第9話 第九転生


 儂の目の前にはただ真っ白な空間が広がっていた。


 かろうじて空と地面の境界は見えるがそれもぼんやりとしている。


「どこだ?ここは…!」


 大声で叫ぶ儂の声は虚しくこだまする。


 何故このようなことに?一体何処なのだここは…!

 儂は必死に、記憶の糸を辿りよせる。


「お…思い出してきたぞ…!」



─────────────────────


 儂の名は転辺生転生斎(かるべなま てんせいさい)。

 彦根藩お抱えのごく普通の17の剣聖じゃ。


 藩主・井伊直生なおなまさま御観覧の御前試合で政敵でもある山丘一滴斎やまおかいってきさいを見事討ち果たした直後、儂も意識を失ったのじゃ!


 最後の記憶は…倒れて意識が薄れていく奴の顔を、ペロペロと舐めている儂の顔!!


─────────────────────


「何故儂が舐めとるんじゃ!!!」


 怒りと同時に、不安と恐怖が襲ってくる。


「むっ」


「すなわち…」


「儂は死んで、ここは天国ということかっ!?」



「ここは煉獄だゾーっ!」


 突然頭の中にクソデカい声が響く。


「!?」



 キュポポーン!



 奇妙な音と共に突然目の前に、暑苦しい、ざんばら髪の少年が現れた。


「オッス!転生斎!」


「ぬぅ!何者だお主!」


「オラの名前はキュポポンだぞ!」


「きゅぽぽんとな!?」


「きゅぽぽんじゃないゾ!キュポポンだゾ!」


「きゅぽぽんはきゅぽぽんであろう!お主は何者か!」


「オラはおめえの世界で言う神使しんしだゾ!」


「神使!?」


 稲荷神の神使…狐狸こりの類か?頭がこんがらがる。

 しかし、どうも儂が死んでしまったのは確からしい。


「この煉獄ってのはな、天国に行くタマシーがちょっとだけ待つ場所だゾ!」


 もはや儂の頭の中にこの少年の言葉は入ってこなかった。

 儂は、死んだのだ…。


心配しんぺーすんな!大丈夫でーじょーぶだ!」


試合しえーに勝った褒美に、オラの力でオメーを転生させてやれっぞ!」


「て…転生!?」


 転生。生まれ変わり。前世の記憶を持ったまま生まれ変わった人生を歩む…そんなことが出来ると申すのか!?


「どうすンだ?転生してみっか?」


「是非も無し!!もう一度、生まれ変わり幸せな人生を送って見せよう!」


「おっし、んじゃー、やーるぞォー!!」


 少年の言葉と共に、儂は光に包まれ、意識が遠のく。



 儂は…転生して…今度こそ幸せな人生を送るのだ………。

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