第4話『新たな王』

 勇者の部屋に4人が寝ていたことに関しては王たちの耳にもはいったが、貴族でもなく王城内部なのでほかに目もないからと大目に見てもらった。セントリア王は笑い話のように楽しそうに聞いていたが、翌日はさすがにそれぞれの部屋で就寝した。


 そして魔王討伐後の会議は予定通りの日程で行われた。


 馬車を使わず短時間で移動してきたので翌日にするかという提案もあったが、これ以上遅らせるのは申し訳ないということでそのまま始めることになった。


 新しくサウラメスの宰相に任命された者はまだ30代とほかの宰相より若い世代だったが、ほかの宰相も顔を知っており能力的にも全く問題はない人物だった。


「討伐の報告は勇者たちから聞いたことをまとめておいたので、それをよんでくれ。今日はまず勇者たちの報酬の件からだ」


 セントリア王がそう言うとサウラメスの宰相は報告書に目を通し、ほかの人達は別の紙を呼んでいるようだった。


「それで勇者よ、報酬としてほしいものはあるか?」


「できれば我々に場所は不問で小さくて構わないので領地をいただきたく思います」


「ほかの者はなにかあるか?」


「いいえ、今勇者様がおっしゃったとおりの内容が我々全員の願いでございます」


「ふむ……サウラメスの宰相よ、何か意見はあるか?」


「はい。勇者様達全員が治める領地ということですが、何かお考えがおありなのでしょうか?」


 報告書に目を通し終わっていたサウラメスの宰相が指名されたため、疑問に思っていたことを口にする。


 内容としては気になってる人もいたため、勇者の返答を静かに待っていた。


「まずは我々の力ですね。自分たちで言うのはなんですが権力的にも十分な力を得てしまったと思います。そのせいでそれぞれの出身国で貴族間とのいざこざが発生する可能性を考えて、それであればまとまって新たな領地にいた方が問題は少なくなるのではないかと思いまして」


「なるほど。”まずは”ということは他にもあるのでしょうか」


「のう1つは純粋に文字通りの”力”ですね。魔王をも討伐してしまえる強大な力。これも問題になるのではないかと思いまして」


「それであれば勇者パーティー全員がまとまっている方が脅威になるのでは?」


「魔王は討伐されたとはいえ、まだ余波でモンスターが活発な状態にあります。もし私たちが討伐に出るようなことになった際にも一緒にいた方がいいかと」


「なるほど。女神様から天啓を受けられた方々を信用していないような発言、大変失礼しました。以上です」


 質問を終えたサウラメスの宰相は軽く微笑んだ後、深々と勇者たちに頭を下げた。


 彼は女神から天啓を受けた勇者達を信用しないような人間ではないのだが、本人の口から直接聞きたくて質問をしたのだ。


 それは他の王や宰相も新しい宰相を知っていため何も言わず、終わった際には軽く頷いていた。


「うむ。サウラメスの宰相が言った通り、女神様から天啓を受けた勇者達が脅威になりえるなどとは考えておらん。それでだ、実は昨日3国の王で話し合って決まったことがある」


 セントリア王が軽く咳ばらいをし、各国の王の前に置かれていた紙を手に取ってそれぞれの王の顔をみると軽く頷いていた。


「この大陸の西沿岸部。円の右半分の様な形状の中心部だな。その一部を各国から譲渡し新たな国とするのでその国を治めてもらいたい。なお今後のモンスターの対処等にも迅速に対応できるように、新たにできる国も含めて各国の王都にテレポートゲートの設置をすること」


 円の中心部というと3国の国境が交わっており、領土がややこしくなるうえにモンスターも居着いていたためどこの国も町などを作ってはいなかった。


 その場所を各国から切り取って新たな国の領土とし、その国王に勇者たちを据えようという話だ。


「わ、私達が国王に、ですか?」


「そうだ。ただ知っていると思うが、あの地域はどの国も手を付けておらず。何もないどころかモンスターが巣食っている。それの対処はもちろん各国も手伝うが勇者たちの手伝いも必要になるだろう」


「それにテレポートゲートとは……」


「それは我らノスタルの方で研究を進めておってようやく完成の目途が立ちまして。大量に魔力が必要ですが外部から補充可能で、だれでも指定のゲートにテレポートできる設置型の大型魔道具ですね」


「それを使い国同士の連携を深めようということだ。幸いこの大陸は神がそうなるように作ったかのように3国の国境には山がある。そのおかげもあって国土を広めようと戦争するという話は大昔の言い伝えくらいだからな。これからさらに助け合っていこうという話だ」


「もちろんまだ魔力量の関係もあって一般には使えませんが、王族や勇者様方などが使えれば物事に迅速に対応できるということです」


「それが昨日3国の王で話し合って決まった報酬だ。セントリア王がこっそり勇者から聞いておったからのう。行くならワシらも一緒に盃をかわしたかったぞ」


「本当ですよ。何故呼んでくれなかったのかと」


 などと冗談交じりの会話が挟まり、緊張していた勇者達の気持ちも多少楽になる。


「この間の話の直後に決めて下さっていたんですね」


「そうだな。いったであろう、明日できることがあるかもしれないと」


「そうでしたね」


「それで何か問題はあるか? もちろん国の運営となると、領地とはまた変わってくるから優秀な秘書もつける。最高の秘書はやれんが、3国からそれぞれ有能なのをな」


「いえ、領地どころが国として認められ、そのような助けも出していただいたうえで問題など」


「なにをいう。助けてもらったのは我々のほうだ。天啓があったとはいえ、年端も行かぬお主たちは良くやり遂げてくれた。まことに感謝する」


 そう言うと部屋にいる全員が勇者たちに頭を下げる。勇者たちは戸惑いながらもそれを受け入れ、本当に終わったんだということを実感した。


「そうだ。国とするからには王が必要なのだが……」


「それは勇者にきまってるだ――でしょう」


「えぇ、盾使いや私が王なんてできるわけないわ」


「おま……いやまぁそうなんだがよぉ……」


「いや、聖女の方がいいのではないか? 女王という形になるが……」


「え、えぇ!? 私はそんなの無理ですよ……」


「そうよ、こんな小さい子に背負わせる気?」


「いや、そんなつもりはないんだが……俺ももちろん手伝うし……」


「それなら勇者が王でいいだろ。パーティーでもリーダーだったし」


「まぁリーダー的なことはやってたが、それはカディ……」


 勇者がこの場にいるはずだったのに唯一いない人物の名前を言いかけて口をとじる。


 決して忘れていたわけではないのだが、旅の間は表面的なリーダーは勇者でも実質まとめてくれていたのは彼だったことを再確認させられたのだ。


 その際に「本来のリーダーはお前なんだから、頑張れよ」と優しく肩をたたかれたことを思い出す。


「まぁ決めるのはまだ後でも構わんのだが……」


「いえ、分かりました。私が王になります」


「うむ。わかった。まだ正式な発表は出来ぬが、これから勇者には王として会議にも参加してもらおう。ノスタル王もサウラメス王もいいだろうか」


「えぇ、もちろん。大歓迎ですとも」


「だな。これからよろしくたのむぞ、新たな王よ」


「報酬の件でさらに進めていきたいのだが――」


 勇者が王になることが決まった後、その地域をどのように開発していくか、人員はどうするかなどの話し合いが行われた。


 もともとモンスターがまた居着いているということで、力になるだろうと勇者パーティーはそのまま会議に参加し、新たな王都になる沿岸部の話を進めた。

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