【掌編】“7”を怖がる国【777字】

石矢天

“7”を怖がる国


 僕は旅をしている。

 世界にある様々な国を、自分の目で見て回るためだ。


 304、305、306、308……。

 3階、4階、5階、6階、8階……。


 やっぱり“7”がない。

 いわゆる忌み数というやつだ。

 4が抜けている国や、13階がない国など、色々な国があるから驚くようなことではないのだが、理由が気になってしょうがない。


 4は死を意味するとか。

 9は苦しみを意味するとか。

 13は裏切り者が座っていた席の数だとか。


 こんなことを聞いたら嫌な顔をされるだろうとは思いつつも、折角ここまで旅をしてきたのだから訊かないわけにはいかない。

 怒られるのも、呆れられるのも怖くはない。僕は今回の旅で成長しているのだ。


「なぜこの国では“7”が嫌われているのですか?」と訊ねると、その女性は特に嫌な顔もせずに答えてくれた。


「あれは“7”が嫌われているのではなく、形が不吉なのですよ」


 一体どういうことだろう。

 もしかして“7”が、過去に独裁者や侵略者が使用していたマークに似ていたりするのだろうか。


「形」

「ええ。あの犯罪的なシルエットを見て、あなたは何も思わないのですか?」

「犯罪的」

「そうですとも。あれは罪を犯す者の象徴であり、数多の被害者がいるのですよ。ああ、おぞましい、おぞましい」


 はっきりと教えてくれないまま、女性は足早に去ってしまった。

 結局、嫌われている理由がわからなかった。



 少し歩くと背中を丸めて歩いている男がいた。

 僕はもう一度訊いてみることにした。


「なぜこの国では“7”が嫌われているのですか?」

「なんだ、アンタ。もしかして旅行者かい?」


 男はニヤリと笑うと右手に凶器を振り上げる。

 僕はそれを見上げて「そういうことか」とつぶやいた。


 男の手にあったのは、まさに“7”のシルエット。

 振り下ろされる『』をなんとか避けた僕は、悲鳴を上げながら、次の国を目指して逃げ出した。




      【了】

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【掌編】“7”を怖がる国【777字】 石矢天 @Ten_Ishiya

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