第16話 聖女様は企てたい④

「そろそろ紙とインクが無くなりそうなので、補充をお願いしたいのです。あとそれと……牛乳を少々、定期的に頂きたいのですが……」


 私は『聖女』。決して嘘など吐かない、清廉潔白な『聖女』……という猫で嘘吐きな自分をしっかりと覆い隠し、巫女長にお願いをする。身長差があるので彼女を見上げる形になるが、上目遣いになって媚びた印象にならないよう、相手の目をしっかりと見て、礼儀作法で叩き込まれた淑女の微笑みを浮かべる。……授業は終わったけど普段からちゃんとしてないと、お小言説教が飛んで来るからね。


「紙とインクはまだ充分な量があるかと存じましたが、お足りになりませんでしたか?」


 巫女長の「無駄遣いは許さない」という冷静で無感情な瞳が、しっかりと、私を射抜く。こわ。ただでさえ身長差+無表情の圧でナチュラルに威圧感があるのに……。というか何? 私の筆記用具事情を把握でもしてるの? 怖。


「あ……その、自習で使っていたらですね、思いの外減りが速くてですね……」


 うん、これは本当の事である。嘘は言ってない。……他にも使ってるけど。


「では、牛乳はどのようなご用途で?」


 巫女長の「贅沢は許さない」という冷徹で平静な瞳が、しっっかりと、私の目を射抜く。怖ぁ。というか牛乳って飲む以外に何に使うの……?(アイスに使う自分の事は棚に上げて) あ、牛乳風呂とか……? この世界にあるのかは知らないけど。


「その……喉が乾いたらすぐに自分で飲めるよう、部屋に常備しようかと思いまして。毎回巫女さんにお願いするのも申し訳ないですし、寝る前に飲むと安眠効果があるといいますし」


 巫女長の「食べ物の無駄遣いは許さない」という冷徹で冷酷な瞳が、しっっっっかりと、私の目を捉える。怖……と思ったその時、巫女長の視線が一瞬、私の首の下辺りに動いた。


 うん、今、どこを見たのかな……?(怒)


「……飲み過ぎは太りますので、程々に願います」


 何か気を遣われた! しかも何⁉ どこを見て気遣ったの⁉ 飲み過ぎるほど貧相だって言いたいの⁉ それともそれ以上育ったらお相撲さんになりますよ? とでも言いたいの⁉ いや巫女長は相撲とか知らないだろうけどさ!


「他には何かご必要ですか?」

「……いえ、本日のところは以上でお願いします」


 思わぬ角度からの攻撃にダメージを負った心をなんとか奮い立たせ、違いますよー? ぐっすり眠りたいから牛乳が欲しいんですよー? あわよくば大きくなっても構わないとは思ってますけど、そんな飲み過ぎるほど必死な訳じゃないですよー? というニュアンスを込めて、ニコリ、と淑女の笑みを浮かべ、しっかりと彼女の問いに答える。


「そうですか。では私はこれで失礼致します。紙とインクは明日の授業時、牛乳は夕食と一緒にお持ちする、ということで構いませんか?」

「はい、そのようにお願いします。迅速な対応、ありがとうございます」


 違いますからね? ぐっすり眠りたいから牛乳が欲しいんですからね? 出来ればもう少し大きくなりたいとは思ってますけど、身長の話ですからね? というニュアンスを念入りに込めて、ニッコリと聖女らしく微笑み、退室していく巫女長を見送る。


《探知魔法》で聖女専用エリアから誰もいなくなったことを確認すると、ソファーにボスッ、と横になる。


 はぁ……とりあえずは第一段階クリアぁ……。でも……つ、疲れたー…………(虚ろな目)。

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