第3話、『配材]]

 ウィーン......チューン...ヒュイイイイイ......

 歯医者の様な音が響く。そこで行われている事は、全くと言って歯石取りのようなものでは無く...どう見ても外科の手術だった。

「骨がなぁ、邪魔なんだよなぁ...肋骨? でいいのかな? の辺りがウィーンって開いてくれれば...もうちょっと、そもそも前からなら...」

 ひとりブツブツ言ってるローザス。そんなにボヤいても何も返っては来ない、此処に彼の話し相手の人間は居ない...。

「あ、あれか...突撃して被弾したら、回り込まれない限り前が痛いのか...、だとしたら...しょうがないかぁ?」

 ぶつくさぶつくさ...と喋り続けるのは、イマイチ没頭し切れないからである。完璧に集中すれば、よだれを垂らしてでもお構い無しで続けるのだが...。安っぽい集中を引き出す為に逆に喋り続けているのだ。

「直しても五月蝿うるさいンだろーな...、配線を...こう、真っ直ぐ......にしたら、ねぇ......、よし、」

 初期よりは別ものレベルで綺麗になった配線を前に、満足気に頷くと...泣き別れになった背中を、元あるべき場所にはめ込み......

「電源の付け方......、」

 マニュアルを元に、電源を入れて起動。

『やっと...って!何よこの体勢はぁッ!?]]

 そういえば彼女は大股開いて作業台に抱き着いている様な...そんな体勢をしており

「あ、ごめん、思ったよりグデングデンになったもんで...むをずで、」

『ちくしょー......。ッ!? うぅ、急に何だか頭がゴーンって.......]]

「それは知らん、」

 すっとぼけた。

『ああああああああ......、やだやだやだやだやだやだ......もう出て行きなさい、良い事無いわよ!]]

「はいはい喜んでそうさせて貰います、」

 ローザスはそう言うと荷物を持って直ぐにガレージから出て行った...。

 静かになったこの一室で一人...アルキスは頭を抱えようとする。抱えようとして頭を下げ......

 ゴンッ!

『いっだぁあいぃぃ! ...このぉッ!!]]

 バァアンッ!! がぁああっごぉおん!!!

 軽く自身の体重70㎏の二、三倍の重量の作業台を2mぶっ飛ばすと...すぐに痛覚をオフにしてベッドの上でうずくまった。自分勝手だが彼女は泣きたいと思った、しかし、その目からは何も流れる事は無いのだ。


 つかつかつかつかつか....

 廊下を歩くのはディレオン、彼が向かう先は...

 コンコン!

『ローザス・イラ君、いるかね?』

 がちゃ...

「あぁ...、いますけど、なんでしょうか...、」

「少し飲まないかい?」

「下戸なんで...、僕がオレンジジュースみたいのでいいなら...、」

「いいだろう...。いや、私が頼んでいるのに"いいだろう"はちょっと無いか...はははは、さてこっちだ」

 ディレオンが先導で向かうのは...

「げぇ...、」

「どうしたんだ?何か問題が?」

「何かもどうも...、」

 向かった先は食堂...。そう、食堂なのだが

『最ッ低...]]

 先に座っているのは一人の少女...言わずもがなアルキスだった。

『信じられないわよそういうの、帰るワ...]]

「それは承諾出来かねん...上官命令だ」

「此方からもゴメンですよ!此奴コイツ...、」

『ああっ! 今コイツって言ったわね!? そこに座りなさい! ぶん殴る!!]]

「二人...」

「ぶん殴るだって!?こちとら分解してやるぞ!」

「二人......!! ...おっとすまない、気にしないでくれ...。ふぅ、二人とも黙ってそこに"並んで"座っていなさい...」

 ディレオンがその場を立ち去るのを見て...二人は睨み合わせると同時に口を開く...

「おまえは...、」『あんたは...]]

「はい、オレンジジュース、と超軟水......」

こと....

 互いに何か言いぶつけたかったがく中止。目から火花でも散っていそうな二人を見て、ディレオンは言う。

「アルキス、君はちょっと突っ込みが荒すぎる...少しは周りを理解しろ、そんな奴は真っ先にスクラップになるぞ?」

「そーだそーだ、」

『うぐ...!]]

 目線を逸らすアルキス、何処か勝ち誇った様なローザス。

「で、ローザス君...君は優秀だ」

ドヤッ!

 漫画ならこんな擬音がローザスの背中に見えて来そうだが...

「だが君も君だ...いいか? イジメってあるだろ?世間を騒がす問題のひとつ...。されてしまって欠陥ができた人の心をケアする...と言うのが少し常識風だろうが、一部の国ではイジメをした方が欠陥を持ったオカシイ人...として、そっちをケアするそうだ...」

『なによ...、私がオカシイみたいじゃない...]]

「それは...本当かもだからね、アルキス君にも一応自覚は有ったんだね...良かった」

グハッ!とアルキスが机に突っ伏す。

「そして私はローザス君、君に何を頼んだ?」

「そんなもの...直す事じゃ?」

「そうだ、言いたい事分かるな?」

 その"言いたい事"は誰でも分かるような単純な事だったが...まだ頭に血が上っていた彼は答えを直ぐに出す事が適わなかった、そして言われるのである...。

「君は...このむすめみたいな機械マシーンじゃないんだから、具体的じゃ無くても理解しておくれ?」

 それはローザスがアルキスに言った発言に似ていた...今になって戻ってきたのだ。少しアルキスは体勢は変えず震えている様子...それを見てローザスは頭が冷えるどころか、別ベクトルで加熱される...。

「ん?え?何かオカシイのか?」

『いーえ?ヒヒヒ]]

「続けるよ、......やって欲しい事...それは彼女を、機械人形としてでは無く一人のヒトに直す...という事だ。性格も兼ねてな?』」

「はい......、」

 俯いて返事。 余程何かが恥ずかしかった様だ...だがこれ以上ディレオンは追求しない...それは愚の骨頂だ。

「君は彼女の全面的な手入れを...ある国の生け花という文化は、真っ直ぐな心が大事だそうだ、それと同じ様に......」

「真っ直ぐ......、」

「そして花であるアルキス君も...少しくらい荒々しくても...それは素材の味とも言える、しかし何時いつまでも逆らって入れば、完成する前にくさっ崩れるぞ?」

『.........]]

 隣の"ご主人様"が見えないよう目線を下に頬杖をつくアルキス...

「で、まずはその橋渡しとして私が...そして仲良くなろう! 乾杯するぞ! 他の皆も一緒に! 飲み物ぐらいは私の奢りだ!」

おぉ...!

 一瞬ざわつきが走ると、その波を越えて大歓声...

「ぇぇえ!?」『えぇぇ!?]]

 そこからはただひたすらの大騒ぎ、揉まれに揉まれ切って...

「じゃあ解散! 二人ともよく寝るように! はっはっはっは......」

 ご機嫌にディレオンとその他の士官達は去っていった。残された二人、両隣でどちらも机で押し潰れていた...。

「何でこんな...、ぐふ...っ、」

『同感...よ]]

「同感か......、あー...早く帰ろ、」

『そうするワ...生きたヒトだったら汗だくでベシャベシャだったわよ、絶対...]]

「真に僕はベシャベシャ...」

『触らないでね...錆びるわ]]

「そんな精神不潔な奴に見えるかい、」

「どーだか...]]

 二人はゆっくり起き上がると...睨み合う気力も無く、有言実行...そのまま真っ直ぐ帰った。


 






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