勇者の指南役だった最強魔法剣士は、アンデッドして復活させられる

グエン

プロローグ

第1話『魔王討伐』

 大陸が見えないほど離れている何もない海の上。その数百メートル上空に浮かんでいる島があった。


 昼間にも関わらず薄暗く魔素が立ち込めており、普通の人間であっても異常な光景だと思うだろう。もっともこの濃度の魔素にあてられ続けては、普通の人間は生きてはいけないだろうが。


 その島には木々などはなく、代わりに魔物と呼ばれるものの死骸があちこちに転がっており、それらを作り上げたであろう5人組は10メートル近い大型の魔物と戦っていた。


 その魔物は魔王と恐れられ、魔物を操り破壊行動を繰り返して世界中を恐怖に陥れていた。


 そんな世界の敵ともいえる存在と戦っているのは、神より天啓を授かった勇者と聖女、それを支えてサポートする世界屈指の強者3人だった。


 皆10代後半ばかりの若いものに紛れ、30代の黒髪の魔法剣士だけ若さという意味では浮いていた。


 その魔法剣士はもともと大陸最強と言われており、天啓による魔王復活と勇者の発現により招集され、まだ若い勇者たちの指南役としての使命を与えられてから3年間鍛え上げた。


 最初こそ反発の強い子もいたがそれはまた別の話で、今となっては勇者パーティーの名にふさわしい子達に育ったと思う。


 そんな彼らが魔王と言われる魔物との戦闘を初めてすでに数時間が経とうとしていた。


「さすがに……きついですね……」


「いや、あいつも充分疲弊してるだろう。このまま押し切らないと」


「ここで負けたり逃がしたりするともう後がありません」


「そんなプレッシャーかけないでよ……」


「実際そうなんだろうが、プレッシャーなんて今更だろ?」


「う、それはそうなんですが……」


「くるぞ!」


 魔法剣士の言葉と同時に飛び上がると足元が爆発し、それを追撃しようと上空から火の玉が降ってくる。

 火の玉は魔法使いと魔法剣士が水魔法で相殺し、再び地面に降り立つ。


 降り立ったところに魔王の右腕が振り下ろされるが、それを盾使いが受け止めて隙を作る。


「俺に防御魔法を!」


 魔法剣士が飛び出しながらそう叫ぶと、聖女が最上級の防御魔法を付与する。


「攻撃強化魔法も今――」


「それはいい!」


 聖女の言葉を遮るように叫んだあと、さらに速度を上げた一歩を踏み出して突っ込んでいく。


 魔王はあいている左手で魔法剣士を弾き飛ばそうとするが、防御魔法に加えて魔法剣士自身のシールド魔法と強化魔法によって、逆に左手をはじかれてしまう。


「いまだ勇者! 後はたのんだぞ!」


 そう叫ぶと魔法剣士の後を追う様に走り出していた勇者の剣が光り輝く。


 それに合わせるように聖女がありったけの強化魔法を勇者にかけ、盾使いと魔法使いが右手を防御に回せない様に追撃する。


 はじいたばかりの左腕も戻せるわけもなく、勇者の剣が無防備な魔王の胸を突き刺す。


 光り輝いて刀身が伸びた勇者の剣は魔王の肉体を貫き、仰向けに倒れると刺したところから光の柱が広がって俺たちを包む。


 魔王の肉体をボロボロに崩れさせた光の柱は空まで登って付近の暗雲を取り払い、青空を勇者たちに見せた。


「や……った……」


「ほ、本当に……?」


「あぁ、お疲れさん。さすが勇者だ。聖女の渾身のバフもすさまじかったし、お前たちもよく右手をそのまま引き留めたな」


 まだ倒した実感がわかない勇者たちに声をかけて褒める。


「カディスさんのおかげです。ありがとうございました」


「あなたに教えて貰うことがなければ俺たちは……」


「そうですよ! あの起点もカディスさんが作ったものです!」


「これで終わったのよね……」


 カディスと呼ばれた魔法剣士に駆け寄りそれぞれが今の思いを口に出す。


「あぁ。ヤツの魔力はもう感じないし、これでおしまいだ。さぁ帰ろうか」


「はい!」


 勇者たちが魔王だったものから離れて帰ろうとしたとき地面が揺れた。


「おっと、この浮いてる大地は魔王の魔力で浮いていただけか……」


「浮遊島自体はありますけど、こんなところに突如現れたってことはそうだったんでしょうね」


「無事に降りられるだけの魔力は残っているか?」


「えぇ、もちろん残っておりますわ」


「魔王相手にした後にそれだけ残ってるって……手を抜いてたんじゃないだろうな?」


「ば、ばか言わないでよ! あれはカディスさんが大きな隙を作ってくれたから倒せただけで、アレがなかったらまだ戦っていたんだから残ってるのは当たり前でしょ!」


「まぁまぁ。そのおかげで無事に降りられるんだから」


「何か言いたいならせめて降りてからに、な?」


 よくある小さな喧嘩に聖女と勇者が間に入りその場を収める。


 浮いている大地の端まで来た時にカディスは膨大な魔力の反応を感知した。


「なんだ!? 魔王の死体からか!?」


「くっ! ま、まだいきてたの!?」


 カディスが口にした後、魔力感知に長けている魔法使いも反応する。


「うそでしょ……」


「だったらこの揺れは魔王の魔力量だけで揺れてるってのか!?」


「もう一度強化魔法を!」


「いやまて! これは……」


 カディスは魔王と言われていた物が完全に死んでいるのを再度確認する。そのうえで急速に集まって凝縮されていく魔力の使い道を探る。


「っち……これは俺たちを確実に殺すためのだな……」


「どういう、こと……」


「簡単に言えば大爆発だ。自分を殺しても、その相手も道ずれにする様に術式を組んでいやがった……」


「で、でもそれを防げば問題ないんでしょ?」


「……これを防ぐのは無理だ……範囲は海上付近までだろうが、この圧縮具合を見ると威力は計り知れない……」


「そ、そんな……」


「まだ諦めるな、まず遠くにテレポートで飛ぶ。その後出来る限りの防御魔法をかけて、落ちてくるこの島の破片に対処する」


「な、なるほど! で、でもには膨大な魔力が……」


「さっきお前も言ってただろ? まだ戦っていたかもしれないんだから、充分魔力に余裕はあるさ」


「わかりました! おねがいします!」


「破片は任せるぞ」


 勇者と盾使いにそう言うとカディスは攻撃強化魔法を2人にかける。


「聖女は残りの魔力で全力の防御魔法、魔力が切れて気絶する前提でもいい。距離的に海上になるから聖女をおぼれさせないようにしろ」


 そう言うと聖女に空気の膜をはり、水中でもある程度行動できるようになる魔法を付与する。


「わかりました!」


「それじゃあいくぞ! ……元気でやれよお前ら【】」


「え、それは――」


 その言葉を残してカディス以外の人影が消える。


「さて、若い者は逃がしたし、最上級結界なんて海上で遠隔じゃ発動できないもんな。こんなことなら不安定な場所でも活動できるように、もっと訓練しとけばよかったなっと!」


 そう言うと浮遊島を包み込む規模の結界が張られる。


「これで少しは爆発の威力を抑えられるといいがなぁ。まぁ十中八九粉砕された岩は飛んでいくだろうから、そっちは多少抑えられるだろ。本当はもうちょい遠くまで飛ばしてやりたかったが、さすがに魔力が底をつきそうだからな」


 今にも爆発しそうな魔力の塊を前に、結界魔法を維持しつつ一緒に戦った仲間の事を想う。


「急に呼ばれてから3年間、色々あったが楽しかったな。しいて言うなら魔王の居なくなった世界で、あいつらが今後どんな生き方をしていくのか見てみたかったが、こうでもしないとその先すらなくなりそうだからな」


 その言葉を待っていたかのように圧縮され続けていた魔力が爆発し、その島を真っ赤な炎の光が包み込んだかと思うと、起爆地点に光が戻っていき再度大爆発をおこした。


「っち……今の聖女でも扱えなかった結界魔法なんだが、これでもやっぱり無理そうだな」


 少しの可能性に賭けて自分にも結界魔法を使っていたが、予想通り長くは持たなさそうだった。


「お前ら、俺の分まで幸せに生きろよ」


 その言葉と同時に爆発の最後の衝撃によって結界が壊され、カディスの人生は幕を下ろした。

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