第8話 聖女様の神殿での一日③

「では、よろしくお願いしますね」


 そう言って目を閉じる聖女様。すると巫女さん達が「「「畏まりました」」」という声と共に動き出す。


 先ずメイク担当の巫女さんが聖女様の顔にメイクを施す。といっても聖女様の立場的に派手なメイクはNG。そもそもシミ一つ無い、もちもちお肌の聖女様にメイクなど不要。ただこの綺麗な肌が日に焼けないよう、UVカット日焼け止めの化粧品を使い「聖女様の柔肌は絶対に日光と殿方の視線には触れさせない……絶対にだ!」という気持ちを込めて、あくまでもナチュラル風に仕上げる。


 次にメアメイク担当の巫女さんが髪を梳かす。勿論髪型も派手なものはNG。そもそもサラサラで癖の無い、銀髪ロングの聖女様はそのままで十分可愛い。ただこの長く綺麗な髪が邪魔にならないよう、そして風に靡くなどして万が一にでも異性に触れなよう「聖女様の御髪おぐしは絶対に男連中には触れさせない……絶対にだ!」という気合を込めて、あくまでも自然な感じに仕上げる。


 そんな想いを知ってか知らずか、タイミングを見計らったように、すっく、と立ち上がる聖女様。


 最後に衣装担当の巫女さんが頭にヴェールを被せて顔が外から見えないように覆うと、肩に短いマントのようなショールを羽織らせ、手袋を着けると、仕上げに全体の衣装のバランスを整える。特にヴェールは聖女様の可愛らしい顔が下賤な者の目に触れないよう「聖女様の御顔おかおは絶対に野郎共の視線には触れさせない……絶対にだ!」という気迫を込めて、あくまでもぱっと見は自然な感じで仕上げる。


 彼女達は聖女様専属の御世話係。又の名を『聖女様ガチ勢』。……一体彼女達の過去に、何があったのでしょうか……。



「「「お疲れ様でした、聖女様」」」


 その声と共に、ゆっくりと目を開ける聖女様。清く、正しく、美しい──完全無欠の『聖女様』の完成である。


「みなさん、どうもありがとうございます」


 そう穏やかにお礼を言い、巫女さん達に優しく微笑む聖女様。


「では、参りましょうか」

「「「はい」」」


 そして聖女様は心の中でしっっっっっかりと猫を被り直し、巫女さん達を従えて、次の目的地へと歩き出しました。…………何なの? 神殿ってこんな裏表あるアレな人達ばっかりなの……?

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