第6話 聖女様の神殿での一日①

 神殿の朝は──早い。星々の煌めく夜空が白やんで来る頃には人々は既に動き出しており、一日の準備を始めている。


 聖女の朝も──早い。神の御使いである──あるからこそ、特別扱いでは無く、神殿に関わる全ての人々の規範となるべく、規則正しい、模範的な生活を送っている。送っている────はずである。



 ✤



【午前四時。起床】


 枕元に設置している《魔法の砂時計》から、起床時間を知らせるべく、本屋で流れているような、落ち着いた、穏やかで心地良いヒーリング系のBGMが流れ始める。ちなみに聖女様自作の魔導具である。


「すやぁ……zzz」


 ……起床時刻であるが、聖女様に変化は見られない。そもそも起きる気があるのか、甚だ疑問のある選曲である。



 ✤



 三十分後。


 もう一つ置いてある《魔法の砂時計》から、今度は夜に遊んでいそうなユニットが作曲した感じの、J-POPのような軽快な曲が流れ始める。水○の魔女の主題歌です?


「すぅ……すぅ…………zzz」


 ……聖女様に変化は見られない。多少は起きる気があるかのような選曲だが、一曲目の効果なのか、むしろ先程より眠りが深くなったまである。



 ✤



【午前五時。起床(二回目)】


 さらにもう一つ置いてある《魔法の砂時計》から、今度はゴリッゴリのジャパニーズロックのような、激しい曲が流れ始める。聴く者を強烈に惹き付ける、ピンク髪のジャージ女子ぼっ○ちゃんが弾くようなギターソロ付きである。……というかこれ結○バンドの曲では?


 ここでようやく、聖女様に変化が見られる。


「んぅ……?」


 天の岩戸の如く閉じられていた瞼がゆっっっっくりと開き、宝石のような輝きを放つ翠金色の瞳が、ようやく……ようやくその姿を現す(ここまで約一時間)。


「……何時?」


 まだ横になったままの聖女様の目の前に、スマホの待ち受け画面のような、半透明のディスプレイが浮かび上がる。え、なんですその便利な魔法チート


「五時……」


 掛け布団の下でモゾモゾと動いて姿勢を変えると、腕立て伏せでもするかのような体勢から上半身を起こし、んー、っと、大きく伸びをする。


「眠い……」


 ぼんやりとしたまなこのままベッドから降り、ぺたぺたと洗面所の方へと向かう聖女様。ゆっくりのそのそと歩いているが、実はあと三十分で巫女さん達がお世話しに部屋にやって来ます。……それまでに、最低限の身支度を済ませなければなりません。


 なぜなら彼女は完全無欠の聖女様。だらしない姿など、絶対に人に見せてはならないのです。


 ……絶対に、人に見せてはならないのです……!(大事な事なので二回言いました)


 ちなみに、このあとに控えるある行事のため、身を清めお風呂にも入らなければなりません。…………間に合うんですか、聖女様?

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