第10話 聖女様の神殿での一日⑤
【午前八時。始業】
特に
とはいえ何もせずに部屋で過ごすのもそれはそれで苦行であり、何より孤児院育ちで教養が充分とは言い難い今代の聖女様は、この時間は授業となる。
最も、周囲には秘密である異世界の知識がある為、最低限の礼儀作法や基礎的な学力は身に付いているのだが、聖女としての振る舞いやこちらの世界について明るく無いのもまた事実。その為、聖女様は自ら進んで学びの機会を望んだ。……内心、学んだ知識でより便利な魔法や魔導具を開発し、充実したぐうたら生活を送ってやろうと思っている事はおくびにも出さずに。
「おはようございます、聖女様」
神に選ばれた聖女様の講師、という大役を務めるのは、泣く子も黙りそうな神殿の重鎮────そう、巫女長である。
これには聖女様もニッコリ。……勿論、筋金入りの猫被りによる、渾身の愛想笑いである。
「おはようございます。本日もよろしくお願いします」
そんな内心は猫の下に厳重に隠し、穏やかに挨拶を返す聖女様。別にこの年齢不詳の黒髪の美魔女が嫌いな訳ではない。教え方も丁寧で分かりやすく、質問すれば答えてくれる。教師としてとても優秀だと思う。ただ──全教科巫女長なのは、正直何とかして欲しい……と思っているだけで。
✤
【正午。昼食】
「つ、疲れた……」
昼食を運んで来てくれた巫女さん達にお礼を言って下がらせると、朝食時と同じ流れで魔法を使い、ソファーにだらー、っと横になる聖女様。どんなに疲れていてもほかほかごはんと安全の確保は怠らない、流石の猫被り食いしん坊である。
別に勉強が嫌いなわけではない。寧ろ現代のように簡単に情報が手に入らないこの世界では、貴重な機会である。その為真面目に勉強する。結果、疲れる。しかも途中休憩があるとはいえ、あの生真面目な巫女長とマンツーマンで四時間、みっちり授業である。結果、超疲れる。
「……でも、お昼ごはん♪」
そう言っておもむろに起き上がり、胸の前で祈りのポーズを捧げ「いただきます」と呟いてからカトラリーを手に取る聖女様。
パンと野菜スープ、オムレツにポテトサラダという、質素では無いが豪華という程でも無い昼食を、大変美味しそうにぱくぱく、ぱくぱく、と食べる聖女様。巫女長との授業という疲労と空腹は、大切なお昼ごはんの最高のスパイスなのである。……そうでも思わなければ、やっていられないのである。
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