第9話 聖女様の神殿での一日④

【午前六時。礼拝】


 神殿の一日は、朝の礼拝から始まる。


 その為、神殿の人々は礼拝に備えて、沐浴をする身を清める

 その後、門番や食堂といった持ち場を離れられない者はその場で、それ以外の職務に影響の無い者は、可能な限り礼拝堂に集まり、神に祈りを捧げる。


 聖女様も例外では無く、可能な限り参加する。


 その場合、最後に登壇し、皆の前で挨拶をする。これは神の代弁者として当然の、聖女の御役目お仕事である────というのは表向きで、本当の狙いは、特別な存在である聖女が一緒に礼拝をする事で親近感を、その後に皆より一段も二段も高い壇上から語り掛ける事で格上感を無意識下に刷り込み、自然と聖女に絶対服従するように仕向ける、神殿の伝統的基本方針の一つマウンティングである。……汚い、流石神殿やり方が汚い。


 そして今日も聖女様は、皆の前で語り掛けます。


「────では、今日が人々にとって、良い一日で在られますよう」


 話を終えると胸の前で手を握り合わせ、祈りを捧げる格好でそう挨拶を締め括る聖女様。礼拝堂の天井から射し込む光に照らされ、真剣に祈る少女の姿は、正に神に選ばれた存在である神々しさに溢れている────ように人々の目には映るが、これも当然、神殿側の演出である。

 そもそもこの神殿の建設時、壇上に良い感じに光が当たるようにしたい神殿側と「光に照らされる聖女様って……めっちゃ尊くね?」という設計側の思惑が超一致。採算度外視の予算と持てる発想と技術の全てが注ぎ込まれた結果、今日も壇上の聖女様は神秘的な雰囲気を醸し出しております。……汚い、流石神殿やり方が超汚い。

 ちなみに聖女様も聖女様で完璧に猫を被る為に、朝の挨拶の原稿カンペを巫女長にこっそりとお願いしていたりする。……汚い、流石聖(以下略)。



 ✤



【午前七時。朝食】


 目覚めてから二時間、ここでようやく朝食である。


 自室に戻った聖女様は、ここまで朝食を運んで来てくれた巫女さん達にお礼を言って下がらせると、ごはんが冷めないように《時間停止魔法》を掛けると同時に《探知魔法》を発動。聖女専用エリアに誰もいない事を確認すると、ソファーにぐでー、っと横になる。本来ならば立場ある者は食事の際、給仕されるのが普通であるが、聖女様は一人で食べる。……だって、だらけられないから。


「疲れた……」


 まだ朝の七時です、聖女様。


「……でも、朝ごはん♪」


 暫くだらけて気が済んだのか、そう言っておもむろに起き上がると《時間停止魔法》を解除。胸の前で祈りのポーズを取り「いただきます」と呟いてから、綺麗な所作でカトラリーに手を伸ばす。そういう所は聖女らしいですね。


 パンとスープ、目玉焼きにサラダという、質素では無いが豪華という程でも無い朝食を、大変美味しそうに、もぐもぐ、もぐもぐ、と笑顔で食べる聖女様。


『聖女』という特大級の猫を脱ぎ捨てられる貴重な時間というのもさる事ながら、純粋に、彼女は、食べる事が────大好きなのです。

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