第12話 転生の終わりに



 俺の目の前にはただ真っ白な空間が広がっていた。




 かろうじて空と地面の境界は見えるがそれもぼんやりとしている。



 地平の先に、小さく白い扉が微かに見える。




「どこだ!?ここは!!!」




 大声で叫ぶ俺の声は虚しくこだまする。




 なんでこんなことに!?一体どこなんだここは!!


 俺は必死に、記憶の糸を辿りよせる。




「お…思い出してきたぞ…!」





─────────────────────


 俺の名は転辺生巳(かるべいくみ)。

 都内の中堅高校に通うごく普通の17の学生だ。


 部活が終わって帰る途中、国道の大きな交差点で白猫を見かけた俺は助けようと飛び出した所に赤信号を無視した暴走トラックに跳ねられてしまったのだ。

 最後の記憶は…倒れて意識が薄れていく俺の顔を、ペロペロと舐めている白猫の顔!!


─────────────────────




「良かった!無事だった!」


 安心すると同時に、不安と恐怖が襲ってくる。


「えっ」


「俺は…」


「俺の名は転辺生巳かるべいくみ…」


「俺は…」




「一体何度生まれ変わった…!?」




「ごめんね☆生巳イクミ☆」


 突然頭の中に甲高い声が響く。


「!?」



 キュポポーン!



 奇妙な音と共に突然目の前に、猫のような狸のような、ヌイグルミのような丸っこい生物が現れた。




「生巳☆」



「お前は…キュポポン!」


「…久しぶりだね☆生巳☆」



「いや、何度も会っただろう?俺が何度も死んで…何度も生まれ変わって、その度にここに来て、色んな姿のお前と…出会った。あれは…皆、お前だったんだろ!?」


「うん☆ボク、キュポポンだよ☆」


「☆そして…」


 丸っこいヌイグルミ、キュポポンは空中で一回転する。その姿は破裂音を伴った煙と共に、あの、俺が最初に交差点で助けた白猫の姿となった。


「ああ、やっぱり…お前だったのか…」


 根拠はないが、なんとなく、そんな気がしていた。


「ごめんね、生巳」


「お前、俺が助けたお礼に…」


「うん…君に、もう一度、新しい幸せな人生を送って欲しかったんだ」


「でも、ダメだった。ボクの力が足りなくて、記憶を受け継げず…」


「…運命も変えられなかった」


「どうしても…ダメだったんだ」


「だから、君に何度も辛い経験をさせてしまう事になった。本当にごめんね、生巳…」


 白猫は悲しげな表情をしてるよう思えた。


「まあ…でも」


「結構、楽しかったぜ?」


 俺は言う。これは本当の本音だ。何度も転生しいつも最後は唐突な、理不尽な死に終わったが、それぞれの人生はそれぞれ、本当に楽しかった。心から。


「だからほら、お前も元の世界に帰って生きてくれよ、助けた甲斐が無いだろう?俺は天国に行くよ、いや、地獄かもしれないけど。まあ…もうアッチに行くよ。あの扉の先なんだろ?」


 何も無い、白い空間だったはずの地平の先に、今回は小さく白い扉が見える。


「実は…ボクももう死んでるんだ」


「えっ」


「あれからボクは君の家族に拾われて、幸せな人生を送ったんだ」


「マジ!?」


「うん、君の両親と妹さんに囲まれて、本当に幸せな人生だったよ。だから、だから君に…」


「…もういいって、それは。じゃあ、一緒に行こうぜ?」


 そう言って俺は白い扉を指差す。


「さあ行こう。それより親父達の話、聞かせてくれよ」


「うん…!」



 そうして俺達はやっと…。

 この煉獄に別れを告げ、地平の先の白い扉を目指し歩き始めたのだった。




 完

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エバー・転生・ストーリー ~何度生まれ変わっても死んでしまうんですが!?一体どうなってるんだこのクソゲー!!~ 七尾ナナナナ @nanao77

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