第6話『新国と英雄』

 魔王討伐報酬の話に続き凱旋の予定や新国創立の発表など、他にも話し合う内容は多かったため会議はそれなりに長引いた。


 その間にも新国となる地域へ偵察隊を送ったりと着々と準備は進んでいった。


 そんな中勇者たちは1つの部屋に集まって机をかこみ、つい先ほど終わった会議で決まったことについて話し合っていた。


「発表までに国の名前を決めておけってさ」


「名前ですか……」


 勇者は他の国王たちとの会議へ1人で参加することになっており、ほかの3人は新国となる地域のモンスター討伐隊編成の会議に出ていたため、お互い決まったことを伝えあうためでもあった。


「ぶっちゃけ俺はセンスないから任せるわ」


「私もちょっと……国の名前となると……」


「そうだよなぁ……後から変更も可能なパーティー名とかとは違いすぎる」


「この国は初代国王様の名前が元になっていますが……」


「名前なぁ……」


 大昔はこの大陸にも複数の小国が存在していたが、それぞれが吸収や合併を繰り返した結果、この大陸を区切っているかのような山や川を国境と定めて今の3国になり、それぞれが手を取り合って成り立っている。


 もちろん各国には特色とも呼べる秀でたものがあるが、それを無理やりどうこうするようなことは国が許すわけもなく、国として動くような大規模な対人戦は古い記録上のものばかりであった。


 セントリアという名前は統合された際の元からあった国名ではなく、手を取り合って営んでいくように扇動した者の名前を元に新しく付けられた。それは既存の国に吸収されたのではなく、手を取り合ったのだと主張するためだったと伝えられている。


「名前って言っても4人だぞ?」


「何言ってんだ。国王は勇者だろうが」


「いやいや……まぁまだ発表には時間があるから考えておくよ」


「えぇ任せたわ。でも発表前に決まったら教えてほしいわね」


「よろしくお願いします」


「思いついたら真っ先に相談するさ」


 その後何回か仲間と相談を繰り返し、新たな国の名前は”セブシーウィス”となることになった。


 由来としては天啓と受けた勇者達の名前とカディスの名前から1文字ずつもらい、それを並び替えたものだった。


 他のメンバーに伝えた時は若干渋い表情をされたが、固有名詞など最初は慣れないものだがそのうち慣れるだろうと納得してもらった。


 発表は凱旋が終わった後広場で行うことになっているのだが、凱旋を含めて3国の王都でそれぞれ行うことになっていた。


 順番に関しては公平を期すように王たちによるくじ引きが行われたのだが、各国の王が勇者の握った番号の書かれた札を真剣に見つめる様子はどこか滑稽で可笑しかったと思う。


 くじ引きの結果最初になったのは、3国会議を開き勇者と聖女の出身国でもあるセントリア、その次に盾使いの出身国であるサウラメス、最後に魔法使いの出身国であるノスタルという順番に決まった。


 各国の王都とはいえ人数に上限はあるので王都間の移動は極力町々を経由し、宿泊する町では軽い発表を行えるように手配もしてある。またその発表の際には、モンスター討伐等で活躍した付近の冒険者の表彰も行われることとなっていた。


 そのため凱旋の日程は長期間になったが、その分休息と呼べる時間も長くあるため、勇者達自身もその祭りの雰囲気を楽しむことができた。




 凱旋はつつがなく終わり、勇者達も新国となる地域開拓の手伝いに来ていた。


 その国土となる広さは勇者を含めた4国の王で話し合った結果、3国からそれぞれ2割程度の広さをもらうことになった。


 小さな領地で構わないと思っていた勇者達からすれば他の3国よりは小さいとはいえ、元の国の半分近い国土を治めることになったのだから驚かないはずもなく、「自分たちも率先して協力するのは当たり前だ」と言って参加したのである。


 なぜそのような広さになったのかというと、ちょうど中心部となるセブシーウィスから各国の中心に向けて2割ほど進むと大河や谷があり、ちょうどいいのではないかという軽い感じで決定されたのだ。


 もともとその川や谷のせいで移動が困難で各国も持て余していた状態の土地が広がっており、森を切り開くところから手を加える必要もあるうえ、渡れるように橋を作らないといけないため大規模工事も必須ではあった。


 まずは各国方面から道になるように切り開きつつ沿岸部でそれをつなぎ、元の国境線が交わる場所にセブシーウィスの王都を作ることになっていた。


 王都どころか城を立てるのですら何か月もかかる見積りで、王都ができるのは年単位で後になるだろうと予測されていたのだが、各国から派遣された魔法使いや亜人たちの力と頑張りのおかげで大幅に短縮できそうな勢いで開拓は進んでいった。


 もちろん問題がないわけではなかった、その1つが移住希望者の件である。


「……少しはこうなるかと思っておったが、多すぎる……」


「ですね……こちらも魔鉱石鉱山の町がいくつかつぶれるような人数ですよ……」


「こっちも漁村がいくつもつぶれかねん……」


 凱旋が終わった後も度々集まっていた王たちがそうつぶやきながら難しい顔をする。


「こんな人数、今開拓してる街じゃ収まらないですよね……」


「もちろんだ。セントリア領地の総人口レベルだぞ」


「ノスタルやサウラメスもそのくらいですね」


「3国からの合計人数とはいえ、何がどうなったらそれと同等の人数になるんだか」


「新しい物好きなのか、勇者のファンなのか、はたまた今住んでる領主に不満でもあるのか……」


「最後のはよい調査のきっかけなるな。希望者が多い領は調べる価値がありそうだ」


 領地内のの人数が1つの王都に移住しようとしている、そんな人数を受け入れることなど出来ることもなく頭を抱えていた。


「幸いセブシーウィス王都はまだ開発段階だから拡張は可能だが、それにも限度がある」


「人が移るのは構わないのですが、現状うまく回っている領地が立ち行かなくなるのはまずいですね」


「まず犯罪歴のある者はもちろん却下だとして、申請があった中からさらに絞り込むしかあるまい」


「村ごと移住希望の申請はその領主と相談し、生産性に支障がなければ許可するとかでしょうか」


「それでも申請無しで移る者もいるだろうからなぁ……貴族からも声が上がっておるし」


「しばらくは申請した者のみの許可とかにしないと、今ある領地の所々が荒れますね」


「そうだな……名前と証明書の発行、それと照らし合わせてから新王都への移住の徹底だな。貴族に関しては自身の領地を持たぬ下級貴族からばかりだが、こちらも慎重に選ばねばならないな」


「まぁ勇者たちの国で悪さ目当てで入るバカはいないと思うが、しばらくは目を光らせておかねばな」


「よろしくおねがいします」


 そのほかにも問題となることは残っていたので、勇者もといセブシーウィス王は引き続き4国会議に出席することになった。


 王都となる地域や各国へ続く道周辺を安全にするために討伐隊が派遣されたり、手つかず状態になった原因の川や谷にには魔法使いとドワーフ達による大規模建設が行われ着々と開拓は進んでいった。

 魔王という絶対的な敵となる存在が起こしていた、モンスターの狂暴化や異常行動が収まり始め、他のことに集中できるようになったというのも大きい。


 モンスターによる被害はまだ続いているが、それは歴史的に見ても魔王の存在の有無にかかわらず起きていた事案なので、対処する組織として冒険者ギルドやハンターギルドというものが存在している。


 天啓で魔王の存在を知らされた日から、徐々に活発化していたモンスター達の異常行動や強力な個体の出現の際には勇者たちが対処することも多かったのだが、それらが減った今の情勢ではそういった組織に任せても何とかなるほどには落ち着きつつある。


 モンスターの襲撃が減ったおかげもあって開拓作業に参加してくれる冒険者たちも多く、今まで開拓に着手していなかったのが不思議なほど順調に進んでいった。


 結果として異例な速さでセブシーウィス王都が完成し、各国の王都にはテレポートゲートが設置され迅速な対応が約束されたこの大陸は、国同士の戦争などには無縁で災害時にも対応がはやくなり、平和に暮らしていけることとなった。


 魔王戦に自ら志願して参加を許され、勇者たちを支援し守り切ったカディスは各国から称えらた。新国創立の際には勇者以外の勇者メンバーと同じく、新国の大公の爵位を授けられ、セブシーウィス王都には石像も建設されることになった。


 遺品等は外海だったのもあり回収不可能となっており、親を早くに失くし恋人や伴侶もいないため遺族といえる遺族は勇者たちになっていたのだが、彼の成し遂げたことに大勢の人が感謝し石像のある広場で大々的に葬式を執り行い、弔われることになった。


 彼の活躍は勇者を導き、最後には自らを犠牲にしてでも勇者たちを守り切った英雄として、後世に語り継がれていくのであった。

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