第3話 父の本心

翌朝、ハマが居間に行くと、父の姿が見えない。

「あれ、父さんは?」

昨夜、あれだけの大ゲンカをしたので顔を合わせにくいが、謝りたいとも思っていた。


「父さんね、ちょっと散歩に行くって言ってたわよ」

母は笑顔で答え、朝食をテーブルに並べる。


「ふうん・・・」

ハマは気にしてない素振りをしながらも、

「(父さんも私に会いにくいんだ)」

と思った。


朝食を食べ終わったとき、母がハマの真横に座って話し始めた。

「ハマ、昨夜はありがとう」

「!?」

ハマには何のことだか分からなかった。


ハマの表情を察して、付け加えた。

「母さんはね、ハマが塾を継いでくれるって言ったとき、すごく嬉しかったのよ。もちろん父さんもよ」


ハマは母の顔をジッと見つめる。母は続ける。

「父さんはああ言ったけど、塾は私達の夢だったのよ。ハマに自分の想いを見抜かれたと思って、本心と違うことを言っちゃったのよ」


ハマは母の言葉に思い当たることがあった。父は照れ隠しに本音と違うことをしてしまうことがある。昨日も本音は塾を続けたいということなのだろう。


ハマが黙って納得していると、

「あなたの好きなようにやりなさい」

と母が穏やかに言った。


「母さん・・・」

母はハマの言いたいことが全て分かったという調子で、ハマの言葉を遮った。


「実はね、来月から入塾したい子がいるのよ」

母はノートを取り出して、ハマにも見えるように机の上に広げた。


「名前は薫ちゃん、中学3年生の子よ」

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