第15話 聖女様は企てたい③

 問題は────お金が無いっ!(悲しい)


『聖女』は神に選ばれた、尊き存在である。当然、見返りは求めない。つまり、報酬は無い。……タダ働きぃ……。

 もちろん職業でも無いので当然、お給料は無い。……ブラックぅ……。その代わり御役目を終えて聖女を退く時に、退職金的な感じで相応の物が貰えるそうだけど、私に必要なのは今、現金である。


 まあ、《収納魔法》の中に孤児院にいた時にコツコツと稼いだ小銭が仕舞ってあるので、今回はそれで賄える……はず。ちなみにお金とかの類いは取り上げられそうなので、巫女長には内緒なのである。



 なので一番の問題は────時間が無い!(切実)


 聖女の御役目は治療に浄化、救援に慰問とまあ、いろいろとあるけど、その実態は基本、二十四時間神殿待機である。休憩も休日もあるけど、呼び出しがあれば可及的速やかに対応出来るよう、基本、二十四時間神殿待機である。


 その気になれば《転移魔法》でいつでも抜け出せる私が、今まで我慢して聖女生活をしていたのは、これが一番大きい。いくら隙があればだらけたい私でも、もし自分が外出している間に救援要請があったら……と思うと、流石にお出掛けは出来なかった。こればっかりは優先度が違うからね。


 ……でも、私もただ黙って聖女生活を続けていた訳では無いのである。そう、この問題を解決する方法は──既に見付けているのだから。



 ✤



「では、本日の授業はここまでに致しましょう」


 巫女長のその言葉に、内心では国際試合で決勝点を決めた選手の如きガッツポーズをかましながらも平静を装いつつ「本日もありがとうございました」と、しずしずとお礼を述べる。


 やっと……終わった……。


 ちなみに今日の午後の実技は淑女のマナー[姿勢編]ということで、頭の上に本を乗せられて、背筋を伸ばして立たされたり歩かされたりした。しかもクリアしたら、二冊、三冊と増えていく仕様。何という体育会系。首や背筋がバッキバキです……。

 というかあんなに長時間重い物を乗せられて、私の身長がこれ以上伸びなくなったらどうしてくれるのか。うん? 既に止まってるって? ……まだです。まだ、慌てるような年齢じゃ成長期は終わってない(震え声)。


「では、失礼致します、聖女様」

「あ、少しお願いがあるのですが、よろしいでしょうか?」


 教材を片付けて退室しようとする巫女長を呼び止めると、キツい体育会系授業と将来の背が伸びるか不安で折れそうになっている心をしっかりと切り替え、普段使い用の猫をキッチリと被り直す。何事も最初が肝心ですからね。



 ────さあ、計画を始めましょう。

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