第7話 聖女様の神殿での一日②

「んむぅ…………」


 一通り全身を洗ってから暫くお湯に浸かり、そして今は頭からシャーッ、と温かいシャワーを浴びて、ぬぼー、っとジト目で突っ立っている聖女様。まだまだおねむのようである。しかしそうこうしている間にも、巫女さん達がお迎えに来る時間は刻一刻と近づいています。


「…………よし」


 ここでようやく、ぼんやりとしていた聖女様の瞳にしっかりとした意思の光が宿り、キュッ、とレバーを捻ってシャワーを止める。長い銀髪や緩やかなラインを描く肢体を伝わり、ぽたぽたと水滴が滴る。お迎えまで、あと五分。


 魔法で全身を乾かしながら、バスタオルを手に取り、ふぁさっ、と素早く身体に巻き付ける。いくら自室とはいえ、流石に全裸は恥ずかしい模様。ちなみにさらっとやってのけているが、魔法式呪文の詠唱魔法名キーワードも唱えずに魔法を行使するのは、はっきり言って普通出来ないチートである。お迎えまで、あと四分。


 バスタオル一枚聖女にあるまじき格好で脱衣所を出て、真っ直ぐ寝室へと向かう聖女様。

 クローゼットを開け、白で統一された着替えを取り出すと、ベッドの方へとぺたぺたと歩きながら、バスタオルをぺいっ、と放り投げる。ちなみに聖女専用エリアは彼女の意向により、土足厳禁である。お迎えまで、あと三分。


 下着を着け、ノースリーブのハイネックのシャツを着て、ショートパンツを履くと、ベッドに腰掛けて太ももまであるニーハイソックスを履き、手首から二の腕まであるアームカバーをスルッと身に着ける。

 《転移魔法》で床に落ちたままのバスタオルを洗濯物入れに飛ばすと、ローブのようにゆったりとしたデザインの聖女服ドレスに袖を通しながら、応接室へ移動。お迎えまで、あと一分。


 誰の目も無い事をいい事に、息をするように《身体強化》魔法を発動。トンッ、と軽くジャンプしてソファーを飛び越えると、体操選手のようにスタッ、と見事な着地を決める。巫女長が見ていたらならば即、お説教お小言確定である。お迎えまで、あと三十秒。


 デザイン性可愛い機能性動きやすいの両立、そして「聖女様の柔肌は絶対にチラ見えさせない…………絶対にだ!」という職人達の熱いクリエイター魂の籠もった、いろんな意味で防御力の高い聖女服をちゃんと着れているか、腕を上げたり身体を捻ったりして確認。お迎えまで、あと十秒。


「……よし」


 と、満足したのか、こくり、と一人頷くと、スカートが綺麗に見えるように整えながら、ソファーに腰を下ろす。試合終了間際でも冷静にプレー出来る、まるで超一流スポーツ選手のような風格である。お迎えまで、あと五秒。


 手櫛で軽く髪を整えながら、その時を待つ。


 三秒……二秒……一秒…………コンコンコン。


 扉をノックする音に「どうぞ」と返す聖女様。


 ギイィッ、と重厚な扉が開くと、数人の巫女さん達が部屋に入って来て一列に横に並び「おはようございます、聖女様」とお辞儀をする。


「おはようございます。今日も一日、よろしくお願いしますね」


 先程までの慌ただしさなどおくびにも出さず、窓から射し込む朝陽を背に、そう穏やかに朝の挨拶をして静かに微笑むその姿は────正に『聖女』である。


 …………これもう詐欺と言っても過言ではないですよね、聖女様?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る