第3話『酒の席』

 それぞれ個室に案内された勇者たちは風呂にはいって身を綺麗にした後、夕食に呼ばれるまで部屋で休んでいた。


 正直戦闘の後だったということもあり夕食も部屋で摂りたかったのだが、3国の王との晩餐となると断るわけにもいかなかった。


 晩餐といえどまだ疲れの抜けきっていない勇者たちを気遣ってほかの貴族たちはおらず、参加するのは勇者たちの他に王たちと南の国以外の宰相のみで、近衛騎士団長を含む騎士たち数人が壁際で警護に付いている部屋で食べることになった。


「先程は誠に申し訳なかった。天啓が降りてきてから少しづつおかしくなっているとは感じていたが、まさかあのような発言をするとは思いもよらなんだ……」


 食事がある程度食べ終わったタイミングで、サウラメス王が申し訳無さそうな表情で口を開いた。

 食事中でも会話はしていたのだが、内容が内容だけにみんな口を紡ぐ。


「それで次期宰相は決めていると言っていたが、どれくらいかかるのだろうか」


「実は……国境付近の街までは連れてきておる、もちろん現宰相にはいっていないが。次期宰相として見分を広めさせようとその町まで一緒にきておったのだ。この会議が終わった際には、帰り道で儂が今回の事を話してやろうと思っておったのだが、まさかこんなことになるとは……」


「なるほど。国境付近となると3日後あたりといったところか」


「いや、明日の夜か遅くとも明後日の昼までには到着させよう。我が国のせいで会議が遅れるのだから全力で向かわせる。変えの馬も連れていき馬車を使わず数人であればそれくらいで到着するだろう」


「そうか。しかし国境付近とはいえ森を通ることになるだろう。せめて明日の朝日が出てから向かわせるといいだろう。ノスタル王もそれでいいだろうか」


「かまいませんよ。何より宰相抜きでできる話でもありませんし、それが最善でしょう」


「感謝する」


「それでは食事中で悪いのだが、会議は明後日行う予定とするので各自そのつもりでいてくれ」




 食事が終わって部屋に帰った勇者たちだったが、すぐに寝付けることはなく椅子に座って考え事をしていた。


 そんな最中勇者の部屋のドアがノックされ、セントリア王が入室してきた。


「あぁ、そのままでよい。此度は本当によくやってくれた」


「もったいないお言葉です。これもカディスさんに指導して頂いたからこそ。カディスさんを我々の指南役にして下さり感謝しております」


「この場は非公式だ、言葉遣いや礼儀も気にしなくていいぞ」


 王の後に続いてメイドがワゴンを引いて入ってきた後、椅子を引いて勇者の対面に王が着席する。


「食事の時には誘わなかったが一杯どうだ?」


「しかし私は……」


「3年間魔王たちに対処しておった最中に飲める年齢にはなっているだろ?」


「ではいただきます」


 勇者たちは3年前まではお酒の飲める年齢ではなかったため、食事の際にも勧めることはせず各々の注文に従っていた。


 飲める年齢といっても酒場等で公に飲めるのが成人とされる16歳で、それ以前にも飲んでいるものはもちろんいるし、飲むだけなら注意される程度で罪に問われるようなものではない。


 メイドが2人分の金属製のグラスを置いた後お酒を注ぎ、つまみとして色々乗った皿を置いてくれる。


「今後の世界の安寧を願って」


 王がそういいながらグラスを軽く上げたので、勇者も同じように上げつつ一緒に「乾杯」と言ってから一口飲む。


「美味しいですね」


「はは、酒の味がわかるようだな?」


「あ……えぇ、実は前にも飲んだことがあります」


「よいよい、別に咎めることではない。その時はどんなふうに飲んだのだ?」


「私たちのメンバーで最年少の聖女が成人した際に、カディスさんが『みんな成人したから祝いだ! 本当は家族や友人と祝いたいだろうが、それは魔王討伐が終わってから盛大に祝ってもらえ』と言って私たちを祝ってくれたんです」


「そうか……あいつならやりそうだ」


「本当にカディスさんが一緒にいてくれてよかったです。陛下の話もよく聞きました」


「ふはは、若かったころあいつと模擬試合をした話か? 惨敗も惨敗手も足もでなかったわ、はははは」


「その話も聞きましたが、『よく民を見ておられる優しい方だ。あの方のためにもさっさと魔王なんぞ倒して休めるようにしてやらなきゃな』とも言っておりました」


「……そうか。私としてはあいつにも休んでほしかったものだ……天啓が降りる前からよく討伐作戦に駆り出してしまってたからな。親友として心配もあったわ」


「陛下との仲に関してカディスさんは毎回恐れ多いと言ってましたけど、陛下の話をするときは本当に仲の良さを感じられましたよ」


「ふはは、外ではそうだろうが誰もいないときはタメ口だったし、口もなかなか悪かったぞ」


「そうなんですか?」


「あぁ。はじめこそ宰相は注意していたが、ほかの人がいないときであれば、と諦めていてな。おかげでバカ話までできる親友ができて、思いつめることもなかった」


「そうだったんですね」


 その後もセントリア王は自分の知らない旅の間の話を、勇者はカディスの関わった昔の話を楽しく聞きつつ時間が過ぎていった。


「それでだ勇者よ。褒美の件なのだが何かあるか」


 話が一区切りついたときに、まじめな表情になったセントリア王が問いかける。


「褒美……ですか」


「もちろんだ。天啓での使命だったとしても、やり遂げたことに対しての褒美はないとダメだ。私、いや私達3国の王がそろっているのだ、全力で叶えることを約束するぞ。そのための会議でもあるのだからな」


「その話をこの非公式の酒の席で進めてよいのですか?」


「記録には残らぬし、なかったことになるかもしれん。だが明後日までの時間に出来ることもあるかもしれんからな」


「そうですね……旅の途中でみんなと話していたのですが、領土はほとんどなくていいので我々勇者パーティーの領地がほしいです。我々がバラバラに国に帰るより、どこかにまとまっていた方が、権力争い等のいざこざに巻き込まれないで済むと思うので」


「領地か……確かにそのほうが其方らのためになるだろう。其方らが治めるのであれば人も集まるだろうし影響力もでかくなるしな。それはどこでもよいのか?」


「えぇ。モンスターは我々が対処できるでしょうし特に場所にはこだわりません」


「わかった。検討しておこう。先ほども言った通り非公式の場での話だから、そのまま通るかはわからないという事は留意しておいてくれ」


「はい。わかっております」


「それでは夜も遅くなってきたので終わりにするか。残りの酒は飲んでくれてかまわんから置いていくぞ」


「ありがとうございます。陛下と飲むことができてよかったです」


「ふはは。カディスのようになれとはいわんが、もっと親しく接してくれていいのだぞ。まぁそれはこれからだな。夜分にすまなかったな、ゆっくり休んでくれ」


「はい。ありがとうございます陛下」


 勇者が席を立って礼をしているうちに陛下は部屋から出ていった。


 もう一度席に座ってグラスに残っている酒を飲んでいると部屋のドアが急に開かれた。


「よう、なんか声がすると思ったら陛下がきてたとはな」


「だから別に怪しい気配じゃないって言ったじゃない」


「ここは安全なんだからそこまで気を張ることなんてなかったのではないでしょうか……」


 と勇者パーティーの他の3人が部屋に入ってくる。


 陛下がお酒などを置いていってくれたためかメイドが1人室内に残っており、3人分のグラスと追加のお酒を準備してくれていた。


「何を話してたんだ?」


「え、あなたそれ聞いちゃうの……?」


「普通の酒の席での雑談だよ。あ、領地の件は陛下に話したが」


「ど、どうでした?」


「非公式の酒の席での話だから確約は出来ないが考慮してくれるそうだ」


「へぇ、蹴られなかったのか」


「これでバラバラにならなくて済みますね」


「場所の希望とかは特にないっていってしまったが……」


「モンスターが多くても私たちが対処すればいいだろうし、山のてっぺんだけとか毒沼地域のみとか、そんな変な領地を渡したりはしないでしょ」


「山だったら吹っ飛ばし、毒沼だったら浄化すればいい話だな!」


「どれだけの魔力が必要なのよ……浄化にも時間かかるし……ってそれ私と聖女が疲れるだけじゃない」


「浄化が必要なら頑張りますが……」


「それは明後日の会議で決定するだろうから、それから考えればいいさ」


「ほかに何か話してたのか? 結構長い間いたみたいだが」


「まぁ旅の話とかカディスさんの話とかだな」


「カディスさんの話気になります!」


「うお、聖女がこんな大声出すとは……」


 恥ずかしさで顔を赤くする聖女も含め4人で笑った後、陛下から聞いたカディスの話やこれからの事を話して夜の時間を過ごした。


 夜遅くなってきた頃に片付けは明日頼むことにしてメイドをあがらせ、いつもの4人になった勇者たちは陛下から頂いた酒を飲みつつ、周りに迷惑にならない程度にワイワイと話し込んだ。


 3年間ずっと一緒に行動してきた彼たにとっては、それがすでに自然体と言える感じになっていたのだろうが、勇者の部屋のベッドに魔法使いと聖女、長椅子と床に勇者と盾使いが寝ていた姿は、朝起こしに来たメイドに少なからず衝撃を与えた。

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