握できればおおよその場所がわかって向かう方向を決めやすいのだが、今は子供たちの安全を優先することにした。


「そういえば、奴らはなんて呼ばれてるかわかるか? 町で情報収集する時にもなにかあると便利なんだが……」


「そうだなぁ……フードの奴らが『邪神様』がどうのとか『教主様に』とか言ってたが……さすがに世間的になんて呼ばれてるかはわからないな。長い間襲撃や略奪、人さらいをしてきたんだから何かあるとは思うんだが……」


「ふむ。とりあえずは『邪神教』とでも呼んでおくか。しかし邪神かぁ……魔王の件がこの間終わったばかりだってのに」


「ははは。それも10年前のことだぞ」


「そうなんだよなぁ……本心をいうと今の国々がどうなってるか楽しみではある」


「相変わらず国同士の戦争などはないみたいだな。もしあったとすれば邪神教が便乗して動いていたはずだし。あぁ、そういえば新しい国ができたってのは知ってるんだっけか?」


「新しい国? どの国が分裂したんだ?」


「勇者様が国王になって、西の海岸沿いにできたんだ。それぞれの国が2割ほどの土地を譲渡してな」


「あいつ国王になったのか!? 小さくてもいいから勇者パーティーで治める領地が欲しいとか言ってたがまさか国とは……」


「それぞれの国の連携もしっかりしていて、有事の際には迅速に動けるとのことだったが、悪者はいつもどこにでもいるしな……」


 ガインは自分の村が襲われたことを思い出して悲しそうな顔をする。


「支援等は出来てもどこでもすぐに対応っていうのは無理な話だしな……とくに人災や人が起こすものは場所も規模も想像がつかん。むしろ後者に関しては対応できない様に動かれるのがほとんどだろう」


「あぁ……国同士の争いはなくても、ならず者たちとの争いはあるもんだしな」


「そうだな……よっし! さっき飯食ったばっかりだが菓子でも食うか? 今はどうか知らないが、昔流行った焼き菓子があるんだ」


 重たい雰囲気になりそうだったので、別の話題に切り替えるためにお菓子を取り出しみんなに渡していく。


「あっはっは。確かにあの頃流行ってたなコレ。俺は分からんが今はどうなのだ?」


「こういうのに刻んだ果実が乗ってるの貰ったことがある」


「たまにパン屋のおじさんがおまけで持ってきてくれてて美味しかった」


「なるほど。確かに果実を乗せるのもうまそうだな……」


 などと先ほどよりは重くない雰囲気に戻ってきたので、子供たちと他愛もない話をしつつ夕暮れまでに儀式場からある程度離れることができた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る