第18話 教皇の元へ。
「……やってくれたな。ロティアナと示し合わせて、随分と大胆なことを」
数ヶ月後。
教皇を拘束したというリザルドは、再会した途端に厳しい表情でクレッサを睨みつけて来た。
横でロティアナが申し訳なさそうに肩を縮こめたので、『しっかりしろ』と背中を叩く。
彼女とクレッサは、総本山で合流した。
そして、アルテやこちらの味方だった枢機卿らの力を借りて、どうにか教会の長として立つ体制を整えた後、改めて王都に赴いていた。
「結果的に上手く行ったから良かったようなものの、民衆を敵に回したらどうするつもりだったのだ」
「それはお互い様でしょう?」
クレッサは、ふん、と鼻を鳴らして、両手を腰に当てて胸を逸らす。
「そっちこそ勝手なことして、血気に流行った軍勢が、無血開城に納得しなかったらどうするつもりだったの?」
アルテに報告された時、実際、教会の人々とこちらの軍勢は一触即発だったのだ。
こちら側はクレッサが、隣国側ではアルテが信頼を得ていたことで、どうにか納得はしてくれて事なきを得たものの、少々混乱はしたのである。
そうして睨み合っていると、アルテが横から苦笑と共に割り込んで来る。
「結果的に誰も傷つかなかったんだし、それで良いんじゃないかな?」
「甘いわね」
そう悪態をつきながらも、クレッサは引き下がった。
今回の二度目の来訪も、目的あってのことだ。
クレッサとロティアナが、正式に聖女として教会の権力を引き継ぐ為の儀式と……拘束された教皇への面会である。
彼は既に、処刑されることが決まっている。
仕方のないことだとは分かっていた。
顔も見たことがない彼の行いによって、多くの人々が死に追いやられたのである。
生涯幽閉では、済まない……何処かで、民衆の目に見える形で決着をつけなければならないのだ。
だからせめて、一度面会をと望んだ。
一体どういうつもりでそんな事をしたのか、問い糺したかったのだ。
「じゃ、行きましょうか」
「休まなくて良いのかい?」
アルテの問いかけに、クレッサは首を横に振った。
「あたしのワガママで、処刑を待って貰ってるのよ。……これ以上、引き延ばせないわ」
人を殺すこと。
それがどのような形であっても、そこにどのような事情であっても、クレッサ自身の忌避感は拭えない。
自分が直接手を下す訳ではなくとも、確実に、クレッサ達の行動によって教皇は死ぬことになったのだ。
きっとそれは、生涯に渡って、クレッサの心を苛むだろう。
人の感情というのは、理屈ではないのだ。
恨む人々が彼の処刑を望むのと同じように、どんな悪人でも死なせたくないという、クレッサの気持ちも。
それでも、やらなければならないのなら、いつまでも躊躇っていることは出来ない。
リザルドの案内を受けて、クレッサ達は、教皇の元へと赴いた。
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