第10話『情報収集』
腹を満たしながら現状を把握しようと、起きてから見聞きした事を思い出して整理していく。
――まずは『反魂の儀式』についてだが……復活系で間違いはないだろう。ただ年月が経ちすぎていることから推測するに、色々デメリットも多そうだが。
黙って食べながらそんなことを考えていると、ある当たり前だったことに対する違和感に気づいた。
――精神的には魔王戦から1日も経っていないが、肉体は10年近く動いていなかったにしては、さっきの戦闘は上々だったな。息も上がらなかった……し……?
それは生きているのであれば、当たり前に鳴っているはずの心音が感じられないということだった。
――うそだろ!? 息を止めて集中しても聞こえない……というか、息を止めても苦しくならないだと? これじゃあまるでいわゆるアンデッドじゃないか!? いや、起きた直後にリエルに命令されて体が勝手に動いた事を考えると、魔力とその儀式でこの娘となんらかのつながりができて、隷属化されているのか?
食べる手を止めて考えつつリエルの方を見てみると、目があって恥ずかしそうに目をそらされた。
――まぁそもそも天界でこの娘の声に答えて復活したんだし、そこは受け入れるしかないか。【ディスペル】も試しておきたいが、どういう繋がりなのかわから迂闊なことはしないほうがいいな。
「まだわかってないことばかりだしな」
そう言いつつ綺麗な銀髪の少女を優しく撫でると、不思議そうな恥ずかしそうな表情で見られた。
「そういえば、10年で多少変わっているかもしれないから聞いておきたいんだが、今の俺の容姿ってどんな感じなんだ?」
ガツガツと食べていたガインに問いかけると、その手を止めてまじまじと顔などを観察される。
「そうだな。髪は多少伸びてる」
――たしかに先程の戦闘の途中視界に入っていたし、それは自分でも分かる。
「んで……新しく生えているところは銀髪だ。カディス殿は黒髪黒目だったので、だいぶ印象はかわったしまったなと……」
「銀髪になってるのか……」
肩辺りまで伸びているのは感覚でもわかるのだが、新しく伸びた分の色までは把握できなかった。
「あと、右目が緑色になってて、全体的に少し歳を取った感じってところかな」
「歳はもうおっさんだったしいいんだが、緑? 右目の色まで変わっているのか?」
触って分かるはずもないのだが、反射的に空いていた左手で右目を触ってしまう。そしてそのことに気がついて手を離したときに、左腕にあったはずの古傷が無いことに気がついた。
まだ幼い頃に出来てしまったその傷は、大人になってからは消すことができず残っていたはずだった。
後遺症もあるわけじゃないし気にすることはなかったのだが、左手を使うと視界に入っていたためそれがないことに違和感を覚えた。
――わざわざ古傷を消すまでの処置をしてから復活させる奴らとも思えないが……よく見ると指の形が少し違う……?
右手と左手をよくよく見比べてみると、太さや長さは特に違和感がないのだが、指の形が違っている気がする。
カディスは魔法剣士として戦っており、剣を使っているときも魔法を使えるように、右手だけで剣を扱う流派だったため、手のひらの皮膚の厚さは左右でもともと違っていて触れた感触では気づけなかった。
「爪の形がそもそも違うか……」
「た、たしかに、左手の方は細長い感じだな……」
「このことでなにか知っているか?」
「いや、俺はカディス殿がここに運ばれてからしか知らないから……」
「そうか」
左腕が違う事自体は特に問題視していなかった。感触もあるし動かすのに違和感もない。
片腕がない状態で復活させれられていた可能性を考えると、ありがたいくらいだった。
――左手が別な事を考えると、この右目も別の人から移したのだろうか……まぁ記憶の最後ってあの大爆発だしなぁ……欠損無しって事はないだろうし、ほかもどこか変わってるかもしれんか……
「そういえば奴らがカディス殿を運び込んだ時に、色んな書物も運び込んでたから後で案内します」
「あぁ、少しでも情報がほしいからな」
そういうと再び食べ始めて腹を満たした。
食事をした部屋から通路を通り、2度曲がった先に書物等を運び込んだ部屋があった。
まるで迷路のように入り組んでいる内部は、やっていることを隠したいあいつらにとってはこの方が都合がよかったのだろう。
部屋に入ると机の上に何枚かの紙が拡がっていた。
「これはまぁご丁寧に……」
子供たちはガインに任せつつ、めぼしい書物があれば持ってきてほしいと頼んでおいた。
適当に手に取った紙には『カディスの状態』と書かれていたので、それから目を通し始める。
『外傷:左腕の欠損と右目が潰れていること。復活させたあと戦力にならなければ元も子もないので、早急に処置をする。なお左腕の行方は不明。恐らく外海のモンスターに食べられた模様』
『対応:今回さらったエルフ族で検討。儀式の適正試験に耐えきれず死んだ者の中に、似た体格の者がいたためその左腕と右目を持ち帰り移植』
『結界:魔力を体に流したところ、全体に行き渡った反応が出たので恐らく問題なし。よってカディスの体を儀式場へ搬送する』
――腕と目はエルフのものか……死んだエルフの体を移植とは……問題はなさそうだし、彼の分もやり返すと誓って追悼と感謝をしよう。
次に手に取ったものには『反魂の儀式』と書いてあった。
『死者の魂を呼び戻して肉体に定着させる』
――ここまでは【リザレクション】と大差なさそうだが……
『闇属性適性がある程度なければ発動しない。発動しても失敗した際は術者の生命力をすべて持っていかれ死に至る。成功した際はアンデッドとして復活し、生前以上の力を出せるようになり、術者の命令に逆らわなくなる』
「これのせいか……生前以上の力っていうのは本能的にかけられているリミッターが外しやすくなるからか?」
試しに腕をつねってみるが、思ったより痛みは感じられない。
全く無いということではないのだが、これくらいであればたとえ刺されたとしても顔色を変えずにいられるだろう。
「なるほど、アンデッドな……まだ多少痛覚が残ってるのはある意味救いか。全く痛みを感じないと、攻撃されたときに判断に困るしな」
『なお、術者が死んだ際は儀式によるつながりが絶たれ、復活させた者も死体に戻る。よって手がつけられなくなると判断した際には、早急に術者を殺すか自害させるように』
――なるほど。俺が暴れようものなら隷属術で自害を命じ、すぐに無力化する算段だったんだな。それなのに俺に命令する内容がまさかの『何でもいいから魔法を使え』だったから【ディスペル】が使えて止めることが出来なくなったと……
リエルの主だった男が、儀式が成功したことで興奮状態になり命令を適当にしていたのを思い出す。
「力を見てみたかったにしても、あいつが間抜けでよかったか……もしあれが『目の前の奴隷を殺せ』とかだったらリエルを開放できなかったし、リエルの命令に従うしかない俺は何もできなかっただろうな……」
相手がバカじゃなかった場合に起こりえた事態に身震いしつつ、別の紙を手にとっては内容をザッと確認していく。
――しかしリエルとは繋がったままの方がいいか……リエルが死ぬと俺も死ぬということは、恐らく【ディスペル】が成功したとしても結果は同じなんだろう。せっかく復活したんだから、心残りだったあの後の世界も見てみたいしな。
別の紙を取ろうとしたとき、他の部屋から書物を持ってきたリエルが視界に入った。
――まぁ見て回れるかどうかはリエル次第だな。この娘のお陰で復活出来たんだから、この娘の意見に従おう。命令されれば逆らえないし、死なれると困るから守るためにも近くにいるべきだしな。
お礼を言いつつ頭を撫でてやると、少し嬉しそうにしているのを見て頬が緩むのを感じた。
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