【短編】アンラッキー?

保紫 奏杜

アンラッキー?

「なんだよ、俺がびりっけつかよ」


 クラブ仲間たちの後ろに並びながら、俺はちょっとした悪態を吐いた。

 俺の前には、六人の仲間がいる。クラブ帰りに腹が減り、ちょっとフードコートへ寄っていこうぜということになったのだ。


「お前が並ぶのが遅かったんだよ」 


 そう言って可笑おかしそうに笑うのは、最近彼女ができたというリア充の佐藤だ。


「残りものには福があるっていうだろ?」

「フードコートになんの福があるんだよ」


 注文したものの順番で、良し悪しが変わってくるとは思えない。

 とはいえ、本気で最後が嫌なわけではない。ただちょっと、口寂しくて吐いたに過ぎない。

 そう思っていると、店の中で接客している女子が目についた。まだ手元がおぼつかない様子だ。バイトを初めて間もない、そんな印象を受ける。


 可愛いな。

 

 長い髪をきちっと結わえていて、清潔感がある。何より、一生懸命な感じがいい。

 なるほど、あいつが言うように、福はある。順番が来るまでこうして、さりげなく眺めていられるからだ。


 とうとう自分の番がやって来た。


「ソフトクリームひとつ」

「はい! あ、ありがとうございます!」


 元気な返事と共に、何故か慌てた様子で背を向けられた。一瞬目が合った気がしたが、すぐに逸らされてしまった。黙っていると怖そうに見えると言われたことを思い出し、もしかして怖がらせてしまったのではないかと不安になった。


 おそらく手にしたコーンにソフトクリームを巻いているのだろうと思われる女子の肩が、不規則に揺らいでいる。焦らなくていいんだぞ、と心の中で心配していると、女子がおもむろに振り向いた。その手には、完成した――想像を超えたソフトクリームがあった。七巻きはされているのではなかろうか。


「おわ! ジャンボ!」

「あ、あの! お、オマケしておきました!」


 顔を真っ赤にして差し出してきたソフトクリームを、俺は慎重に受け取った。微かに触れた指先の感覚が、痺れたように残っている。


 福、ありまくりじゃん。これって正しくラッキーセブンってやつだよな? 


「ありがとう」


 できるだけ爽やかな笑顔を返し、俺は大満足で仲間の元へ向かった。


「お~それすごいな。あの子、お前に気があるんじゃないか?」

「そ、そんなことあるわけないだろ!」


 心にもない謙遜をしながら、俺は冷たいソフトクリームを堪能する。うん、美味うまい。今日は特に格別な味がする。そんなことを考えていると、ふいに手元が濡れたことに気付いた。


「お、おわあっ」


 コーンに巻かれ過ぎたソフトクリームが、その重力と熱さに耐えかねてなだれてきたのだ。慌てて食べてしまおうとするも、時既に遅しだった。手がベタベタだ。制服にも付いてしまっている。


「あーこれはラッキーじゃなくてアンラッキーだったな……」


 溜息を吐き出せば、佐藤が面白がるような顔をした。


「そうでもないみたいだぞ。ほら」

「うん?」


 振り返れば、慌てて布巾を手に駆けてくる女子がいた。七巻きジャンボソフトクリームを爆誕させたあの子だ。


「お近づきのチャンス到来」


 佐藤にこそっと耳打ちされた。

 俺はベタベタの手で、彼女から差し出された濡れた布巾を受け取る。


 そうだな。

 こういうアンラッキーなら悪くない。


「えっと、ありがとう。俺、真部っていうんだ。な、名前、教えてもらってもいいかな……」


 少ししどろもどろになりながらも、俺は勇気を振り絞る。

 驚いた顔をした女子の頬が、目の前で可愛らしく色付いた。




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【短編】アンラッキー? 保紫 奏杜 @hoshi117

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