第8話『復活と少女』
洞窟内の広い空間に直径2メートルほどの魔法陣の上に男性の死体が置いてあり、同じ魔法陣の中に13歳前後の男の子が死体の傍に座っていた。
周りには黒い外套のフードを深くまでかぶった大人が5人と、その近くに2人の子供がいた。
子供は魔法陣の中にいる子と同じようなボロボロの布を巻いただけの様な格好で、首輪に鎖を付けられて引っ張られてもいたが、嫌がるそぶりもせずただただフードの人物たちの命令に従っていた。
「さて、お前の奴隷はどうかな?」
「かれこれ何年やってんだっけこれ」
「始めたのは10年ほど前じゃねえか? まぁ掻っ攫って来ようにも限界があるからそこまで回数はいってねえだろうが」
「まぁ今日も久しぶりに適正があったからやらせるって事だもんな」
「しかも3人もだ。捕まえてきても適正が無きゃ大体殺しちまうし、複数人なんて何か月ぶりだ?」
「そういや隷属術を施した奴隷が成功すると、主にはたんまり褒美が貰えるらしいぜ?」
「何回も聞いたわ。それでも10年たってもいねぇんだろ? 本当にやり方あってんのか?」
「やめとけやめとけ、教主様や幹部達に聞かれたら殺されるぞお前」
「そうだぞー。聞いたのが俺らでよかったなぁ? 成功した褒美は山分け決定だな」
「だな。黙ってはやるから安心しな」
「っち。おい、はじめろ!」
フードの男が魔法陣の中にいる少年に命令すると少年の背中にある紋様がうっすら光る。それは刻まれた者を強制的に命令通りに動す従属の証だった。
魔法陣の中にいた子は命令通りに呪文を唱え始め、それに呼応するように足元の魔法陣もうっすらと光り始める。
しかし魔法陣が少し光ったかと思うとすぐに消え、同時に男の子が倒れた後しばらく痙攣し、とうとう動かなくなってしまった。
「おい! 立て!」
フードの男がそう命令するが背中の紋様は光らなかった。それは対象の肉体が死んだことを意味していた。
「クソがっ」
「死んじまったなぁ。まぁ次回がんばれよ」
「まぁすこーし魔法陣も光ってたし、よくやったんじゃねぇの?」
「久々に回ってきた奴隷だったのに役に立たねぇな」
「久しぶりの儀式だというのにつまらん」
「次は俺だな。おい、あの死体を陣から引っ張り出して準備しろ」
そう言いつつ首輪につながった鎖を引っ張って、10歳前後の女の子を魔法陣の方へ向かわせる。
と言っても命令されてる以上引っ張られなくとも自分で向かっていくため、鎖に力を入れる必要がないのだが、”もし自分の奴隷が成功したら”という考えのせいで興奮していたため、急かすように引っ張っていった。
死体の片づけを命令されていたが、10歳くらいの女の子が自分より体格のいい男の子の死体を動かせるはずもないので、別の大人の奴隷に命令して死体を片付けさせていた。
「ふん。死体すら片付けできないとは」
「そんな子に何を言ってるんだよ、普通に考えて無理だろうよ」
「そうだぞー、いくら奴隷でも力は普通なんだぞー。しかしその子も適正あったのは勿体ねぇなぁ。スゲェかわいい顔してんのに。あと数年たてばいい女になるぜ?」
「ばっか。そういう奴隷はもういるだろうが。それともあんなちっさい子がいいのか?」
「そういうわけじゃねぇが、きれいな顔立ちだなぁって思っただけだって。適正さえなきゃ今から死ぬこともなかったのになぁ」
「はぁ? まだ失敗って決まったわけじゃねぇだろうが!」
失敗前提の話が進んでいるため苛立って鎖をさらに強く引っ張りつつ、他のフードの人物たちを睨む。
「ははは、そうだったなぁ。まぁ拝見と行こうぜ」
「そうだなぁ。さてさて何秒もつかなぁ」
「っち。おい始めろ」
そう言うと女の子は死体の横に跪き、死体の胸に書いてある魔法陣に手を置いて詠唱を始める。
先ほどと同じように足元の魔法陣も光出すが、その光り方はさっきの比じゃなく強くなっていく。
「お、おい……」
「マジか」
「いいぞ! そらみたことか!」
奴隷の主になっている男は興奮しっぱなしで、他のメンバーは茫然とその光を見ていた。
魔法陣の光が死体のある中心に集まるように消えていき、少女の手が乗ってある胸の魔法陣が光り出す。
足元の魔法陣の光が完全に胸の魔法陣に移るような形になったあと、少女が手を放して立ち上がった。
10年物間動いていなかった体がすぐに動かせるようになるわけもなく、意識があると感じたカディスは周りの音を聞いて状況を把握しようとしていた。
――助けを求めていたようだし入ってみたが……この背中の固い感触……感触があるということは生き返ったのか?
目を開けてみようにもまだ眩しすぎて開けることを断念した。
「成功したのか?」
「奴隷は死んでないが、あいつも動かないぞ?」
口を開こうとしてみたがそのような会話が聞こえてきたため、身動きせずに聞こえてくる会話を聞き取る。
――今奴隷とか言ったな……この大陸じゃ重罪だぞ? てことは少なくともまともな奴らじゃないな。そんなやつらが【リザレクション】なんて使えるわけもないが、現に肉体に戻っている……どうなってるんだ?
「おい! そいつに起き上がるように命令しろ!」
男の荒い声が聞こえたかと思うと、近くで「起き上がって」と消え入りそうな少女の声が聞こえた。
その瞬間カディスは自分の意思とは関係なく、体が動いて上半身を起こしてしまった。
――なんだ!? これは隷属術か! 死んでた間に刻まれたか……いや死体に先に刻むのは無効だったはずだ。それに命令してくるのが少女なのもおかしい。
急に体が動いたことに対して驚くが、冷静に考えてこれ以上死んだふりは意味がないと察したため、目も開いて正確に状況を把握しようとする。
眩しさを我慢しつつゆっくりと周りの視覚情報を取り込む。
――声の通り男5人、俺の横に少女。見るまで分からなかったが静かにしてる子供の奴隷が1人か……壁は岩肌で骨とかが辺りに飾られてるあたり、神聖魔法が使えるような場所じゃないな。
「お、おぉぉぉ……あの英雄カディがよみがえったぞ! ”反魂の儀式”は成功だ! これで我々は強力な力を操れる! 褒美は俺のもんだ!」
――”反魂の儀式”……名前と実体験から【リザレクション】のように復活系の魔法だろうが……それのせいで体の自由が奪われてるのか。
「おい、前の壁に向かって何か攻撃魔法つかわせてみろよ」
「うるせぇ! 俺は成功したんだ、意見すんじゃねぇ!」
「んだと!?」
「いいのか? 俺が死んだら奴隷の隷属術も解消。そのすきに英雄殿が暴れるかもなぁ?」
近くにいた男が胸倉をつかんで今にも殴りかかりそうな雰囲気になるが、言われたことは実際あり得ることなので拳を引き開放した。
「っち。でもお前らも観たいんじゃねえのか?」
「しかたねぇなぁ、それじゃあ見せてもらうかぁ。おい、そいつに何か魔法つかわせろ」
「何か魔法使って」
男がニヤニヤしながら少女に命令すると、少女はそのままカディスに命令する。
――何か……ん? 魔力は貯めてる感じはするが、指定がないからかさっきみたいに勝手に動かないな。てなると……
「【ディスペル】」
そう言いながら隣の少女に手のひらを向けて解呪魔法を放つ。
カディスは魔法剣士ながらも様々な魔法適性があり、聖女が身近にいたため隠れていたが聖属性や光属性といった貴重な属性も扱えた。
光が少女を包み込むと背中にあった隷属術の紋様がスッと消えていった。
「な!? おい! ばか! 何やらせてんだ! 今すぐその男を座らせろ!」
元主だった男が興奮状態から一転して焦った声で少女に命令するが、紋様が消えた少女が命令を聞くことはなかった。
その代わりにカディスが少女に「助けてほしいか」と小さな声で聞いていた。
少女は小さく頷いた後かすれた声で「助けて」と、天界で聞いた声で俺に命令した。
「了解だ」
そう言うと少女の頭を軽くなでて立ち上がり、フードの人影達を睨んだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます