第2話『討伐の傷跡』
魔王がいた浮遊島がなんとか見える海の上に、4人の人影が突如現れてそのまま海に落ちる。
4人はそのことを知っていたため焦らず、あらかじめ言われていた行動をとれるように準備する。
「防御魔法をかけます! ……あれ、カディスさんは!?」
「だ、大丈夫だ近くにいる! 範囲で一気にかけるんだ!」
「わかりました! 全魔力を使いますので後をお願いします!」
聖女がそう言うと自分含めた4人に最上級の防御魔法がかけられる。それと同時に魔力を使い切った聖女が気絶して沈みそうになるのを、魔法使いが受け止めておぼれないように抱いた。
「……それでカディスさんは?」
「最後に唱えてたのは自身を含むものや人を移動させるテレポートじゃなくて、自分以外の対象を移動させるテレポーテーションだったでしょ……カディスさんは残ったのよ……」
「なんでだよ! 魔力もあったんじゃないのかよ!」
盾使いが叫ぶと同時に浮遊島を覆う様に巨大な結界が張られる。
「あれは……結界魔法……」
「聖女に教えていたやつだよな……なんで……」
「少しでも被害を抑えようとしてくれてるんだ……俺たちが確実に生き残れるように……」
「それだったら一緒に来て張ってくれたのでいいじゃないか!」
「あの魔法はしっかりした土台が必要なの……こんな海上じゃまともに発動できないと言っていたわ……」
「そんな……」
「結界を張ったということは、もうすぐ爆発するんだ。俺たちは言われた通り行動して生き残るぞ」
「くそっ。わかってるよ!」
勇者と盾使いがそれぞれの武器を構えて浮遊島を見る。
一瞬赤く光った直後に大爆発した島を見ながら飛んでくる破片に注意する。
大爆発の音が届いたと同時に結界が消失した。割れるのではなく消えたのだ。
それは術者がなんらかの原因で魔法を維持できなくなったことを意味していた。
「カディスさんの魔力反応が消えました……」
「わかっている!!」
安否確認もしくはカディスが生きていると思いたくて探知の魔法を飛ばした魔法使いがそうつぶやくと、結界が消えたことによりカディスが死んだと悟った勇者がやり場のない気持ちのせいで声を荒げてしまう。
爆発の衝撃とともに島の破片が勇者たちを襲うが、言われていた通りに粉砕してやり過ごす。
「この距離でこの熱量なんて……」
「一番大きな衝撃は結界が防いでくれていたおかげでこの程度ですんだんだ……」
「カディスさん……」
「今の状態では亡骸を回収することすら困難だ。乗ってきた船は沈んでいるだろうし、近くの陸まで飛んでいけるか?」
「近くの島とかで休憩しながらでよければ国まで飛んでいけるけれど……」
「頼む……」
魔法使いの言葉の後に続くであろう”本当に帰っていいのか”という気持ちを読み取った勇者は、自分を犠牲にしてまで助けてくれた命を確実につなぐために、唇を強くかみしめながら魔法使いに頼む。
「わかったわ……【フライ】【レビテーション】」
魔法がかかった4人は宙に浮き、近場の陸地を目指して移動しては休憩を繰り返して何とか自国の大陸までたどり着いた。
勇者たちの出身国がある大陸は、大まかにみると半円の様な形をしており、それを円の中心から3等分したような国土で3つの国が存在する。
北からノスタル、セントリア、サウラメスという国である。
それぞれの国から天啓を受けた人物が集まったのが勇者パーティーなのだが、勇者が真ん中の国出身かつ、集まるのにうってつけなためセントリアに3国の王が集まり、魔王やそれに伴うモンスター被害に対する会議を開いていた。
と言っても普段は王自身が軽々と動くわけにはいかないため代理での会議なのだが、今日という魔王との決戦の日はさすがに3国の王がそろっていた。
飛んだまま王都に入れば目立つうえに、貴族たちから何を言われるか分かったものじゃないので近くで降り、市民に見つかる前に報告を済ませたいため門番に頼み、馬車で隠れるように王城まで移動した。
入り口で兵士に報告に来たことを伝えると、魔王が討伐されたことによる喜びを抑えられない様子だったが、「一刻も早く王にお伝えしたい」というと急いで向かってくれた。
王たちの準備が終わるまで客室で待つことになったため、ようやく一息入れることができた4人だったが、カディスを失ったことによるショックから完全には立ち直れていなかった。
「……なんで……」
聖女は帰る途中で目を覚ましたが、カディスがいないことを不思議に思い、「先に報告に帰ったのですか?」と震える声で仲間に聞いた。
国に帰れば知られてしまうため隠すことなくその場で伝えたのだが、転移先で見なかったことで可能性として考えていたようで、ひどく悲しみはしたが取り乱すほどではなかった。
それぞれが気持ちの整理をしていると、王たちへの謁見の準備が整ったことを兵士が伝えに来たので部屋を出て向かう。
謁見と言っても3国の王とそれぞれの近衛騎士団長と宰相の合計9名に報告する場であり、セントリアで会議をしているとはいえ1人だけ玉座に座るわけにもいかないので会議室で報告することになっている。
4人が会議室に入ると席に着くように言われたため、王たちの対面の席に用意された5つの席にそれぞれが座る。
「伝令の兵から結果は聞いている。皆のもの本当によくやってくれた。して、カディスがいないようだが……報告を聞かせてくれるか」
セントリア国王が開いている席に視線を向けて、勇者たちの表情から結末を察して悲しそうな表情をした。
勇者たちは浮遊島での戦闘の経緯、魔王が死んだという確認は5人で行って確実に死んでいたこと、死んだあと道ずれにするように超威力の爆発魔術を仕込まれていたこと、それを抑えて勇者たちが確実に生き残れるようにカディスが残って結界を張ってくれたことを報告した。
セントリア国王は先ほど予想した結末通りの事を勇者の口から聞き、力なく椅子にもたれかかり天を仰ぐ。
他の国王や宰相達が初老と言える年齢なのに対し、セントリア国王は30代とほかの国より1世代若いのである。
それはこの魔王討伐作戦が決定し、成功した後の世界情勢の事を考えて早めに息子に王位を譲ったのだ。
魔王討伐が成功した後も世界中にはその傷跡や余波がのこり、その最中に交代するよりはいいだろうと考えた結果らしい。
他の国はせめて魔王討伐が終わってからと考えていたし、どちらの方が良かったなどということはないため、これに関しては他国や貴族たちからも特に言われることはなかった。
カディスはセントリア出身で腕が立つため騎士団への参加を提案してみたが、それを断る代わりにたまに戦闘訓練の相手をすることになっていたため、会う機会も多く年齢も近かったため非常に仲が良かった。
カディス自身は「王族と仲がいいなど恐れ多い」と言っていたが、王自身は「親友と言えるほどの仲だ」というほどった。
そんなカディスの死亡の報告は、王にとっては勇者たちと同等かそれ以上にショックだったのだろう。
「……天啓に名が挙がっていないのに勝手に付いていくからですよ」
南の国の宰相が小さな声で言うが、今の報告で各々思うところがあり口を開いていなかったため、近くなくとも聞こえてしまっていた。
「黙れ」
勇者たちから殺気ともとれる威圧が放たれ始めその宰相を睨みつける。
王たちといるため抑えるべき力なのだが、言われた内容が内容だけに完全に抑えるのは無理だったようだ。
セントリア王はすぐに言葉が出ないほど南の宰相の発現に驚愕し、北の王や宰相もそう思っているのかセントリア王と同じく驚愕したのかわからないがすぐに声は出さなかった。
「し、真実ではありまんか。天啓に名が挙げられたあなた方4人は無事に魔王を打ち倒し帰還なされた」
「俺たちが無事に帰ってこられたのはカディスさんがいたからだ。それを無駄死にしたような言い方するな!」
「彼も勇者様たちを守ったことで立派に役目を果たせたのではと」
「役目だと? カディスさんの役目は俺たちを鍛え上げ、導いてくれることだ。魔王を倒してからもその役目はまだあったんだ……それを勝手に付いていったから死んだなどとよくも……」
「サウラメス王よ」
「う、うむ……さすがに今の発現を許容することは出来ぬ。おぬしは退室せよ」
「し、しかし、王よ!」
「さっさと出ていかぬか! それともこれ以上我が国を陥れるつもりか!」
「くっ……失礼しました」
そう言うと南の宰相は部屋を出ていき、外で待っていた自国の兵に別の部屋へ案内された。
「勇者よ、我が国の宰相が申し訳なかった。この会議が終わり次第あ奴は解雇することで許してもらえぬだろうか」
「……私の方こそ抑えるべき力が多少なりと出てしまいました。ご無礼をお許しください」
「もちろん許す。あの発言はこちらに非があるのでな……」
「サウラメス王よ、次期宰相がすぐに決まるのならすぐに呼ぶといい。勇者たちも帰ってきたばかりだから今日のところはゆっくりと休むがよい」
「すまぬ。次期候補は決まっておるので手配しよう」
報告自体は終わったため、今後のことについてはサウラメスの宰相が到着し次第会議することとなり、それまで勇者たちは王城で身を休めることになった。
「あぁ勇者たちよ、魔王が討伐されたという報告は国民にするが、凱旋はまた後日とする。だから町には出るなよ、囲まれて休息どころじゃなくなるぞ?」
「わかりました」
セントリア王は少しでも気がまぎれるようにか軽い冗談を交えてくれたが、それは自分の気を紛らわせるために言ったのかもしれない。
セントリア王と近衛騎士団長以外が退出した部屋で「カディスよ、約束と違うぞ……」という悲し気なセントリア王の声だけが響いていた。
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