勝者

冨平新

勝者

 「ブロンディ!お前ならブッチャーに勝てるぞー!」

 「ブッチャー!ここでもお前が勝つ!絶対に、勝つ!」


 酒豪しゅごうたちの歓声かんせい怒号どごうが飛び交うダウニー町の露天酒場ろてんさかばで、

腕相撲の戦いの火蓋ひぶたが切って落とされようとしていた。


 タンクトップが筋肉隆々きんにくりゅうりゅうの上半身に張り付いて

はち切れんばかりになっているブッチャーとブロンディ。



 「へっへっへ。俺の右腕、見てみろよ。」


 ブロンディがブッチャーをにらみながらも、

ブッチャーの太過ぎる右腕をチラリと見てみると、

ダークグリーンで大きく、数字の『7』がられている。


 「俺は、この界隈かいわいの腕相撲選手達を総なめにしてきた。

100戦100勝、敗けたことがねえ。」

 そう言って、左手で右腕の『7』のタトゥをバシッ!と叩き、

ブロンディを睨みながらニヤついてみせた。


 「・・・フンッ!今回で連戦連勝はストップさせて頂くぜ!」

ブロンディは、腹の底からしぼり出した低い声で、うなるように啖呵たんかを切った。



 長身イケメン紳士に化身したスチュワートに肩を抱かれている三恵子みえこは、

ドキドキしながらブッチャーとブロンディから飛び散る火花を見ていた。



 レフェリーが睨み合う2人に近づく。


 2人が睨みながら右手を組み、

その上にレフェリーが右手を添えた。


 「レディ・・・ゴー!」


 群衆の歓声が飛び交う中で繰り広げられる熱戦。

 2人の右腕は一歩もゆずらない。

 熱く細かく震える両者の右腕からは、汗がき出るようだ。



 その時である。



 ブ~ン・・・


 グサッ!


 ハチが飛んできて、

 ブッチャーの右腕の『7』に

ハチの針がグサッ!と刺さった。



 「イッテェ~!!!!!」


 ズドンッ!

 ブロンディの右腕が、ブッチャーの右腕の上に重なった。


 ブロンディが勝ち、露天酒場は歓声に包まれた。


◇◇◇


 「腕相撲大会も終わったことですし、

そろそろ次のところに参りますか?」

 長身イケメン紳士に化身したスチュワートが三恵子に尋ねた。


 「ドキドキした。楽しかった!」

 三恵子が答えた。

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勝者 冨平新 @hudairashin

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